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パレード~入学Ⅳ~

「さあ見えてきたぞ、アレがハバールダの海の入り口だ」


 見えてきたそれは入り江を左右から囲むように陸が伸びており、唯一開けているところには、どうやって作ったのか大型漁船が余裕で通れるような巨大な門が立ちふさがっている。


「えぇ知ってます。前回ここからククルカ島に戻りましたから」


 何故にジェフは胸を張って、改めて紹介したのだろうか。俺が知ってることをジェフは知ってるはずだ。


「ふっふっふ、二年前と変わらねぇと思ったか? 俺が見せたいのはこれからだよ」


 悪戯が成功した子供のように、ニヤリと笑って見せると船の汽笛をボーーーーっと鳴らして合図を出した。


 すると海門の上部に設置されている窓から人影が見えた。一瞬ちらりと見えたその人は、こちらの船を確認すると、直ぐに顔を引っ込めた。すぐに門の方からラッパの様な金管吹奏楽器の音が鳴り響き、それと同時にゆっくりと門が開かれていった。


 まるでパレードでも始まるかのようだ。


「なんか始まりそうですね」

「おう、楽しみにしてろよ」


 門が開かれ、向こうの景色が目に飛び込んでくる。そこには圧巻の光景が広がっていた。


「えぇ!? 海竜がいるじゃん!」

「ガッハッハそうだろう。驚いたか?」


 驚いたも何も、海竜が俺たちの道を開けるように、ずらっと左右に控えている光景は誰でも驚かざるを得ないだろう。


「これって、毎回こんな出迎え方してるんですか?」

「は? 何言ってんだ馬鹿か?」


 酷い言われようだ。いつかこのおっさんは殴る。


「じゃあ今回はなんでやってくれているんですか?」


 何か式典があって、タイミング悪くそこに出くわしてしまったとか? それとも本当に俺の出迎え? そんなまさかねぇ。


「俺が命じただけだが?」


 何してんだこのおっさん。頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。


「? 何のために?」

「? 面白そう以外に何が?」


 何してんだこのおっさん。頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。


「? それは許されるの?」

「? 忘れてるようだが、俺は権力者だぞ?」


 何してんだこのおっさん。頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。


「? 老害か?」

“バゴン”

 頭の上にたんこぶが浮かんだ。



 関所をくぐり、手続きを終えると二日ぶりの陸に立った。ジェフはまだ手続きがあるらしいので、ジェフの息子のジェナスに一泊するための宿屋に案内をしてもらいながら、色々なことを聞いた。


 さっきのはただの道楽で、海竜を並べてみたかったらしい。しかも領主に確認を取ってちゃんと許可を得ているらしい。領主も何してるんだ。


 というのは建前で、俺の学園転入に際して、ある程度の言い訳としてこれから海竜の育成に力を入れていくという表明を兼ねているらしい。

 俺が海竜育成学校に行くのに、そんなに仰々しい建前がいるのかどうかという疑問はあるが、どうやら必要らしい。


 海竜育成学校は軍事力に直結するということで、一領主が力をつけすぎないように毎年の入学者数が決められているらしい。しかし、そこを貴族間の上手い立ち回りによって枠を確保したとか。

 そこで隠れて増やすとなると、暗躍を疑われることがあるので「反逆なんてこれっぽっちも考えずに、これからも王国のために強くなります!」という建前が必要になってくるのだとか。


 なんか、すごい大事になってきちゃったよ。あわわわ。‥‥‥いや、でも俺から頼んだわけじゃないしな。




 宿屋についてからどうしようかと悩んでいると、先ほどジェナスに貰ったお小遣いのことを思いだした。「今日一日暇だろう。田舎から出てきて、相棒だった海竜もいないとなっちゃ何をすれば分からんだろう。適当に港町でも歩いてみろ、漁業組合が目を光らせてるから犯罪に巻き込まれる心配もしなくていい、これで遊んでいけ」と言い残し去っていったあの背中を思いだした。


 兄貴ぃ……でっけぇす、背中。




 という訳で、散歩がてらレッツ食べ歩き。‥‥‥大人になったら絶対夜街に行ってやる! 人の金でな!!


 念のために大通り沿いを歩いているが、店舗型が多く、加工食品も少ないので、もう少し港に近い方へ歩いていくと、だんだんと俺が求めていた屋台の多く出回る通りに来た。


 ここなら何か見つかるだろう。


 そこで一際目を引いたのは他の屋台に比べて明らかに人の入りが少ない店だった。


「何を売ってんだろう、すごくマズイとかか?」


 思わず呟いたその言葉が聞こえていたのだろうか、俺のすぐ近くの屋台の店主が声を掛けてきた。


「あの店が気になるか坊主。ただの怖いもの見たさなら辞めとけよ。金の無駄だ」

「‥‥‥金の無駄?」


 声のしたほうを見ると、スキンヘッドの完全にヤのつく職業をしていそうな男が、お茶の葉っぱを売っていた。それ、脱法的な葉っぱじゃないですよね? 特殊な注文の仕方の裏メニューとか存在しないですよね?


「あの店はな、爺さんが道楽でやってる店なんだが、毎回品物も値段も違うんだ。だから固定客も付かないし、一度爺さんに嫌われた客がいてな。値段を高額に設定され、払えなきゃ衛兵に突き出すってひと悶着あったもんだから、すっかり誰も近寄らなくなっちまったんだよ。悪い人ではないんだけどなぁ」


んー、売ってるものの質も保証がなければ、態度も悪いってことかな?


 町の変な爺さんか、あったかくなってきたもんな。少し覗くだけ覗いてみるか。


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