目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
報告と結果~第四学年Ⅴ~

「そうですか、損傷箇所が膨れ上がって再生、しかし自重で動けなくなってほとんど自滅に近いと」


 カリファラ学長は俺たちの話を自分でかみ砕いて処理しているようだ。ペンをコツコツと紙に当てている。


 そもそもシーホースがこの地域にいることがおかしいのだ。大陸の北部に生息するシーホースがここらで姿を見せるとなると、誰かが連れてくるしかない。


 魔物を手なずけた、というよりは催眠で従わせたに近いだろう。少数の人間には襲わず、大所帯の人間にだけ反応する様に仕込まれていた。

 あそこが療養地であることを考えると、襲われた可能性があるのは、俺たち生徒の他にこの国の貴族。


 魔物の肉体改造、身体をいじくり倒して、人工的なキメラをつくる。そんな技術は聞いたこともない。もしかしたら、上層部のみで秘匿されている技術、という線もあり得るが、そんなことはどうでもいい。


 外国にしかいないはずの魔物が、誰かの手を施され、この国の市民を襲った。この事実は覆らずに存在する。この国の内部に存在する反乱勢力なのか、外国からの刺客なのかも関係ない。


 ただただ魔物がいただけならまだしも、誰かの手が施されたという点が重要なのだ。分かりやすく前世で例えると、自動操縦の武器を搭載されたその国独自の製品が他国で発砲なんかしていたらどうなるだろうか。


 外交問題として、火種の材料となりえる。


「報告は以上だな。よしではランデオルスは退席してもらって構わない。インパス先生はもう少しだけお付き合いお願いします」


「はい分かりました」


 俺はこれから教室に戻るべきなのだろうか。そのまま寮にでふて寝は‥‥‥流石にダメか。

 重い足取りで教室に向かう。




「それでインパス先生、今回の件で不幸中の幸いというべきでしょうか。ランデオルス君及び彼の手なずけた海竜の戦闘力を計れたと思います。‥‥‥どうでしたか?」


 静かに閉じたドアをしばらく見つめてから、カリファラ学長が尋ねた。


「凄まじいですよ、本当に。人間が操作するものとは比べ物になりませんでした。あれこそが魔物だと久しぶり実感しました。相手の魔物も若干の動きの鈍さがあったとはいえ、大きな傷もなく勝てたのは彼らのお陰でしょう」


「それほどに」


 海の覇者。海を統べて、海を壊し、海を守る最強の竜種。長年海竜を見てきましたが、恐ろしく思ったのはいつぶりでしょうか。


 彼の騎乗している海竜と、私の騎乗している海竜が同じなのかと疑うほどに。元海龍だからでは済まされない差を感じました。


 まるで海竜の可能性そのもの、完璧とまで言われる海竜のそのさき。


「やはり、ランデオルス君のやり方を早めに確立させた方がいいかもしれませんね。その魔物改造が完成するよりも早く」


「そうですね、上からの圧力もありましたが、そういうことだったのでしょうか」


「それは、知らない方がいいというやつなのでしょう。ですが、最悪を想定して動いていきましょう。我々は我々で、こことここの生徒を守る義務がありますから」


 私たちは教師だ。出来ることは生徒の歩く道を照らすこと。新たな方法を確立することでそれが出来るなら、私は全力で取り組むべきだと思う。





 どっと疲れた。教室に戻ると、案の定他の生徒から事の顛末を聞かれた。どこまで喋っていいのか分からなかったので、無難に、普通のシーホースをインパス先生と共に倒したという事にして話した。


 それで納得してくれた人もいれば、納得しない人もいた。その多くが男子生徒だったのは、やはり冒険譚が好きだからなのだろうか。


 その後の授業は、普通に進行した。こういうとき早めに終わるとかは無いのね。逞しいのやら、危険になれているのやら。


 寮に戻ると、イヴが迎えてくれた。今日の朝も会っていたが、久しぶりの再会に感じる。それほどに自分の中で濃い体験だったのだろうか。どっちかと言うとシーホースよりもその後の質問攻めの方が疲れたように感じたが。



「大丈夫だった? 魔物に襲われたって聞いたよ?」


「あぁ、インパス先生と協力して倒して、こっちに大きな被害はないから大丈夫だよ」


 優しさが身に沁みる。おかんの味噌汁ぐらい沁みる。あ、やばい、猛烈に前世の母親の味噌汁食べたくなってきた。


「それでも、無事でよかったよ。あ、それと一つだけ、聞いて欲しいことがあるんだけど」


「ん? どしたん」


 なんでもどんと来なさい。


「今日の授業で笛を渡されて、吹くように言われたんだけど、これってランディの笛と同じやつ?」


 イヴの取り出した笛は、俺の首にかかっている物と同じだった。これは、そういうことか?

 いよいよ本格的に試すようになったのか。


「‥‥‥吹いてみてどうなった?」


 恐るおそる尋ねる。出来てしまったら調教師の未来はないかもしれない。



「海竜は、笛を吹いた僕たちに興味を示していたね。これまでで初めてってくらいに、でもその先の懐いてくれるって感じはなかったよ」


「そ、そうか」


 恐らく俺のはじめてのときと手順はほとんど同じ、違うとすれば海竜の育ってきた環境か?



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?