「えー、飛び級でこの四学年で学ぶこととなりました、ランデオルス君です。皆さん仲良くしてあげてください」
インパス先生に連れられて、入った教室にいた生徒は当たり前だが、皆背が高い。子供の成長速度というのは凄まじいですな。たった三年でこんなに差が生まれるのか。
「ランデオルスです、よろしくお願いします。この学校に来る前は調教師の仕事を手伝っていて、海竜操作はもう出来ているということでこの学年に入りました」
俺の自己紹介を聞いて、心の中に抱いていた疑問が解決されたようで、ほとんどの生徒の顔が柔らかくなった。
「ということで、席は後ろだと見えないでしょうから、前の方にしようと思います。なので、今日はサッと席替えでもしますか」
「「「「やったあ」」」」
娯楽の少ないこの世界で、こういうイベントはとても喜ばれるようだ。というかこの先生、席替えとかのイベントやるタイプの先生だったのか。
あ、眼鏡の奥で、分かりづらいが優しく微笑んでる。普通にいい先生だった! 職員室から持ってきた箱は何だろうと思っていたが、席替えくじだったのか。
席替えが終わると、心機一転といったように教室内の空気も明るくなった。
俺の飛び級に関して考えている生徒はもういなかった。俺に対する視線ももうなくなっていた。
うまいな。他のイベントで俺のことをかき消した。この先生、いい先生だけじゃなくて、出来る先生だ。この学校の教師陣もしかして優秀?
よし、俺も頑張るぞ。
「よし、この辺で歴史の授業は終わりだ。次は実習だったな、分かっていると思うが竜舎集合な」
「「「「はーい」」」」
俺は魂が抜けたように机に突っ伏していた。
な、何も分からない。分からないのに、話はどんどん進んでいく。それを理解するために前の知識を覚えておかないといけない。
これは、のちのち頑張ろう。しなしなになったその足で竜舎に向かう。いいんだ、海竜に癒してもらおう。
「それじゃあ、今日は初めてのランデオルスくんがいるので、いつもの行軍訓練を少し遠くまで行って、ヒヅメ島で少しゆっくりして帰るか」
ヒヅメ島って何だろうと考えていると、顔に出ていたのか隣に立っている女の子がこっそりと耳打ちしてくれた。
「ヒヅメ島って言うのはここからちょっと行ったところにある無人島で、たまにお偉いさんが療養してることもあるんだけど、ほとんどいないから、こうやって私たちの遊び場になってるんだよ」
耳がこそばゆい。
それにしても、療養のできる無人島か‥‥‥。いいな、いつか俺も無人島勝って、畑とか耕しながら、鶏や牛も育てて、あぁ、夢のスローライフ。人の夢と書いて儚い、か。辛い。
ちなみに行軍訓練とは、隊列を組んで、自分のポジションからはみ出ないように付いていくだけだとか。
簡単そうに見えるけれども、自由奔放な海竜の統率をとるのは、難しい。魔法の強度や、その日の機嫌、相性なんかもあるからちゃんと練習しないと出来ない。本来はね。
「よーし、それじゃあ出発します。皆さん遅れないように付いてきてくださいね」
そうして、始まった行軍訓練は先生を先頭に三列縦隊で進む。俺は一番最後でみんなの背中を見ている。
なんだかんだ言って皆集中してる。そのかわりか、隊列は乱れることなく進んでいる。練度が伺えるその様子に感嘆を上げる。
「おお、凄い壮観だな。俺の方法確立させなくてもいい気がするけどなぁ、ねぇフィオナさんやい」
俺は一応出しておいた水球二つを解除して、鞍の背もたれに身体を預けて、空を見る。大きな入道雲が、夏の訪れを知らせているような気がした。
のんびりとフィオナに前の海竜たちについていくように指示を出したらあとは寝てても付いていってくれる。
というのは冗談で、他に何か興味を惹かれることがあったらそっちに行ってしまうこともあるので、起きておく。好奇心旺盛なのだ。
そうしてしばらくすると、無人島が見えてきた。
海竜たちの隊列はその島に方向を揃えて進んでいく。あれがヒヅメ島かな? 結構小さいんだな。
想像していた無人島は過去にひどい目にあったからな。大きい無人島だと危険があるかもしれないと少し身構えていたが、小さくて安心した。
「全員着いたな。よし、ここでしばらく、海竜たちを休ませるから、好きに行動してていいぞ。だけどこのビーチからはそんなに離れるなよ。集合時間に集まらなかったらおいていくからな」
インパス先生の注意喚起ののち、生徒たちはおのおの空を見たり、海で遊んだり、散歩などをし始めた。俺は何しようかと考えていると、さっき耳打ちしてくれた女の子を含めた複数の生徒が近寄って来た。
「ねぇねぇ、ランデオルス君はどうやって海竜を懐かせたの?」
ほうほう、これまで何度もされた質問だ。いつも通りに答えようかと思ったが、ここで、レポートのことを思いだした。少しくらいはレポートで従順な振りをしておこうと思う。
「笛を吹いてたら仲良くなったんだけど、少しだけ海竜の声に寄せてる意識はあるかな」
「海竜の声?」
「ぎゃおおおとか、ぐああああとか?」
「「?」」
俺も生徒たちも頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。