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カリファラ~入学Ⅶ~

「こんにちはー」

「はい、ご用はなんでしょう」


 ドアを開けると、簡単な木製の受付があり、その向こうで数人の事務員がいた。彼らはこちらに気づくと、そのうちの一人の若い女性が受付の椅子に座り対応をしてくれた。


「入学の手続きをしたくて来ました。コリーおばさんにここで出来ると伺ったのですが、こちらでよろしいでしょうか?」

「‥‥‥あ、はい! 大丈夫ですよ。ではこちらの書類に必要事項の記入をお願いします」


 なんか間があったな。どうした?


 彼女は手前にある引き出しから書類とペンを取り出しこちらに渡した。文字の勉強しておいてよかった。ここに入学する人は文字の読み書きなんか出来て当たり前なんだろうな。


 島にいた頃を鑑みるに識字率はそこまで高くないはずだ。学校という場は俺が未だ思っているより高等教育なのかも知れない。異世界はまだまだ知らないことだらけだ。


「‥‥‥はい、記入しました。確認お願いします」


 そんなことを考えつつも、手を動かしていた俺は、書き終えると受付の方に書類を渡した。

 書類に書いてある内容は、ザっと見たが変なところや、不審な点は無かった。ハバールダ領主やジェフを疑う訳じゃないが自衛のためにだ。


「えーと、はい、大丈夫そうですね。ランデオルスさんですね。少々お待ちいただいてもよろしいですか?」

「はい大丈夫ですよ」


 反射的に答えてしまったがどうしたのだろうか。受付の人は事務室を出て行った。忘れ物か?


 数分して戻って来た彼女の手には何もなかった。何かを取りに行ったわけではない?


「すみません、お待たせしました。今から学長が会いたいと言ってますが、お時間の方はありますか?」

「‥‥‥? はい、大丈夫です」


 アポを取りに行ったようだ。


 そうして彼女と一緒に事務室を出て後をついていく。廊下沿いの三部屋隣がどうやら学長室の様だ。



「こちらです」


 俺を扉の前に立たせるように身を引き、コホンと咳払いをする。


「学長、ランデオルスくんをお連れしました」

「うむ、入ってくれ」


 扉を開けた彼女に促されるまま部屋に入ると、妙齢の女性が少し高そうな椅子に腰かけていた。


「わざわざ来てもらってすまないね。私はノミリヤ学園の学長を務めてるカリファラと言う者だ。さ、立ち話もなんだ、そこに座ってくれ」


 カリファラは俺の姿を確認すると、立ち上がりソファへ座るように俺を促した。


「この度ノミリヤ学園に入学することとなりました。ランデオルスです。よろしくお願いします。では、失礼して。あ、ありがとうございます」


 こちらも自己紹介をして、ソファに腰かけると、先ほどの受付の女性がお茶を出してくれた。

 一口飲む。温かい、さっきアポを取りに行った際に温めておいてくれたのだろうか。


「まずは入学おめでとう。‥‥‥とはちょっと違うかな。君の場合は志願して入ったわけではないからな」


 面白い物でもみたようにクククと笑った。やっぱり裏口入学みたいで思う点でもあるのだろうか。


「確かにそうですけど、入学したからには真面目に取り組むつもりですよ?」


 これは本当にそう思っている。基本的に怠惰の悪魔に取り憑かれている俺であるが、海竜について学びたいというのは本気だ。

 命を扱うことだし、個体差もある。教科書だけでは学べないこともあるだろう。


「なに反対しているわけではない。これでも私は海竜について見識を深めたいという人が一人でも増えることを歓迎している」


「何か懸念点でも?」


 カリファラは「ふむ」と前置きし、こちらを値踏みする様に見た。


「教師陣は反対している者はひとりもおらんよ。いたら私がお灸をすえてやろう。懸念しているのは生徒の方だよ」


 生徒の方?


「普通入学志願者には入学試験を設けている。悲しいことに志願者は少ないがな。良いか悪いかは置いておいて、そのせいで受験生同士の交流はなくはない。よって試験に居なかったお前さんのことを勘ぐる奴もいるだろう。そしてハバールダ領主の海竜育成に力を入れるという宣言も相まってな」


「うへぇ」


 もしかしてハブされる可能性があるってこと!? それはキツイなぁ。みんな仲良くしようよぉ。

 あ! そういえばジェフが言ってた懸念ってこれか? 貴族はいなくても、高等教育を受けられる家庭で育ってるんだから、可能性としてはありえるのか‥‥‥。



「まぁそこはうまくやってくれると信じてるよ。神童くん?」

「神童ってそんなんじゃないですよ。二十過ぎればただの人です」


 期待が重いよ。嫌な称号を貰っちゃったなぁ。


「そうか、では私もただの人だな」

「‥‥‥?」

「これでも昔は私も神童と呼ばれていたのだぞ?」


「あ、いや、それは‥‥‥」


 おい、ハメられたって。とんだトラップじゃねぇか。


「ふふ、冗談だ。君の活躍に期待しているよ」

「ありがとうございます」


「さて、本日君をここに呼んだのは他でもない。適性検査を受けてもらうためだ」


「適性検査? 入学試験とは違うんですか?」


 ん? 聞いてないぞ? 落とされる可能性あるんかな。頼むこの世界の常識問題とか来るなよ。


「内容は似たようなものだが、試験ではない。入学手続きは終えただろう、これはあくまで君のレベルを測るためのものだ。勿論点数が低いからといって入学を取り消すことはないから安心してくれ」


「‥‥‥分かりました」


 ほっとした。気づけば肩の力を抜いていた。緊張していたのか。


「それじゃあ、簡単なものだから今から始めちゃいましょう。別室に案内するわ」


 有無を言わさずに、俺は別室に連れていかれた。

 唸れ! 俺の低スペック脳みそとこれまでの運!!!


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