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ハズレ時々おもちゃ~入学Ⅴ~

 屋台のヤの着くおっちゃんに、感謝をしてその場を離れる。目的はすぐそこの爺さんの屋台だ。


「いったい何を売ってるんだろうか」


 その屋台の前には立たず、斜めからこっそりと視線だけずらして商品を見る。

 こういうところでつくづく自分は陰キャの素質ありと思わされる。でも人の目が気になるのは仕方なかろう。


 えーっと、トカゲのしっぽ焼き、蝙蝠の飛膜せんべい、謎の黄色い液体、伝統工芸品と思われる雑貨。へんてこりんなものばっかりだなぁ。

 売ってるものからしてお爺さんが変な人だということが分かる。



「なんじゃ気になるか坊主」

「うぇ!? あ、はい。すみません」


 横目で見ていると、その屋台の店主である爺さんに声を掛けられた俺は、思わずビクッと背筋をただし、謝ってしまった。


「別に取って食ったりせんわい、で何か用か」

「それは、その‥‥‥これっていったい何ですか?」


 目についたのは鷹を模ったような笛だ。尾羽のところに咥えることが出来るように突き出している。


「これか、これはここよりさらに南にある、とある部族が古より使っていたとされる祭事道具じゃ。ほれ、ここに息を吹きかけると‥‥‥」


“ほろろろろろろーー”


「な? 音が出る」


 爺さんは自慢げに笛を前に出し見せてくるが、そんなことはどうでもいい。気になることがある。

 ‥‥‥似たようなものを知っている。というか無関係とは思えない。俺の持っているフォルと意思疎通を図れる笛だ。もしかして、その部族が信仰している神がその鷹の様な魔物なのではなかろうか。

 いつか会ってみたいなぁ。


「で、どうする? 買うか?」

「うーん‥‥‥買います!」


 衝動買いサイコーッ! というのは嘘で、本当は鷹の魔物ともし遭遇したときに襲われたくないという、打算も打算。

 その“もし”が来ることはほとんどないだろうけどね。つまり衝動買いでもある。


「毎度あり。お代は5000ギルだ」


 ただの雑貨に五千円、前世からコレクション癖がある俺としては出せなくもないが、ジェナスに貰ったお金の三分の二ぐらいする。あまり他の屋台とかを見に行けなくなってしまうが‥‥‥これは買い一択だろう。


「ちなみに、これは何なんですか?」


 そして気になっていた黄色の液体。瓶の蓋は零れないように厳重に保管されている。ポーションの類か?


「これはな、狼の小便じゃ」


 狼の小便かい!! 食品衛生管理法は何処に行った。あ、ないのか。でも倫理的に置くか? 普通。

 そして次に気になっているトカゲの姿焼き。前世でもゲテモノは食べてこなかったので、今世ではこういうのも食べてみたい。未練を残したくないのだ。我ながら経験者の言葉は重みが違うぜ。


「これは美味しいですか?」

「人による」


 パクチー的な? でも今は普通にお腹がすいているので、ちゃんと旨いものが食いたい気分だ。


「う~ん、じゃあいらないです」

「よし、おまけに付けてやろう」

「えぇ‥‥‥」


 話聞かないタイプの爺さんだったか。

 そうして爺さんは俺の手にいっぱいのトカゲの姿焼きを持たせた。クンクン、匂いは普通だな。なんならタレの匂いが美味そうまである。


「体よく在庫処分されたな」



 あれから他の屋台を巡りつつ、冷やかしながら歩いていると、注目されていることに気が付いた。どうやら通り過ぎる人々が俺のことを話ているっぽい。


“ヒソヒソ”


「うわ、あれ買う人いたんだ」

「まずそうだな」


 今からベンチにでも腰かけて食べようとしているのに、少し不安になって来た。




「いただきます」


 先ほどの会話が気になりはするも、あれはパクチーが苦手な人種なのだと信じて勢いよく頬張る。


 ほうほう、じゃりっとした噛み応えに、歯の隙間をチクチクと挟まる小骨、ふわりと香る肉はヘドロの様だ。


「ぅおろろろろろ」


 もどした。


「ひどい目にあった」


 人によるとか嘘じゃねぇか。人属ならだれでもダメだろこれ。


 水で口直しをしつつ、俺はさっき買った笛と、元々持っていた笛を交互に吹く。


“ピィーーーーーー”

“ほろろろろろろぉぉぉ”


 修練進化じゃないけど、文明として似たようなゴールに辿りついたってことなのかな。前世でも不思議に思ってたんだ。宗教としての協議は違えど、神の存在はどの宗教にも存在した。祭事の際に、何かを模した姿になったり、音を使うことは良くあることなのだろうか。


 そういえば、俺この国の宗教知らないや。ククルカ島では、強いて言えば海龍教とでもいうのだろうか。アイヌの人が熊や狼、梟なんかに神を見出していたのと同じような感覚なのかな?


 笛を吹くことで少し考え事をしていたせいか、余計に腹が減って来た。何か食って帰ろう。


「すみません、一角兎のもも肉二つください」

「野菜サンド一つください」


 屋台を巡ってめぼしい物を買って食べながら歩いていると、伝説のアレを見つけた。


「な、あ、あれは!? カレーライス!!」


 私は、一角兎のもも肉も野菜サンドも買っていません。買ったとしてもカレーは飲み物、別腹です。ふらふらと誘い込まれる様にして、暖簾をくぐった。


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