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第二王子~第四学年Ⅷ~

 フィオナに慎重に行けと指示をだしたからなのか、学校に着くまでの道のりが異様に長く感じるのは気のせいか。


 無言のまま背中から圧を感じ続けるのも嫌なので、会話をすることにする。えーと、何か話題話題。


「それで、何故あのような事態になっていたのでしょうか」


 ミラン先輩がぶっこみ過ぎじゃないかとでも言いたげな顔をしている。


 なんでだ?

 あ! 王子様が護衛も付けずに一人で旅行なんてするわけないのに、一人で倒れていたということは‥‥‥そうだよな、護衛の人はもう‥‥‥。


「あっはっは、護衛達の支度があまりにも遅いものでな、置いてきて、小舟で出発したらこのざまよ。恥ずかしい限りだ」


 ホントだよ。何してんねん。腕白か!


「一応お聞きしますが、そのことを、王都の城仕えの者や、護衛の誰かにお話しになってから出発しましたか?」


 ミラン先輩が、おそるおそる、いやどことなく諦めたか様に尋ねた。

 一国の王子ですよ。流石にそれは無いでしょう。


「‥‥‥」

「え?」


 本当に、真剣に、言ってますか? 

 思わず後ろを振り向いて、顔を確認してしまった。


 ゴリゴリに目逸らしてますやん。



「‥‥‥ランデオルス君、ちょっと急いだほうがいいかもしれない。」

「どうしたんです? 急に」


 ミラン先輩が先ほどよりも海竜の幅を寄せて、フィオナの後ろにピタリとくっついた。


「第二王子殿下、この者は貴族社会に疎いため、失礼を承知で殿下のことについて伝えてもよろしいでしょうか」


「‥‥‥う、うむ」


 なになに、ミラン先輩は剣呑な雰囲気をだしてるし、第二王子は気まずそうに返事をしている。知られたくないことなら、全然知らないままでいいんだけど。


 人の嫌がることをしたくないよ? おれ。


 俺のそんな気持ちとは裏腹に、ミラン先輩はポツリポツリと話し出した。


「ランデオルス君、殿下は特別なスキルを持ってらっしゃる。それが【悪戯ごころ】だ。このスキルは本人の行動がどうであれ、周りを少し困らせるスキルなんだ」


「それだけじゃ特に悪いことは無いような気がしますけど‥‥‥」


 この世界のスキルはいわば神の寵愛だ。神は大きな力を持つ上位存在で、気まぐれに寵愛を与えることがある。通常の生物、魔物とは隔絶された絶対的な神は、そのスキルが当人にとってどうであれ、大きな力を与える。と本で書かれてあった。


 しかし、周りを困らせるだけって‥‥‥。正直ちと弱くないか?


「通常時はね。周りに迷惑を掛けないように、品行方正にすればするほど、そのたまりにたまった善が反転して、大きな悪になる。それは悪戯で済まされなくなる」


「じゃあ、第二王子として立場のある殿下は‥‥‥」


「もちろん、溜まっていたのだろう」


 それで、溢れだしそうになった自分のスキルを、誰にも迷惑にならないように解放しようとして、一人でヒヅメ島に来たのか。


 それで、死んでしまっては元も子も無いような気がするが。


「‥‥‥まぁ、そう言うことだ。迷惑をかけるな」


 眉を寄せ、唇をかみしめる第二王子。


 ん? まてよ?


「掛ける? もう、一旦リセットしたんじゃないですか?」


「言っただろう? 【悪戯ごころ】は周りに迷惑を掛けるスキルだって。たとえ本人が被害を被っても、まだ終わらない。周りになんだ。」


 あ、あぁ~、なるほど?


「不幸中の幸いと言うべきか、ヒヅメ島に着くまでに、海の生物たちにその矛先が向いていたから多少は減っているはずだ。まぁ、そのせいで死にかけたんだけどな」


 しみじみと呟く第二王子の顔は少し物憂気だ。これまで大変な人生だったのだろう。


「なるほど、海の上より、陸の方がまだ死ぬ確率は少ないかもですね。わかりました、少し急ぎます。殿下、しっかり捕まっていてください。フィオナ、全速前進! 超特急で!」


 視界が一気に加速する。数舜後に身体に強い負担がかかり、持っていかれそうになるのを必死で耐える。


 死にたくねえええぇぇぇぇぇぇ!!


 このまま、本土まで、せめて誰かが見える範囲まで。



“ぬらり‥‥‥”


 視界に何か入ってきた。そう知覚するのと、身体が宙を舞っていると気づくのはほぼ同時だった。


「ガはっ‥‥‥」


 横腹痛つぅ。ゆっくりと進む世界の中で第二王子の顔が見えた。よかった、体制は崩しているものの、しっかりとフィオナの背中に乗っている。


 ふふ、フィオナもこちらを見て変な顔してる。


 助けて、くれるよな? 最後に目が合ったフィオナに目線だけで発破をかける。


“どぼんっ、ごばぼぼぼぼぼ”


 島育ち舐めるなよ。

 俺は焦らずに急いで服を脱ぎ捨てる。海水を吸った服は鉛のように重くなる。冷静に、冷静に、れいせっ――


「ばばうぃ!」

(やばい!)


 海の中に注意を向けると、ちょうど深海の底からぎょろりとした目玉が確認できた。そしてその目玉から伸びる触手がこちらに伸びてきているのも。


 急いでその場を離れる。なんとか直撃を免れる。その隙に近づいてきたフィオナの鞍の足踏みに捕まr――。


「ぐぼっ」

(くそっ)


 しかし、触手の第二撃がそれを許さない。


 どうする。相手は海底の安全圏から攻撃を仕掛けてくる。第二王子だけ逃がすことは可能だが、その場合俺はここで死ぬ可能性が高い。


 どうする。どうする。

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