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ピクニック~ククルカ島②Ⅵ~

「わぁ~風が気持ちいいね~」

「そうだね。今日は暑すぎず適度に風が吹いていてピクニック日和だ」


 青い空と海、白い雲と照り付ける太陽、砂浜にはゴミ一つない。見慣れたここも相も変わらず素晴らしいビーチだ。


「じゃあ、あそこの竜舎の近くの木陰にしよ!」


 いつまでも太陽に照らされるわけにはいかないので、移動しようとしたところで声を掛けられた。


「おー! ランディじゃねえか、今日は嫁さんと一緒か?」

「最近の若い奴はませてるなぁ」


 調教師仲間の二人だ。こんな若い俺でも気さくに話しかけてくれて目を掛けてくれるいい人たちだ。こうやって軽く冗談を言い合える程度には、俺も調教師の仲間として受け入れられてると思いたい。


「そんなんじゃないよ。からかわないでよ」

「そそそ、そうです。そんなんじゃ‥‥‥まだ、そんな関係じゃ、でも別にそれでもなんて‥‥‥」


 ソーニャの動揺が凄まじいことになっているが、俺はいつものことだから軽く受け流す。みんなにイジられるんだよな、いつになったら結婚するんだって。まだそんな年じゃないだろうに。


「それじゃ、俺たちは退散しますか」

「つっても、ただまだ仕事が残ってるだけなんだけどな」


 二人は視線を竜舎に移した。俺もそれに合わせて竜舎を見る。扉が開かれている。


「そうか、今は海竜たちを放してるから見回りですね。お疲れ様です」


 軽く挨拶だけして、二人と別れた。さっきから動揺してるソーニャはまだ立ち直り切っていない。ふふふ、初心だねぇ。


「それじゃあ、いこっか」

「う、うん!」


 顔が熱くなっているのかソーニャは顔を手で仰いでいる。


 俺たちは丁度いい木陰を見つけると、持ってきたシートを広げて、サンドウィッチとスープを取り出す。


「作ったところは見てたけど、やっぱり青空の下でみると断然違うな」


 家の中で見たものより美味しそうにみえる。しゃきしゃきのレタスも、ぷりぷりのスクランブルエッグも、少し硬めのパンも、野菜を煮込んだスープがちょうどいい温度になったことで、香りが漂ってくる。


「おかえりなさい、あなた。ご飯もう出来てるわよ」

「お、おう」


 そういえば、ままごとでした。いつの間にかソーニャは奥さん役になり切っている。切り替え早いなおい。


「それじゃあ、食べましょ?」

「うん、それじゃあ頂くよ」


 俺も仕事帰りの旦那さんのふりをして、ネクタイを緩める動きをしたが、首を傾げられた。まぁ伝わらないわな。

 とりあえず、食べますか。サンドウィッチを取ってもらい大きく口を開け頬張った。


“もぐもぐ”


「どう? 美味しい?」

「うん、美味いよ。凄く美味い。このスープもいい味出してるよ」


 硬めのパンもスープと一緒に食べることで柔らかくなって、相乗効果も抜群だ。今でこれなら将来はもっと飯うまな奥さんになることだろう。ふふ、未来の宴も楽しみだ。


「好きだなぁ、こうしてランディとのんびりしてるの」

「うん、ずっと続けばいいなぁって俺も思ってるよ」


 本当にそう思う。こんな生活が、未来がずっと続けばいい。家族でこうしてゆっくりと。

 俺とソーニャは並んで横になる。木の葉っぱが風に揺られ、隙間から太陽の光が漏れている。


「でも、また遠くに行っちゃうんでしょ?」

「仕方なくね‥‥‥」


 そう、多分だがゆっくり暮らせるのは今が最後かもしれない。ソーニャや両親たちに会えるのはいつごろになるだろうか。

 海竜を手なずけた技術なんてものが存在し、確立したとなれば、大きな権力の波に呑まれるだろう。もし、それがフォルたちにとって過酷な道になるのなら、俺は‥‥‥。


「ぴぃ」


「うわ」

「きゃ」


 突如寝ころんでいた俺たちの顔を覗くように海竜が現れた。ふたりして仲良く情けない声を出した。


「おい、脅かさないでくれよ」


 俺たちの前に現れたのは案の定フォルだった。まぁ、こんなに人懐っこいのは未だフォルぐらいしか知らないが。


「か、海竜‥‥‥!! ど、どうしよう。危ないよ‥‥‥」

「大丈夫だよ、この子は人を襲わないよ。ほら、おいで」


 念のために、ソーニャとフォルの間に身体を割り込み、頭を撫でてやる。


「よーし、よーし」

「怖く、ない?」


 フォルは俺の胸に頭を押し付けて甘えてくるが、それでもまだ怖いようで、俺の服を摘まみながら、背後から様子を伺っている。


「ちょっと見ててね」


 いつもしてやってるように、首にかかっている笛を吹く。


“ぴぃーいいいぃぃぃ、ぴぅいーーーーー”


 フォルはさらに体勢を崩し、身体を預けてきた。

 この頃さらに体が大きくなって、下敷きにならないように気を付けている。って、うおっあぶな!


「ね?」


 危ない危ない、危険だと思われないように精一杯の笑顔で振り返った。頬に流れる汗は暑さのせいだ。


「触ってもいい?」

「うーんどうだろうか」


 人に慣れているとはいえ、俺にのみなんだよな。まだ他の人にはどこか警戒している素振りを見せるときもあるし、どうだろうか。万が一の時は俺が間に入れば止まってくれるかな。


「フォル? 触らせてくれるか?」

「‥‥‥」


 ジトっと俺の目を見た後、やれやれというように目を伏せて、横たわった。


「あはは、仕方ないってよ」


 全く素直じゃないんだから。


「なんでわかるの?」

「なんでって‥‥‥なんでだ?」


 たしかに、別に人間の言葉は喋ってないけど、分かるとしか‥‥‥ペットが何をしてほしいかなんとなくわかるって感じか。

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