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閑話 職員会議

 私はカリヤシア。ノミリヤ学園で事務員をしています。


 この学校で今話題になっているのは、勿論ランデオルスくんです。そしていま適性試験の採点が終わって、職員室内では皆その話題で持ちきりです。


「数学や、文字の読み書きは満点」

「歴史は壊滅ですねぇ」

「小論文も体裁だけ見れば、平均ですが、内容は波乱万丈な人生が伺えますね」


 そうなのです。職員全員が気になっているのは得点の偏りです。


 さすがは神童と呼ばれるだけの学力ですが、歴史に関してからっきしなのは、本人の興味なのでしょうか。馬鹿と天才は紙一重と言いますし、しかし、一問も正解できない、というよりは答えないのは、習ってないのではという噂がささやかれています。


 でも、数学や文字の読み書きが出来ているということは、きちんと教育を受けたはずなので、歴史を習っていないはずなんてことはないと思うのですが‥‥‥。


 まるで別の世界線から神様の悪戯でやって来たかのような男の子だと、専らの噂です。


 本当だったりして‥‥‥そんな与太話ですね。


 さて、ここで面白いのはやっぱり小論文でしょうか。


 なんといっても普通の男児では一生を賭けても経験出来ないようなことをしている点ですね。


 無人島に海竜と漂流して、力を合わせてともに生還してくるなんて、まるでラトゥ・ダーナーの絵本みたいですね。


 幼いころは私も憧れたものです。海竜の背に乗って自由気ままに海を旅するなんて、ロマンの塊ですね。いいなぁ私にも懐いてくれる海竜がいればなぁ。


 海竜に心があることにはあるのでしょうが、群れの一員、それも家族のように接するなんて私があと100歳若かったら嫉妬していたでしょうね。


 実は内緒でククルカ島のお土産の笛を買って、速達便で届けてもらって試したのはここだけの話です。吹いても誰も近寄ってきてくれませんでしたけど‥‥‥。



 ちなみに、なんで適性試験の話になっているかというと、新入生スピーチをする人を決めないといけないのです。


 例年通りに行くのであれば、テストの点数が一番良い生徒を起用するのですが、ここが悩みどころなのです。


 入学試験の成績だけで見れば、他の子が候補に挙がってくるのですが、海竜育成の経験というものにおいて、ランデオルスくんの右に出る者はいないでしょう。


 しかも、あのククルカ島出身でレジェンドのザンキさんの息子です。この学校において、どんな王侯貴族よりも尊敬の眼差しを受けることでしょう。


 しかし、実際に入学試験を受けていないのも事実。なので適性試験を受けてもらったのですが、判断に困る結果となってしまいました。


 計算読み書き、経験、立場は文句なし、歴史や身分を含めた総合的な判断をすると、他の子たちが上に来る。う~む、堂々巡りになりそうです。


 職員も皆困っているようで、あーでもない、こーでもないと頭を悩ませています。


「皆さん頭を悩ませているようですね。‥‥‥分かりました。私が決めます」


 カリファラさんの鶴の一声です。まだ他の職員に比べても若い方ですが、学長としての威厳は流石ですね。カリファラさんはどんな決断を下すのでしょうか。


「今年の新入生スピーチはランデオルスに任せることとします」


 おお、そっちですか。周りの方々も過半数以上は納得しているようです。


「決定には従いますが、理由をお伺いしてもよろしいですか? それに成績上位の子たちの親が何と言うか‥‥‥」


 むむむ、確かにそれは気になります。理由もそうですが、成績上位の子たちの親は軒並み貴族です。万年金欠のこの学園がこれまで存続してこれたのは偏に、卒業生、在校生の親の寄付金でした。


 面倒くさいことに、これまでの貸しが大きいので文句を言われても強く出られないのです。納得できる理由を見つけられればいいのですが‥‥‥。


「そうですね。ランデオルスくんを選んだのは、2点あります。彼の父がザンキさんであること、経験からくると思われるその精神年齢の高さです」


 私も知らされていたとはいえ、初対面でのあの落ち着きようには驚かされました。達観したかのような、あの雰囲気を。


「ザンキさんと言えば、言わずと知れたレジェンドです。海竜調教師を目指した新入生で知らない人はいないでしょう。そのレジェンドの元で調教師として実際に働いていた経験は、誰もが憧れ、そして認めざるを得ないでしょう。それに、彼は本当に命を失うかもしれないという経験をしています。人間は一度覚えた恐怖や絶望が、これから人生で起こる出来事に対する基準になります。例え、誰かから心無いことを言われ、何かされたとしても、余裕をもって大人の対応をしてくれるでしょう」


 それでも人間であれば辛いものは辛いでしょうに。


「我慢させることになるという点では間違いありませんが、大なり小なり、一位という椅子に座る者はそういう目で見られます。そのときに座っているのがランデオルスくんであれば、安心できるというものです」


 他の人が座ると、ランデオルス君より反発は少ないかもしれませんが、それに対する対応の差ですか。たしかに他の新入生ではことを大きくする恐れがありますね。


「勿論、この学校でそれを許す私ではありませんので、見つけ次第それなりの処分を持って対応します」


 そうです。私も事務員ながら陰ながらこの学園の秩序を、ランデオルスくんを守って見せます!


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