「うおおおおおおお!! 楽しいな! な、フィオナ!」
「ぴぃ」と気分よくしたフィオナは、くるっと回転したり、潜水したり、飛び跳ねたり、魔法で遊んだり、今まで過ごせなかった時間を取り戻すかのように全力ではしゃいだ。
一通り遊び終えて砂浜に戻ると、人だかりができており、こちらに視線を向けており、少し老けたオレガノ先生が何か喋っていた。
「何してるんですか?」
オレガノ先生も俺が目を覚ましてから、見舞いに来てくれたので、俺がフィオナと遊んでいることも知っているはずだが、いったいどうしたのだろうかと、近寄ると、オレガノ先生の周りにいるのは今年入って来た新入生のようだ。
「いいか、あれは特別だ。決して自分にもできるとか思うなよ? だが目指す目標として持つことは悪いことじゃない。さっきのは目に焼き付けておけ」
あ、こっぱずかしい話をしてますな。ここは退散させていただきます。ドロン。
そそくさとその場を離れる俺に向けられる羨望の眼差し。こんな視線を受けたことが無かったので慣れていないのだ。
去り際に聞こえたオレガノ先生の「歴史の一年生用のカリキュラム。まだ残ってるからな」という声は聞こえなかったことにしよう。
さて、今俺がどこにいるかと申し上げますと、学長室にて、神妙に眉を寄せたカリファラ学長と相対しております。
「さて、本日あなたを呼んだ理由ですが、王都から召喚申請が届いています」
「‥‥‥召喚申請?」
一体なんで? という疑問に対して、ある程度こうであろうという理由は思い当っている。第二王子を助けた件ではなかろうか。だとしても、もう三年も前のことだから今更掘り返さなくてもいいし、ぶっちゃけこの世界で遠出ってしたくない。だって馬車に乗るとケツが痛いんだもん。
「断るわけには‥‥‥行かないですよねぇ」
眼光鋭ッ! こわっ!
「分かっていると思うけど、これは名誉ある王様からの召喚申請よ。しかも召喚命令じゃなくて申請。最上級の礼節をもって当たらないといけないのよね。王侯貴族のマナーって、分からないわよね‥‥‥」
「わからないですねぇ‥‥‥」
過去に簡単なマナーなら習ったことがあるが、あれはきつかった。短期間で覚えるためにしこたま絞られた。あ、大事なことを忘れてた。
「ちなみに、それっていつですか?」
「体力が戻ってからでいいと書かれているけど、基本的には三週間てところね。大丈夫そうかしら?」
フラッシュバックするダンスにマナーの講習。魔物に襲われたことより、じわじわとずっと辛いこの講習の方が嫌なんです。
「まぁ、はい、大丈夫です」
「それじゃあ、講師をお呼びしておくからまた連絡するわね」
苦虫を嚙み潰したように苦し気に答えるも、カリファラはニコニコと手を動かし、スケジュールの確認をしていった。
頼む、優しい人よ、来い。
「あ、それと個人的な質問なんだけど、気に障ったのなら答えなくても構わない。‥‥・ある本で読んだのだけれど、臨死体験をすると夢を見るという話しを聞いたことがあってね。実際はどうなのかと気になっていたのよ」
「あー、そうですねぇ。‥‥‥本当に一瞬だけ寝てたって感じですかね。んで、『フォル』っていう単語だけ聞こえてきて、気づいたら両親が目の前にいたって感じですね」
少しだけ考え込んでから話すと「そうなのね」とだけ言い頷くと、会話が終わり、俺は学長室を退出した。
バタンと扉を閉め、廊下を歩きだす。
「‥‥‥話していいもんか分かんないしな~」
海竜の神様にあっただなんて。それに本当にただの夢だったのかもしれないし。
ランデオルスはあの時の夢を思いだしていた。畏れを纏ったような、でもどこか温かみのある夢を。
「ま、いっか。忘れよう、絶対面倒くさくなるから」
さて、話も終わったしなにをしようかと考えていると「ぐぅ」と腹の虫が主張してきたので、食堂に向かうことにする。
最近腹が空くのが早い気がする。体が肉体を構築しようとしてるせいなのか。元気になろうとしてる証だと言い訳を正当化して、好きなものたくさん食べることにした。
食堂について、メニュー表とにらめっこしているとポンポンと肩を叩かれ、目隠しをされた。
「だ~れだ!」
くんくん、この匂いは――
「イヴさんやい、おすすめのメニューは何だろか」
名誉のために言っておくと、匂いよりも声で判別しました。ホントですよ。
「えへへ、直ぐにバレちゃったね。で、おすすめ? ランディ殿も難しい質問をされますねぇ。でもやっぱりとんかつ定食に、半とろろ蕎麦と半天ぷらの追加かなぁ。あぁ、でも‥‥‥」
まだ悩み続けているが、そんなことよりめっちゃ食うな。
ほんで半とろろ蕎麦と半天ぷらってなんですの。半天ぷらってどこを半分にするんだろうか。エビとか尻尾側だったらちょっと損した気分になりそう。
「おばちゃん、とろろ蕎麦と半天ぷらで」
自分そんなに食えないっす。イヴはその細い体のどこに入るというのだろうか。