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水球二つ~一年目Ⅱ~

「さて、次は魔法の授業だ。この学校に入学したということは、多かれ少なかれ魔法の才能があり、海竜調教の際に問題ないと判断されたということだな。なので一応魔法の発動とかは説明を省くぞ」


 さて、やってきました魔法の授業。俺は海竜調教の際に使用する魔法規格に満たしていないけど、それがバレると面倒くさいことになりそうなんだよな。


 しかし、俺の事情を知ってか、「魔法が使えて、海竜調教が出来る」という言い方をしてくれたので、最悪バレても問題はないのだが。


 いやぁ、言い方が巧いね。魔法を用いてだと一発アウトになるから助かりました。


「それじゃあ、説明するぞ。基本的に俺たちが海竜に教えることは、人を乗せた状態で騎乗者の行きたいところに進み、騎乗者の止まりたいときに止まらせたりさせるようにすることだ」


 本当はもう少しすることがあるけどね~。少しだけ潜らせたり、浮上させたり、ほぼ自動攻撃の海竜をあえてアタックさせないようにしたりね。


 ま、まずは基礎からというやつだろう。


「そのために必要になるのが、この二つの水球と水の鞭一本だ。一応他の属性でも応用できるが、水が一番扱いやすい」


 オレガノ先生は目の前に、ボーリング玉ほどの綺麗な球状の水と、一メートルほどの鞭状の水を創り出した。


 すごい、一切乱れのない綺麗な球状にその魔法の練度が窺えた。


「さあ、お前らもやってみろ」


 オレガノ先生の言葉をきっかけに次々と作り始める生徒たち。皆この学校にいるだけあってただ作るだけなら苦にならないようだ。しかし、どこか歪んでいたりして不安定さが垣間見える。


 俺はというと‥‥‥。


「ほい、出来た」


 完璧な球体を二つ、一メートルほどの鞭を創り出していた。


「ランディすごいね、先生の魔法みたいで綺麗だよ。それになんだか透明ですごいや」


 近寄って来たイヴが褒めてくれる。ふふ、鼻が高くなるぜ。しかし、騙しているようで悪いのでネタ晴らしをすることにした。


「この水球の中に指を突っ込んでみて」


 水球をイヴの目の前にずらしてやる。


「え? なんで?」

「いいから、いいから」


 俺に背を押される形で、イヴが恐るおそる人差し指を突き出し、少し触れたのちに、トプンっと表面を破った。


「わ! 中が空洞だ」


「そゆこと。ここだけの話、俺魔力量少ないからこの水球だけの水を生成できないんだ。だからこうやって見せかけしか出来ないんだよ」


 表面を崩して、糸状にしてうにょうにょ動かしてみる。ほっほっほ、こうやって見てると糸使いの強キャラみたいじゃね? シャキーンって。


「そうなんだね。‥‥‥でもちょっと待って、この表面の水の膜、すごい薄くない? これを割らずに保ってるの? それって、すごすぎない?」


 頭がバグったみたいな顔してらぁ。


「がははは、分かりますかね、この凄さが。魔力制御だけなら自信があるのだよ。でも実際には調教の時には使えないんだよ。質量がないからね」


 その重さでパシャパシャ海竜に合図を送ったり、水球を左右の手に纏わせて、どちらサイドの方を刺激強めで当てるかで海竜の進路方向を決めたりする。


 俺専用の海竜だったらいいんだけど、調教師は同じ規格の海竜を卸さなければならないので、俺が同じやり方でやってしまうと、海竜もその威力に慣れて、規格に合わなくなるから、ダメなんだよな。


「へぇ~そうなんだ。‥‥‥ん? じゃあ、どうやって海竜を調教してたの?」


「それは普通に仲良くしてれば、言うこと聞いてくれるぞ」


「‥‥‥??」


 訳分かんないって顔してるな。普通に仲良くする方法が分かんないのか、それとも、規格に合わせない意味がわかんないのか、はたまたその両方か。


 その両方か。


 でも、別に俺は規格に合わせるつもりは無いんだよね。

 調教師になるのも海竜のお世話が出来るようになりたいからだし、別に卸す目的ではない。それに、ハバールダ領主もこれまでのやり方以外を確立したいから俺をこのノミリヤ学園にいれたのだろうし。


 だから、俺は俺のやり方を押し通すつもりだ。学園側もその理解はあるだろう。


 それに領主のめんつもあるから、そうそう簡単に退学にはならないと思われる。


「というか、イヴはどうなのさ。水球出してみてよ」

「うんいいよ。僕は結構魔法には自信があるんだ」


 イヴはそういうと水球を出して見せた。


「うわ、これはすごいな」

「言ったでしょ、自信あるって」


 胸を張って鼻を高くしているイヴの創り出した魔法は、オレガノ先生の創ったものと何一つ変わらぬものが出てきた。


 俺が言うことではないが、この歳でこれほどの魔法精度はまさに天才の部類だろう。


「でも、ランディもまだまだこれから魔力量は伸びる可能性あるらしいよ」


 元気づけるようにして言ってきてくれるが、別に俺は落ち込んでいるわけではないぞ?


「まあねぇ、そう言われてるけどね」


 その話は割と有名で、十五歳くらいまでは魔力の伸び率が高いらしい。それからはあまり伸びないが緩やかに上がっていくらしい。


 これまで、十五歳の半分を死ぬほど魔力上げに心血を注いだが、上がったのは雀の涙、やりくりだけが上手くなっていた。


 勿論魔力上げはたまに行っているが、以前毎日のようにしていたところ、体調不良で倒れてから、フォルが俺の魔力が少なくなっているのを感じると、やたら心配して離れなくなったので以降は控えることにした。


「ま、上がらなくてもやりようはあるのよ、ほほほ」


 口を手で覆い笑う。心配してくれてるのはありがたいが、逆に言えばこれは俺の強みだと最近は考えるようになった。


 だからそんな泣きそう目で見ないでくれ。あぁもう、良い奴だなぁ。


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