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血沸く~第四学年Ⅸ~

 頭をフル回転させて解決案を出そうとする。考えれば考えるほど頭は働かなくなる。何度考えようとしても現状がヤバいということにしか、思考のリソースが割けない。


 とにかく、海底にいる魔物が何なのかも分からない。そして敵は俺を標的にしており、フィオナとの合流を妨害してくる。


 フィオナも積極的に俺に近づいてくれているが、背中に乗せた第二王子を気にしてか、海中の潜ることも出来なければ、全力の機動力を発揮することも出来てない。


 だが、こっちにはもう一人、海竜を操れる調教師がいる。


「ぷはっ、ミラン先輩!」


 海面から顔を出し、ミラン先輩を見つけて名前を呼ぶ。すると、目が合い首を縦に振り、肯定の意志を示した。


 あぁ、大丈夫だ。やりたいことを分かってくれている。


「殿下こっちの海竜に飛び移ってください!」


 海千山千の貴族の狸爺を相手にして来た殿下も流石の判断力で、すぐさまミラン先輩の海竜に飛び移る。八艘飛びとまではいかないが、華麗に決めるとミラン先輩の手を掴み、そのまま海竜の背に突っ伏す。


 そして、すぐさま離れて、この場から逃れる。


 よし、これでいい。


 来い!


“ちゃぷん‥‥‥”


 静かに、何かが海面を沈んだ音がした。波の跳ねた水滴か。それよりも大きな――


 深海に赤い光の線が走る。かと思うと一気にこちらに近づく。


 凄まじい速さで海面に出てきて俺を横切ったのは、予想通りのフィオナ。かと思うと、俺の襟元を咥え宙に放り投げる。


 本日二度目の浮遊感。しかし、先ほどとはまた違う高揚感。こっからが、俺たちのターンだ。


 ドンっとフィオナの背に座る。


「ふぅーーーーっ」


 一息つくと、自分の手が震えていることに気が付いた。

 そうか、俺は怖かったんだ。そらそうか、死ぬ可能性っていうのはたとえ1パーセントでも、ある事がわかると震えて、心が冷たくなっていく。


 何度経験しても、命が潰える危険から生物は慣れることができない。


 ‥‥‥だったら。だったら、ただただ無機質に、冷たくなった俺の血の温度を上げろ。鼓動を鳴らせ、牙を尖らせろ。宴の始まりだ。


 思いきり笛を吹く。



“ビィィィィィィィィィィイイイイイイイ!!”


 波の音も、風の音も、フィオナの雄叫びも、もう聞えない。


 さあさあ、皆さまお立合い。遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。海龍の王とその従者が、家族となって、踊り、暴れて、舞って、どんちゃん騒ぎのお祭りだ。


 フィオナ。暴れよう。



「ぐろぁぁぁあああああああ!!」


 さてさて、海の底で引きこもっているあなたは、一体どこの誰ですかね?


 魔法で空気袋を作るとしっかりと鞍を掴んで、一気に海の中に潜る。だんだんと光が届かなくなるが、全く見えない程ではない。


 一見すると砂の上に目が浮かび、触手が伸びているように見えていたが、全体像が見えてきた。


 海底にその巨大な身体を隠し、触手だと持っていたのは尾ひれだ。


 そこにいるのは、あたり一面を自分の身体で覆い隠してるのは巨大なエイの魔物だ。


 まずは手始めにご挨拶。フィオナのレーザーが海中で放たれる。海中で撃ったからと言って、威力減衰なんてことはない。海はすべて海龍のものだから。


 敵の巨体では避けるなんてことは出来ない。ほとんど必中みたいなもんだ。


“ガキイィィィィン”


 当たると思われたフィオナの攻撃は、当たる寸前に何かに弾かれた。

 魔法障壁か。魔物の中にはフィジカルだけでなく、魔法を使うものがいる。その一種だったか。


 それにしても魔法障壁か。一瞬レーザーが当たった反動で、魔法障壁が震えその規模感が窺えた。

 アイツ、身体全体を魔法障壁で覆ってやがる。さて、どうしたものか。


 フィオナのレーザーから守れるなんて、相当に分厚い魔法障壁だ。かといって攻撃の手を辞めるはずもなく。


 魔法がダメならフィジカルで。押してダメなら蹴り飛ばせ。


 フィオナが体を加速させて、一気にエイに近づく。エイは先ほどと同様に体に踏ん張りが見えた。魔法障壁を展開したな。


 弾丸の通らない大岩でも、押して転がすことは出来る。魔法で出来ないことをパワーで潰すことが出来る。


 衝突する直前に、急停止して、ニヤッと笑う。エイの無機質な眼は何を思うのだろうか。


 魔法障壁を発動したまま、エイの尾ひれが止まった俺たちに狙いを定めて向かってくる。

 余裕をもって回避して、再び高速移動をして、大きく迂回して衝突する瞬間に急停止する。


 止まった俺たちを再び尾ひれが狙う。流石に移動してる間は攻撃されないか。


 海竜の速さに追い付けないエイは止まった瞬間を狙ってくる。


 そうだ。


 何度かの尾ひれの攻撃を避けたのち、攻撃が乱雑になったのを見計らって、今度はエイの身体の真上で止まる。鬱陶しかろう? 攻撃、来るよなぁ?


 俺たちの頭上から尾ひれが迫る。まだ避けない。まだ避けない‥‥‥今!


 ギリギリで回避した渾身の尾ひれは、勢い止まらずにそのまま自身の魔法障壁とぶつかる。


 キイィィィィィンという甲高い音が海中に鳴り響く。


 魔力共振。同じ魔力の波長の異なる魔法を丁寧に合わせると性質変化が起こり、より上位の魔法となる、それが融合魔法と呼ばれるものだ。


 しかし、同じ魔力の波長の魔法を雑に合わせると起こる現象が魔力共振だ。

 魔力共振が起こるとどうなるか、残念ながらお互いを打ち消し合うなんてことにはならないが、少しだけ、魔法が歪む。


 攻撃魔法なら、多少の歪みはあまり気にならないが、防御魔法なら大きな隙となる。


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