「えーっと何で呼ばれたのでしょうか」
「ほんとうに分からないのかい?」
「いえ、フィオナが他の人を乗せなくなった件でしょうか」
「分かっているようで安心しました。自覚はあるようですね」
休日、寮で休んでいるところに、先生につれだされ、会議室に呼び出された俺は、面接時の様な配置で、目の前にはカリファラ学長、オレガノ先生、そして見知らぬ男性の三人に圧迫面接されている。
冷や汗ダラダラです。俺どうなっちゃうのだろうか。
「結論から先に言います」
「はい」
変な要求だけはされませんように。
「ランデオルス、あなたには三つ上の学年に編入してもらいます。そしてフィオナ専属調教師になってもらいます。ただし、あなたの調教の方法を他の人も出来るように確立することに努めなさい。期限は卒業時です。もしそれが出来ないと、フィオナをここに置いておく訳にもいかないですし、他の学校も、軍も受け取ってはくれないでしょう。民間人で海竜を引き取れる者は限られてくるでしょうし、その中で適切な海竜の世話を出来るものは果たしているのかどうか‥‥‥」
「はい」
ぐぬぬ、あまり広めたくないんだよな。
理由としては、仮に俺の方法が他の人でも出来たとして、その人だけに懐くという仕様だった場合、調教師が卸して海竜騎士が乗るという今の流れが通用しなくなるので、海竜騎士が自分で世話もこなすようになってしまうかもしれない。
するとだ、調教師の需要が減り、仕事は無くなる。俺たちの島の生活が出来なくなる。島の仕事も文化も何もかもがなくなってしまう可能性がある。
それは‥‥‥よろしくない。皆の生活も、これから生まれてくる子供たちの未来も、祖先たちが持ち続けた誇りも、俺の行動一つで全てを失うことになる。
しかし、それが出来なければフィオナは天寿を全うすることなく、死ぬことになるだろう。
‥‥‥選べない。どちらも選びたい。
汗が頬を伝う。やけに静かな部屋が耳鳴りを起こす。
「ランデオルス君!!」
「は、はい」
呼ばれて顔を上げる。あ、俺俯いていたのか。
「何度か読んだのですが、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですけど」
「すみません、少し、考え事をしていました」
「そうですか、暖かくなってきましたからね。体調管理には気を付けるように」
本当に。じんわりと窓から入ってくる空気が夏の始まりを知らせてくるように生温い風が入ってくる。
「その、それはもう決定事項なんですよね?」
「その通りです。私たちも苦渋の決断ですがね」
でも、専業の調教師とは違い、調教の仕方を教える仕事はなくならないだろう。背負うものが違う。
それにイヴと会う機会も寮だけになってしまうのか。寂しくなりそうだ。
「そして、こちらがあなたの編入する四学年の担当教師であるインパスだ。とはいっても、一般教養、というよりも歴史が追い付かないだろう。それは別に時間を設けるので、頑張って欲しい」
ん? 俺だけ授業が増えるってこと?
「そして、魔法の授業と実習では、授業を受けて学びつつあなたの方法を確立させる方法を考えて欲しい。この学園とあなたのやり方は全く別物で、ウチはあなたの方法が出来ない。あなたは魔力量ゆえにウチの方法が出来ない。なので、授業についていけなくても成績不振で退学になることはありません」
退路を潰された。そのままフェードアウトすればなぁなぁになると思ったのに。
だけど、まだ卒業まで実質三年ある。それまでに結論を決めよう。
「大まかな話はこれで終わりです。あぁ、それと毎週レポートを提出してください。疑問点や気づいたこと、あなたのやり方を確立するためのヒントになりそうなことなどを書いていただければ問題ありません」
「はい、分かりました」
学園側では、新しい方法の確立は是が非でも成し遂げたいのだろう。それが達成されれば、学園の権威の向上、予算の増大、新たな可能性の発見という自尊心の保持、良いことだらけだ。
「では、退室してもらって大丈夫です。あ、明日の朝に職員室に来てください。インパス先生に教室まで連れて行ってもらってください」
「はい、失礼します」
ガチャンとドアを閉める。
‥‥‥あぁ~~~~~!! どうすればいいんだぁあああ!!
両手で頭を抱えて体をくねらせる。
いたたた、お腹も痛くなってきた。
えーっとぉ? レポートは提出するぅ、その際にどれくらい情報を与えるかが問題でぇ、でも俺もまだまだ知らないことだらけだから、ワンチャン俺の方法でやっても誰も上手くいかないという一縷の望みがあるわけなんだけどぉ、あぁ、なんとかならんかな。
‥‥‥腹減った。考えすぎてお腹すいてきた。食堂に行こ。
「う~ん、何か食べたいと思うんだけど、なんかいまいちピンとこないんだよなぁ」
食堂のメニューを眺めていても、栄養バランスを考えられたものが多く、逆にガツンと来るようなジャンクフードは少ない。
「あら、噂のランディくんだねぇ。どうしたんだい?」
「あ、コリーおばさん」
お久しぶりですね。相変わらずの人の良さそうな皴の多い笑顔だ。
「ふふ、悩んでいる顔をしているね。それじゃあ、行くかい?」
皴の線が濃くなった。