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イヴライト・ドットヒッチ~入学Ⅻ~

 あれからは何も問題は起こさずに過ごしていた毎日。もちろん竜舎にお呼ばれして、お手伝いをしている。最初の方は一人で一から全部やろうとしたが、真面目にしているとフィオナがちょっかいをかけてきて邪魔をして、それを見た他の海竜も同じようにちょっかいを掛けてくるようになってしまった。

 なので“海竜のお世話係遊び相手”を担っている。楽しいからいいんだけども、保育園じゃないんだから。



 そして遊び相手をして、お昼ごはんを食堂でとるために一旦部屋に戻って、部屋のドアを開けた。


「ただいまーって、うわ! ごめんなさい!!」


 扉を開けると、そこには天使がいた。

 陶器の様な白い肌、純真さを現したかのサラサラの白髪。その瞳は宝石のような碧色。


 丁度着替えていたのだろう。シャツのはだけた背中越しにこちらを見る女の子がいた。


 バタンと勢いよく扉を閉める。


 ? 部屋間違えた? いや、俺の部屋だよな。部屋のネームプレートを確認すると、やっぱり俺だ。って新しいネームプレートが入っている。


「イヴライト・ドットヒッチ‥‥‥?」

「‥‥‥はい」


 名前を読み上げると、俺の部屋にいた先ほどの女の子が扉を半分ほど開けて、姿を現した。


「今日からこの部屋に住むことになりました。新入生のイヴライト・ドットヒッチです。よろしくお願いします」

「どうもどうも、ランデオルスです。新入生です。よろしくお願いします」


 俺たちはとりあえず部屋のなかにはいり、自己紹介をした。


「しかし、なんで女子と同室なんだ?」

「あはは、良く間違われるけど、僕は男だよ?」


 ‥‥‥なん、だと? 男の娘ってこと?


“グサッ” 何かが何かに刺さる音がした。気のせいだろうか、いいや、気のせいじゃない。性別は男なのに、見た目は女の子。なんというカタルシス。あなおそろしや。


「そうだったんだ、ごめんね。新入生どうしこれから頑張っていこう。じゃあ今日から友達ね」


 俺は煩悩を振り払い、仏の様な顔で握手を求めると、イヴライトは俺の右手をじっと見て、それから俺の顔を見て目を輝かせた。


「‥‥‥うん、うん! 友達! よろしくね!! 僕のことはイヴって呼んで」


 弾けるような笑顔で握手に応じてくれた。お、おう、どした?


 意外にも力強く、力強くって言ってもまるでか弱い女の子レベルなのだけど、力強く握り返してきたものだから、少し驚いてしまった。


 俺の反応に気づいて、イヴは直ぐに手を引っ込めた。どしたん? 話きこか?


「あはは、ごめんね。僕って今まで同年代の友達いなくてさ、嬉しくてはしゃいじゃった」

「全然気にしてないよ。あまり外に出なかった感じ?」


 友達が少ないらしい。ちなみに俺は同年代の友達いるぞ、ソーニャだったり、フォルだったり。半分人間じゃないけど。


「そうだね、元々身体も弱かったし、お父さんが男の子と遊ぶときは必ず言いなさいって面倒で‥‥‥」


 箱入り娘ですか。まぁ、こんだけ可愛かったらそら、男でもそうなるか。


「じゃあ、これからは友達増えるといいね」

「うん、頑張るよ」


 期待を胸に両手を強く、身体の前で握りしめた。

 今まで寂しかったんだろうなぁ。よし、ここは俺が男友達というのが何たるかを教えてやらねばなるまい。そして、下心をもって近づくやつを成敗せねば。まずは友達んこを教えてやろう、うん、それがいい。


「ところで、イヴはなんでこの学校に入学しようと思ったの?」

「それはね、僕が外に出られないときに、お医者さんの持ってきてくれた絵本があるんだ。【海の子】っていう絵本なんだけどね。それを見て、僕も調教師になりたいなぁって。志望理由としては弱すぎるかもって、試験の時は少し心配してたんだけどね」


「憧れで全然いいじゃん。立派な理由だよ。ところでその【海の子】ってどんな内容なの?」


「あまり有名な絵本作家さんじゃないから、知らない人の方が多いよね。この絵本は主人公は普通の調教師なんだけど、ある日、傷つき砂浜に打ち上げられた野生の海竜を介抱するの、そしたら海竜が懐いて、お礼に色々なところへ冒険に連れて行ってくれるの。海の中、秘密の洞窟、夢の国、実は結構シリーズが出てるんだよ」


「へぇ、面白そうだね。この図書室にないかな、ちょっと読みたくなってきたな」


 普通に面白そうだ。個人的にはノンフィクションを基にしたフィクションなんじゃないかと思っている。


 出来ればどういう風に懐かれたかを知りたい。俺の笛以外でも懐く方法があるのかもしれない。


「お、良いですね。行きましょう! あと少しで荷ほどきが終わるので、少々待ってもらっていいですか?」


「ん、全然待つよ」


「良かった。じゃあ直ぐに終わらせちゃうね」


 自分のベッドの上で広げていた荷物も、確かに残り少なかった。しかし、そこに下着が見えた瞬間、俺の中の紳士が、俺の顔を背けさせた。


 何故か見てはいけない様な気がする。チラッと見えた感じでは、確かに男ものだというのに。


 ふぅ、薄青のボクサータイプ、ですか‥‥‥。



「ここが図書室か、意外と広いね」

「教育のための場所だからね」


 前世の小学校の図書室と同等ぐらいの広さはある。この世界でこれだけの本を拝めるのはすごいことだ。



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