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うんち~一年目Ⅲ~

 俺の心配は良いとして、イヴの魔法でいらぬ注目を受けてしまっている。そらあんな完成度の高い魔法を見せられたらな。


 これまで蝶よ花よと育てられた金持ちのボンボンどもには、いたくプライドが傷付けられたことだろう。


 プハハっ、苦々しい顔してるよ。思わず吹き出してしまい、俺と目線があったボンボンは顔を真っ赤にしてる。まるで梅干しだ。


 さてと、悪ふざけはこの辺にしておいて、イヴの悪目立ちを隠蔽、隠蔽~。


 俺はシャボン玉のような水球を幾つもポポポンっ! と出してやる。


 シャボン玉飛んだ~♪ 屋根まで飛んだ~♪ 屋根まで飛んで~♪ 壊れずにジャグリング~♪


 そらそうだよ、俺が魔力で作ってるんだもん。壊すも壊さないも俺の自由よ。

 よし、良い感じに注目を集めれた。あ、オレガノ先生が何か言いたそうだ。


「ランデオルス、自分の技量を披露するのは良いが、授業中にあまり遊ぶなよ?」


 言葉こそ厳しいが、俺を守るためだろう。「無駄に敵を増やすなよ」と副音声が聞こえてくる。まぁ、自己満だ。イヴを守れるならそれでいいけど、確かにこれから六年間一緒だもんな。どこかで和解の道を歩まないと、生きづらいよ。


 事無かれ主義の俺からしたら、その道はウェルカムなのだけど、それは相手次第だ。向こうが敵対意識を持たなければ、俺は別に対抗するつもりはないのだけれども。


「フン、怒られてやんの」

「調子に乗ってるからだ」


 ぷっちーん、はい許しません。大人の余裕をポイっ。

 このシャボン玉ぶつけてやろうか。


 ボンボンどもはオレガノ先生の言葉を、そのまま受け止めたようだ。他の人たちを見ると、そのまま捉えてるのと、裏を読んでいるのとで、反応は半々だ。


 敵対的なのは数人、直接的には声を上げないけどそれに追従しようとしているのも数人、あとは大丈夫そうだ。大多数は嫌な雰囲気止めてくれと言ったような顔をしている。ごめんよ。


 俺とボンボンたちの間で火花を散らしている間も授業は進行しているので、オレガノ先生は生徒たちに魔法のコツやら、意識の仕方を教えている。


 盗み聞くようにして、聞いているが、魔力量の差がありすぎて俺では応用できなさそうだ。


 生徒たちは、コツを教えてもらって悪戦苦闘しながらも、少しづつ上手くなっていっているようで、喜びの表情がちらほら見える。


 が、そう簡単に完璧にできるものでもないから、今日はこのまま水球二つに鞭を出すことでこの魔法の授業は終わりを迎えた。


 このペースだと次もこの魔法の練習になりそうだ。俺は別にいいんだけどね。楽だし。


「よし、じゃあ教室に戻るぞ~」


 次の授業は歴史だった、壊滅的だった俺の歴史の知識を埋めるべく、必死に取り組んだ。見事にスルスルと吸収していく脳みそに、やっぱり若い体っていいなぁと感じた。


 年老いてからじゃ、覚えるの大変だからな。



 そして、数学は上の空で、読み書きは真面目に、海竜の座学では前のめりに。それぞれの心構えを持ちながら、時間は進んでいき、待ちに待った、海竜調教の時間だ。俺を含めて生徒たちも皆、楽しみにしていたようでどかか、そわそわと浮足立っている。


 ワクワクした様子で竜舎の前まで来ると、生徒たちの興奮は最高潮に達している。


 俺は入学前に見たことがあるからいいが、他の生徒は遠目から見たことがあるだけで、目の前で見るのは初めてだという子もいるだろう。


「あー、今から竜舎を開けるけど、注意してほしいことがあるから聞いてくれ」


 手を叩き自身に注目を集めたオレガノ先生が、鍵をまわしながらサッと生徒を見渡した。


「注意してほしいのは2点だ。大きな声を出さないこと。近づきすぎないこと。この2点だ。これを守ってくれないと、万が一のことがあるから気を付けてくれ」


 これは海竜と関わる際の大前提だ。なってたって肉食獣であり魔物だ、人間が襲われたらまず助からない。ククルカ島でも何年かに一回は新人がやらかして大怪我を負うこともあるらしい。


「今から皆にしてもらうのは、海竜の糞の調査だ。臭いし、汚いからと言ってこの調査を怠る者は、海竜調教師として三流以下だ。この糞の調査では、海竜の体調から病気の前兆まで、大事なことが全て分かる」


 肉食だから本当に臭い。そのおかげで息を止める時間が長くなったのはここだけの話だ。


「海龍は野生の生き物だ。自分の体調がもし崩れていたとしても、隠す傾向にある。まぁ弱みを見せないためだな。‥‥‥だから、俺たちが見つけてやらないといけない。それが俺たち命を預かる者の使命だ」


 真剣な顔のオレガノ先生に、生徒たちの興奮も落ち着きを取り戻した。


「さて、その調査のために一回海竜を海に出すから、離れて見ていてくれ」


 俺たちを入り口から離し、竜舎のドアを開けて中に入っていくオレガノ先生。しばらくするとぞろぞろと海竜たちと共に竜舎から出てきた。まるで百鬼夜行だな。


 海竜たち全員を出し終えると、俺たちの方に戻ってきた。


「さぁ、中に入ってくれ。掃除の仕方を教えるから、その際に糞を指定の場所に集めてくれ」


 俺たちは先頭のオレガノ先生に続いて竜舎に入っていく。

 さっき海竜たちの最後尾にいたフィオナと目があった気がするのは、気のせいではないだろう。なんだか嫌な予感がする。なんだかんだで悪戯好きっぽいからな。


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