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【海の子】~入学ⅩⅢ~

「う~ん無いな~。この辺の本棚じゃないのか? でも、絵本はこの辺に固まっているはずなんだけどな」


 図書室で、手分けして【海の子】を探すことにした俺たち、絵本コーナーを端から順番に見ているが見当たらない。絵本コーナーだけでもそれなりにあるので、また順番に見直さなくてはならないのかと思うと、少しだるい。


「ランディ、あったよ、これ!」


 天使の福音か?

 イヴが例の絵本を見つけてきた。良かった探し直す羽目にならなくて。


「おお! まじか、どこにあった?」


 表紙を見ると確かに題名に海の子と書かれている。


「あっちの海竜コーナーの中にあったよ」

「あんな専門書の中に埋もれていたのか、絶対この絵本コーナーにあるべきだろ」


 なんでやねん。誰かが本を違う場所に戻したか? 司書が怒るやつだぞそれ。


「ちっちっち、この絵本はそんじょそこらの絵本とは訳が違うんですよ」


 俺のジト目をみて、イヴは人差し指を左右に揺らしながら、絵本を開いて、その中のテキトーなページを見せてきた。


「細かっ! うわぁ、これは絵本じゃないな」


 驚いたのは、その文章量だった。本自体も割と厚みがあるが、質の悪いごわごわした紙を使っているのかと思ったら、ちゃんと良い紙を使ってのこの厚さだった。


 えぇ、一ページに何字入ってるんだろう。小説の一ページよりは確実に多いぞ。



「じゃあちょっと読んでいっていい?」

「うん、僕もテキトーに本を読んでいるよ」



 イヴから本を受け取り、直ぐ近くのちょうど日陰になっている椅子に腰を掛けて読み始めた。


著者、ラトゥ・ダーナー。

 その物語は、確かにイヴの言った通り、主人公が海竜に色々な冒険に連れて行ってもらえるという話だ。


 この絵本を読んだ感想としては、「勉強になる」だった。

 これは確かに絵本の枠ではなくて、専門書でもいいかもしれない。病気になったときの対処の仕方。お互いの心の距離、好きな食べ物、苦手な食べ物の食わせ方。あまりにも描写が細かすぎる。やっぱりこれは本当に経験したことを書いている。


 夢の国や、神秘の洞窟なんかが本当にあるかどうかは分からないが、海竜と生活していたのは確かなことだろう。


 しかし、気になる点が二点だけ。海龍の姿について言及されているような描写がない、つまりはボス級の海竜ではなく、一般的な海竜での航海になったと思われる。少ないなぁ海龍の情報。


 ってことはつまり、俺に好感度爆上がりの海竜は元ボスか、ボス候補の海竜であるが、一般的な海竜も人に懐くことは、可能性としてゼロではないのか。


 ん~、こうなってくると人に懐く条件として、野生であることが条件となるで確定してそうではある。


 もう一点は、懐かせた方法が俺のように笛の音で懐かせたわけではなく、動けなくなった海竜を甲斐甲斐しく、長い期間にわたり介抱した結果だったこと。


 この絵本が書かれた時期では、まだ海竜の育成のメソッドが確立されていなかったのかもしれない。手探りで介抱していたが、今の俺が習ったものと違う部分が多々ある。


 この方法で、一般的な部分と違い、俺との共通点は、眠り笛を用いないことだった。やはりあれは海竜の毛嫌いする音を出しているで、間違いないようだ。



 他には、海竜は日光浴を好むが、眠るときは暗い方を好むとか、普段から見ていれば分かることばかりだった。苦い薬を飲ませる方法などの、治療面に関しては盗むべき技術が多数あったが、他のことは一緒に冒険に出ると役に立ちそうだが、俺はのんびりスローライフを目指しているので、必要ない知識だろう。


 必要ないったらない。



「ぐ、あぁ~、いてて‥‥‥」


 気が付いたら二、三時間ほど経っていた。ずっと同じ体勢で読んでいたからか、首、背中、腰がバキバキになっていた。体を伸ばすと気持ちよく音が鳴った。


「ふふ、夢中で読んでたね」

「うお!」


 いつの間にかイヴが隣に座っていた。全く気が付かなかった。いつからだ?


「夢中‥‥‥、まぁそうかもしれないね。さらっと流し読みしたはずなんだけど、思ったより時間喰っちゃったや」


「この本面白いからね。分かるよ分かるよ。僕も何度も読み返したっけな」


 そら、あなたがこの学校に入学するきっかけになったんですものね。イヴが好きになるのも分かるような傑作だった。


「よし、じゃあ本を返して戻ろうか」


 俺たちは各々が読んでいた本を、返却口に返して図書室を出た。




 俺たちの部屋が見えてくると、扉の前に誰かが立っているのが見えた。


「誰か立ってるな」

「あれは‥‥‥男の人だ。誰だろう、先生かな」


「とりあえず声を掛けてみるか」


 俺は少し近づいてから「すみません」とその男性を呼ぶと、男性はこちらに気が付きほっとしたような顔をした。なんだろう、俺たちに用かな。


「ちょうどよかった。ランデオルスくんに伝えないといけないことが出来たんだ」


 何でしょう。ワタシ、ナニモ、シテナイ。モンダイ、オコシテナイ。


 もはや話があると言われると条件反射で構えてしまうようになってしまった。怒られ慣れるというのも楽じゃないぜ。あ、この「ぜ」の後は星マークをつけておこう。


 楽じゃないぜ☆


「はい、なんでしょう」

「急遽決まったことで申し訳ないんだが、三日後の入学式で新入生代表として、スピーチをしてもらっていいかな?」


 い、嫌だなぁ。


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