「春の風が私たちの新たなる度の始まりを迎えてくれるようなこの頃、私たちはノミリヤ学園に入学しました。この度新入生代表挨拶をさせていただく機会を頂き、心から感謝しています。
私たちは今日より海竜調教師としての一歩を踏み出しました。これからは困難や苦難が私たちの前に壁として聳え立つこともあることと思います。しかし、私たちにはこれまで支えてくれた家族、導いてくださる先生方、ともに支え合い、切磋琢磨する仲間がいます。
共に自分の夢を叶えるため精進していきます。そしてこの六年間でたくさんの思い出をつくり、私たちの栄光ある未来を掴み取るために皆さんのご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
最後になりますが、新しいスタートに皆さんと場所を同じくできたこと、誠に嬉しく思います。皆さんの夢が叶うまで、ともに頑張っていきましょう。
以上で新入生代表の言葉とさせていただきます。ランデオルスでした」
新入生代表挨拶を終えて降壇する。
あぁ~、緊張した! 恥ずかしかった! 周りの視線が痛いよ。「誰だアイツ」みたいな言葉が聞こえそうだよ。
親御さんも見に来ているのだけれど、子供の活躍を取りやがってみたいな、親の仇のような眼を向けてきてました。
こんなことなら先生たちの言うように、ククルカ島出身で、ザンキの息子であることを話すべきだったか。なんか親の七光りな気がして気が引けたんだよなぁ。
恙無く進んだ入学式は、在校生代表でミラン先輩が出ていたこと以外は特筆すべき点はありませんでした。さ、教室に戻ろう。
「今日から一年の担任になったオレガノだ。よろしく。ではまず初めに自己紹介と行くか、じゃあ角の席から順番に名前と、意気込みを言ってくれ」
俺たちの担任になったのは少し長めの髪を後ろで括った肌黒筋肉の男性だった。調教師の将来って皆ああなってしまうのか? 俺的には細マッチョぐらいが理想なんだが。
とかなんとか考えてるうちに、イヴの番になった。皆さまご清聴あれ。
「イヴライト・ドットヒッチです。良く間違われるのですが、制服を見ての通り、男の子です。将来は海竜と友達になって、海の旅をしたいです! よろしくお願いします」
イヴの意気込みが終わると、それまで惚けたようにイヴのことを見ていた男どもは驚きの目をしていた。わかるよ、俺も最初は疑ったよ。
‥‥‥で、「海竜と友達に」と言ったときに嘲るような顔をした奴ら。実は正しい。海竜は魔物であり、武器であり、俺みたいな特異点を除いて人に懐かない。まるで海竜を知らないド素人だと思うのも構わない。けど――
「ランデオルスです。ククルカ島で父、ザンキの元で海竜調教師の手伝いをしていました。将来は、すべての海竜と友達に‥‥‥いや、家族のように接して、軍事兵器としてではなく、世界を旅したいです」
――友達の夢を馬鹿にするな。
「海竜を家族だってよ」
「でも、あのザンキさんの息子でしょ?」
「本当に手伝ってたのか怪しいもんだぜ、どうせ道具の手入れとかだろ」
近い席でヒソヒソ話している奴らは、元から面識がある奴らかな。よーし顔を覚えたぞ。
俺の目論見は成功したようだ、イヴよりインパクトのある馬鹿げた事を言えば、標的はイヴから俺に替わるだろう。俺は良いんだ、こいつらよりも二回り以上年上だ。子供の言うことなんて屁でもない。
そして全員の自己紹介が終わると、次はこれからの授業について大まかなことを聞いた。
どうやら最初は座学をして、魔法の練習をして、高学年が海竜調教をしているのを手伝うらしい。そしてだんだんと海竜調教に充てる時間を増やしていき、高学年になるとほとんど授業は無く、一日中海竜のお世話をしているのだとか。
授業がない代わりに、豊富な海竜の専門書や、先生などを使って自分で情報を集めるのだとか、はいはい、自主性ね。ワシは自主性皆無の他力本願寺がいいんじゃ。
座学はほとんどこの2年で実践しているときに気づいたり、教えてもらったものがあるので、ほぼ知っている知識だったが、細かい所で知らないこともある。新しい知識を学ぶのはやっぱり楽しいものだ。
人間を人間たらしめる欲求は知識欲であるというのが、前世での俺の先生だった人の言だ。大いに同意する。新しいことを学ぶのに快感を得るって、なんて変態なんだろうな。あぁ、人間賛歌でも歌おうか。
ちなみに、初めての授業で学んだことは、ククルカ島以外での海竜育成の場所だ。
大陸の南東部分を海に隣接する形で領土を占めている中、ククルカ島はさらにその南に位置しており、南東部分と、東部分に大きな海竜育成の場所がある。それぞれに仕上げた海竜に特徴があるらしい。
ククルカ島産は大きくて強い。
南東のジダンバ産は素早く斥候向き。
東のドリューセル産は穏やかで忠実。
また、それぞれの体格、鱗の形、色なんかも若干違うらしい。どうやら環境と、食べているものの違いが現れるのだとか。
いつか見てみたいな。その育成現場を。