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メモ~一年目Ⅷ~

「フィオナさんや、少し体を伏せてくれませんかね」


 するとフィオナはやすやすと体を下げて、俺に登るように促している。断るとまた不機嫌になりかねないので、ちゃんと乗ってやる。


「ハイ乗れました」


 困ったような笑顔しかできない俺に対して、フィオナは鼻を高くして、誇らしげにキメている。どうやら周りの海竜に誇示しているらしい。周りの海竜からの視線もどことなく変わったような気がする。


 あ、あれか。「あの気難しい人が心を許しているぞ、きっとすごい人に違いない」てきなやつか。


「もし、お前の過去の出来事通りになるのであれば、大きな問題になるぞ」

「‥‥‥ですよね。どうしましょ」


 それはそう、悪く言えば生徒の教育のために持ってきた備品がダメになったのだ。新しく連れてくるにしても莫大な金が要るし、重要な研究対象でもある海竜の殺処分は厳しく禁止されているので、維持費は今のまま。これは、まずいことになりましたな。


 俺がその維持費を補填するとか無いよね? ね?


「一旦持ち帰らせてもらう。今は、演習の続きをするぞ。ランデオルス、お前はそのままフィオナに乗っていろ」


「はい‥‥‥」


 気まず! なんかさらに周りから一線引かれてる気がする。いや、前からこんなもんか。大丈夫、俺は悲しくない。悲しくないったらない。



「はい、全員乗ったな。よーし、次の指示だ。まずは止まれを教える、その後は前進、左右転換だ」


 まぁ止まり方を知らないで、進むもないか。


「止まり方はこうだ。背中と首の付け根に水流を当てる、これだけだ。まぁ、さっきの伏せさせる時の威力で問題ない。これはやらなくてもいいか」


「次に前進だ。鞭で尻尾の付け根を叩くことだ。では、前進と止まれを少しずつ繰り返してみろ」


 言われた通りに始める生徒たち。伏せで慣れた様で躓いている者はいないようだ。


「よーし、止まってくれ。次は左右の転換だ。今度も鞭でケツの左側を叩けば左に、右側を叩けば右に向く。叩く強さで向く角度も変わるから、最初は丁寧に、少しずつ威力を上げてみろ」


 おっとっと、は~い避けてね。隣の海竜が方向転換の際に、勢い余ってこちらにぶつかりそうになったが、余裕を持って回避してくれるフィオナ。


 ん? どうやってそんな細かな指示を出したかって? そんなもの決まってるじゃないですか。特に出してないですよ、強いて言えば「避けてね」って声掛けました。


 実は、俺は一般的な王国で定められている操作の調教方法とは異なる。そもそも魔力量が規格に満たさないから仕方ないんだけど、セコいよな。声掛けるだけだもんな。


 とはいえ、俺がこの学園に呼ばれた理由は、俺の方法を誰でも扱えるようにするための被検体だろうからなぁ。どうやってこの方法を伝えればいいのだろうか。


 あ、あそこの海竜とそっちの海竜ぶつかりそうだから牽制してあげてね。


 うん、してあげたね。えらいえらい。




「危なっかしいな、お前らもう少し距離を開けて練習しろよ。今日中じゃなくてもいいが、まずはちゃんと自分の動いて欲しい方向に移動できることを目標に頑張れ。それが出来たら無意識でも正確な水球と鞭を出しながら指示できるようになることだ」


 この先生いつも放任主義だよな、それでいいのか教師よ。いつも俺らをほったらかして何してるんだろう。普段気にしたことなかったから知らねぇや、ちょっと観察してみるか。



 とか思ってるうちに丸星が移動しましたどうぞ。


 ん? 手帳を取り出して、頭を悩ませながら何か書いてるぞ、怪しいですどうぞ。


 生徒の成績をメモしているのかな? どれどれ覗いて見ますか。


 レッツゴー、フィオナ! 


 海竜を操作してるとは思えない細やかな動きで、ときに他の海竜に隠れ、ときに波の音に紛れて足音を消して丸星に近づいていく。


 抜き足、差し足、忍び足。海竜ってこんな風に歩けるんだな、地味にすごい発見だ。


 そしてついに、オレガノ先生の背後まで気づかれずに近づいた。

 どれどれ何を書いているのだろうか。そーっと覗いて見る。


 ククク、なんて書いてあるのだろうか。


 ***************

 フィオナの今後について 報告点


 背中に人を乗せなくなった 理由はランデオルス以外を乗せたくないと仮定


 他の人に懐けばその人も乗せる可能性もアリ 早くその方法を見つける


 維持費の問題 新しい海竜を連れてくる 今できているコミュニティに参加できるか


 子ども 大人 新規予算分による 竜舎の増設or空いているところ


 ランデオルス専属 懸念点 他の生徒との軋轢 教育内容の違い‥‥‥


 ***************



 見なかったことにしようと思います。そして忘れましょう、一生徒にどうこう出来る問題ではないのです。というか頭が痛くなるので考えたくありません。


 ね、フィオナさんや、私が蒔いた種なんですけど、水をやったのはあなたじゃありませんかね? 関係ないみたいな顔してますけど。


 よし帰りましょ、ほら皆のいるところに行こう。バレる前に。


「お、ちょうどいい所に来たな。お前も一緒に考えろ、お前自身の問題だ」


 オーマイゴッド。


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