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口笛~第四学年Ⅱ~

「ぎゃおおおお? ぐああああ? そんな汚い声出しますっけ? 海竜って」


「いや、たまに喧嘩してる海竜がそうやって鳴いてるところを見たことないか? 逆に通常鳴いてる海竜なんて見たことないんだけど」


「そうなんですか? 普通に鳴いてますよ。ピィーって」


 四年間この学校にいて声聞かないんなんてことあるのか。う~ん見本を知らない状態でやってもらうのも難しいだろうからな。そうだ!


「フィオナの声を聴いてみてください」


 ということでやってきました。岩陰で休んでいる海竜たちの群れの中、海竜たちの視線が突き刺さるようにして、膝下くらいまで海水がつかるように海の中を歩きていく。


「っ!」


 首をもたげた海竜に反応して、生徒の一人が眠り笛を咥える。


「吹かないでください、大丈夫です、そのままその手を降ろしてください」


 慌てて制して、止めさせる。それだけで海竜たちの圧が薄くなる。分からんかな、その笛を海竜たちが気にしていること。海竜をもっと見てくれ。


 びくびくと震える脚は、海で冷えたわけではないだろう。そんな脚で辿り着いたのは、海竜たちの群れの奥。鎮座するはかつての王たる海龍。フィオナ。


 ふふ、あえて威厳たっぷりの演出だしてるなこれ。意地っ張りさんめ。


「フィ、オ、ナ! ちょっと鳴いてみて欲しいんだけれど‥‥‥ダメ?」


 フンと鼻を鳴らすフィオナ。威厳を保ちたいのだろう、けれども時々頭がぴくっとなっている。こちらに頭をぐりぐりと押し付けようとして、ダメだダメだと頭を振っている。理性と欲望の葛藤で変な顔をしてる。


「お願いだよ。ちょっと声を聴きたいだけなんだよぉ」


 お願いっ! と手を組んで俺のチート発動! 上目遣い! きゅるるん。


「フスッ」


 あ、今鳴きそうになった。あと一押し。


「ほらおいで、なでなで~」


 手をわきわきすると、撫でられた時の快感を思いだしたのか、遂に観念して頭を差し出した。

 なでなでしながら、さらに頼み込むと、小声ながらも声を出してくれた。


「ぴぃ‥‥‥」


「ほら、聞いた!? 聞いたよね!? 」


 後ろを振り向き、皆の顔を確認する。ちょっと短いけど、音の感じは分かっただろう。これを基に皆に笛を吹いてもらえばレポートの一次資料にばるだろう。ってあれ?


「あ、ああ。聞こえたは聞こえたが‥‥‥」

「それよりも、本当に意思疎通図れるんだ‥‥‥」

「頭を撫でさせてる‥‥‥」


 ぽかんと口を開けた状態で固まってしまっている。何度目の光景だろうか。



「ぴぃー、ぴぃー」

「ほら、ちゃんと聞いてください。この声ですよ」


 呆然とした皆に発破をかける。皆にはこの音を覚えて貰って再現してもらう予定だからね。


「よし、今は笛がないから口笛で試してみましょう」


“ぴゅー、ふひゅー”


 ん~、顔の筋肉がまだ未発達だから巧く吹けないや。力強く息を吐いてもそれに頬の筋肉が対抗できない。四年生はどうだろうか。


“ピュー、ピィァー、ピィー”


「お、今の音近いんじゃないか?」

「そうそう、良い感じです。‥‥‥さて、海竜たちの反応は」



 無反応。無反応というより、一応反応はしているけど、何してんだとでも言いたげな顔をしている。


「もう少し強く吹くこと出来ますか? こう力強い感じで」


 ふぅー、ふぅーと大きく息を吐く手本を見せて伝える。


 多分音が弱々しいのが原因ではなかろうか、音が大きく、伸びて響くような感じをもっと出せればもしかして反応するかも。


 分かったと、頷き大きく息を吸い込む。


“ぴぃいいいい“


 お、良い感じだ。だいぶ似てるのではなかろうか。さて、反応はいかに。


 見てる! 見てるぞ! これはワンちゃんあるんじゃないか? 


「もう少し続けてみてください」


“ぴぃいいいいい”


 今度はそっぽ向いてしまった。あれは誰が吹いてるか見てるのか。んー姿を見せた状態ではだめっぽいなぁ。ちなみに、俺だった場合はどうだろうか。


“ぴょーーーー”


「ぴぃーーーーー」

「「「ぴぃーーーーー」」」


 フィオナに続いて他の海竜も鳴いている。おい、俺の場合なんでもいいじゃねぇか!

 あと、フィオナ。他の海竜に目線で吠えるのを強要したな? こら、そういうのはダメだぞ。



「んー、うまくいかなかったですね」


「ダメだったか」


 肩を落とす生徒たちに「また何か思いついたら試してみましょう」と言うと、元気を取り戻し、大きく頷くと、砂浜で遊びに戻っていった。


 その後ろ姿を見送り、俺はフィオナと遊ぶことにした。


「何して遊ぶか。いつもはフィオナの相手というより、俺の相手をしてもらってるだけなんだよな」


 そう、海竜はあまり娯楽を必要としない。とは言いつつ竜舎から出して海で遊ばせるのはそっちの方がいい気がするというだけだ。


 脳波測定やら、大規模な実験などが出来ないために、その辺の証拠となるような文献もない。

 あくまで人間目線で気分転換が必要だろうというだけだ。


 だからフォルとかも俺の釣りに同行させていたし、フィオナも放課後会いに行ったりしている。


「まぁ、ぶらぶら散歩しながら考えるか」


 フィオナの背に乗り、島の外周を回り始めた。


「なぁ~、フィオナさんやい。あなたは何で楽しみというものを感じるんだい?」


 ぺしぺしと背中を叩いて様子を伺うと、こちらを向いて「えへへ」という翻訳が付きそうな顔で笑ったかと思うと、勢いよく背中を丸めて、一瞬ふわっと俺を浮かせた。


「フィオナ~‥‥‥ま、いっか」


 ケタケタと楽しそうにしているフィオナを見ると、それでも良いかと思えてくる。俺をおちょくることが趣味かな?


 しばらくこの世界で初めてのちんさむロードを体験し続けた。

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