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襲撃~第四学年Ⅲ~

 チンさむロードって一瞬だけだったから楽しかったんだな。ずっとやってたら気持ち悪くなってきた。船酔いってこんな感じ?


 と、ダウン気味の俺に対して、フィオナは気分が上がっているのか、ずいぶんとスピードを出して泳いでいる。


 島の裏側まで到着してしまった。


「この辺は遊ぶ場所ではなさそうだな」


 生徒が辿り着いた方は、波も穏やかで、緩やかな傾斜で比較的浅い海だったが、ここは断崖絶壁、波は大きなうねりを生み出して、いたる所に渦巻が発生している。


「海竜じゃなくて、船でこっちに来ていたら海の藻屑一直線だな」


 だからね、フィオナさんはしゃいで体を揺らさないでね。

 気づいてないかな? さっきから俺の鞍を掴む手の握力がとんでもない力を込めているの。


「っと、そろそろ時間だから帰ろうか。遅れて行くと印象が悪くなっちゃうよ」


 そう言うと、遊び足りないのか少し不満げな顔をするも、大人しく従って来た道を引き返していった。


「ん?」


 視界の端で何かが光った気がした。


 そちらの方を向いてみるも、何もなく殺風景な崖と荒々しい波があるだけだ。


 海面が太陽の光を反射しただけかな? 俺はそのまま気にしないことにして皆のいる方へ急いだ。




「よーし、そろそろ皆集まってください。もう一回行軍訓練しながら本土に帰ります」


 インパス先生の号令を聞いて次第に集まってくる生徒たち。俺もそれに紛れて、フィオナを待機させておく。


 皆の準備が完了したのを確認してインパス先生を先頭に出発した。


 俺たちが辿り着いたヒヅメ島の砂浜は本土から見て反対側、つまり先ほどの断崖絶壁側をまっすぐ進むと本土がある。


 なので一回ぐるっとヒヅメ島を半周するわけだが、ちょうど断崖絶壁を横目に通り過ぎたとき、俺はまたもやフィオナに行軍を任せて、先ほど光った場所を見てみる。


 ‥‥‥やはり何もない。


 見間違いだったのかな。そうか、それならいいんだけど。過敏になりすぎたか?


 気を取り直して前を向こうとしたその時だった。フィオナが急に進むのを止め、勢いよく振り返り身構えた。


「ぐぅぅるるるぅぅ」


 海竜の出す威嚇音をこれでもかと響かせる。その重低音は、先頭のインパスまで聞こえていたようで、他の海竜も連鎖する様に嘶いたかと思うと、インパス先生の声が響く。


「全員、眠り笛を吹いて、至急、この場から離れろ、ただ真っすぐに本土に向かえ!!」


 その号令の直後、統率乱れてちらほらと眠り笛を吹く生徒たち。


 俺は一瞬の判断で指笛を吹いた。多少なりともフィオナの硬直を減らすためだ。そのおかげか、少し戸惑ったようにふらつくも、フィオナの集中は切れていない。


 そして、続々と本土へ向かっていく海竜たち。先頭のインパス先生だけは逆走して、こちらに向かってくる。


 二匹と二人で揺らめく海面を睨みつけながら話す。


「ランデオルスくん! なぜ逃げなかったのですか!」


「フィオナは元ボスである海龍です。群れが後ろにいる状態で、無理やり逃げさせても精神に相当負担がかかります。それにフィオナが戦うのが一番生存率高いです。」


 インパス先生の生徒を前線に立たせるわけにはいかないという意見はごもっともだが、ここで引いたら他の生徒にターゲットが移る可能性がある。


「分かりました‥‥‥魔物との戦闘経験もしくは、戦闘訓練の経験はありますか」


「はい、どちらもあります。ですが、恐らくフィオナに攻撃の全権を委ねる方が勝てる見込みは高いです」


「分かりました。私がサポートに回ります」


 短いやり取りで方針を決める。お互いに目線は前方の海を見たまま。集中は切らさない。


 ふと、波の荒々しさが止んだ。


 来る。


“じゃっばあああぁぁぁぁぁん”


 大きな水飛沫を上げてその姿を現したのは上半身が馬の姿で下半身は魚の姿、シーホースだ。だが、しかし――。


「なんでこんなところにシーホースが」


 シーホースは本来この辺の海域には出現しない。もっと北の方の魔物なのだ。


 何かがおかしい。何故さっき俺とフィオナしかいないときは狙わずに、集団でいる時を狙ったのだろうか。いや、今は目の前の魔物だ。


「フィオナ、俺は気にしなくていい。行け!!」


 唸り声をあげて威嚇していたフィオナは、その身体がバネの如く弾けた。


「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 咆哮と共にその牙がシーホースの首筋へと迫る。


“ガチンッ”


 避けられたか。尾ひれが弧を描いて飛んでくる。


「っぶね!」


 本当にフィオナは俺のことを気にせず自分の動きやすいように回避するので、俺も気を抜けない。


「体勢立て直して!」


 インパス先生の魔法が水の槍となって空ぶったシーホースに襲い掛かる。そして続けざまにインパス先生の操縦している海竜が遊撃にまわる。


 何度かの攻撃の応酬の後、互いにギリギリのやり取りをしてわかった。このシーホース理性がない、そして異常なほどに力が強い。まるで、脳のリミッターが外れているようだ。


 だったらやりようがある。


「先生! 一瞬だけ、隙を作れますか!」


「任せなさい」


 フィオナが大立ち回りして、意識を逸らす。その隙に背後から、インパス先生が魔法を放つ。


 気が付くのが遅れた様で、回避が遅れる。


 よし、体勢を崩した! 今だ。


 フィオナが魔法を放つ、人間の魔法とは馬力が違う。丸太の様なレーザーが生まれる。その勢いで周囲の空気や水がはじけ飛ぶ。


 シーホースはその攻撃を余裕を持って回避した。


「gyauuu!?」


 回避したはずなのに当たったことが不思議かね? 


 俺の魔法で目の前に薄い水の膜を張った。光の屈折率を知らないだろう。魔力で作った特別な水だ。屈折率も大きく上げたことで、レーザーの位置を誤認識させた。


 やったか、なんて言わないぞ。


「やったか!?」


 ちょ、インパス先生!!

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