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あっという間に~ククルカ島②Ⅲ~

「く、それは‥‥‥そうかも知れないが」


 顔を顰める父さんに少し疑問を抱える。そんなに嫌なことか? するとポンと頭に手を置かれた。


「小僧の父さんは学園の良くない噂を聞いているのかもしれないな」

「良くない噂?」

「あぁ、貴族のボンボンが無茶苦茶したりするところもあるらしいからな。けど、安心してくれ。ハバールダ辺境伯その人は俺から見ても素晴らしい人だ。自分の都合で迎え入れた客人に変な事させねぇよ」


 あぁ、自分の息子がそんな場所に放り込まれることになったら、そんな反応にもなるよな。


「‥‥‥ランディ、またどっか行っちゃうの?」


 ソーニャが不安そうに俺の顔を覗き込む。さっきまでお腹いっぱいで気持ち良さそうにウトウトしていたのに空気の異変を感じて起きちゃったか?


「しばらくは島にいるけど、二年後には学校に通わないといけないんだってさ」

「‥‥‥学校に? 私も行ける?」

「どうなんだろうね、多分同じとこには行けないんじゃないかな」


 ソーニャが学校に行けたとして、村長の娘と言う立場の都合上、内政を勉強するか、良いとこのお坊ちゃんに嫁げるように、出会いのあるような学校に行くんじゃないだろうか。

 俺のところは、雰囲気的に職業訓練所に近いっぽいんだよな。もしくは専門学校。


「‥‥‥やだ、おじいちゃんに頼んでくる」

「いやいや、そんな良い所じゃないと思うぞ。多分田舎で周りには何もないと思うし、土臭い、いや潮臭いと思うぞ?」

「‥‥‥ここと一緒。何も変わらない」


 そうでした。ここは田舎で潮臭い所でした。


「‥‥‥じゃあ、行ってくる」


 そう言い残しソーニャは村長のところへ小走りに駆けていった。


 村長は俺の「頑張って引き留めてね」のウィンクなんか見えてないようで、孫から話しかけてもらって上機嫌なのか口角が上がりまくっている。

 実質この島を牛耳れるのはソーニャなのでは?



 母は無表情、父は頭を抱え、村長はニマニマ、ソーニャの両親はアワアワ。あかん、これは俺の手に負えない。

 俺は天にこの先の未来の安寧を祈るばっかりであった。




 次の日、二日酔いの父に呼び出された。恐らく、昨日判明した、俺の学校へ行くという話だろう。

 俺は関わるまいと早々に寝てしまったが、父さんは家に帰った後、無表情の母さんに呼び出され、深夜まで話し合ったそうだ。明らかに顔が疲れている。

 ご苦労様です。


「えーっとだな。結論から言うぞ。ランディには学校に行ってもらうことになった。で、だ。それにあたって、予習として少し早いかもしれないが、俺の仕事を手伝ってもらうことにした」


 ほう、英才教育と言うやつですか。


「わかったよ。出来るだけ頑張る」





 そうして俺は、魔法カード早すぎた労働を手に入れた。誰だ、こんなカードを俺のデッキに入れたやつは。



 そこからは、怒涛の毎日で朝起きて、海竜のお世話をして、父たち調教師のサポートをして、竜舎の掃除をして、夕暮れにはご飯を食べて、バタンキューを繰り返す毎日だった。


 たまに休日を貰えると、釣りをしたり、ソーニャと遊んだりした。

 そんな中でも、魔法の練習は欠かさなかったし、フォルの前で新しく買ってもらった笛で演奏の練習をしたりした。



 そして一年が経ち、龍卸際がやって来た。

 どりゃあああああああああああああああ。喰うぞおおおおおおおおおお!!


 俺も立派な島民の一員になっていた。



 いやぁ、自分が手伝って、立派な海竜が巣立っていく姿は、心に来るものがあるな。

 凄い頑張ったんだから。だって、眠り笛を使わないでやって来たんだから。そのおかげで、生傷も増えました。

 でも、嫌なものは嫌なんだもの。あの硬直して、すべてを諦めたかのような眼、あれをさせるぐらいなら、俺は海竜に反抗されようが、傷を負おうが全部我慢して見せる。


 そして、フォルだ。同年代の海竜より体が一回り大きくなったことにより、まとめ役の雰囲気を醸し出し始めている。時期海龍候補だ。大きくなったもんだねぇ。いつかフォルも国軍に卸されるのかと思うと、どうにかならないものか。


 こればっかりは、俺の一存で決められないけど、出生や現状が特殊な個体と言うことで検証の名のもと、戦場には出ずにここに残っていて欲しい。実家に戻ったときに久しぶりに会うペットでいてほしい。



 さて、そろそろ祭りの準備が終えそうだ。前見た光景を思い出す。


「ただいまより龍卸祭を始める。皆の者、目を瞑り、祈りを捧げよ!」


 例の如く、民族衣装を身に纏った一団が笛と太鼓を演奏し、海龍の模型が宙を舞う。


 前回は、初めての光景に夢中で気が付かなかったが「目を瞑り」って言われてたんだな。まぁええか。持ってみていたいし、せめてちゃんと祈りだけしておいたらええやろ。


 ということで。


 ご先祖様と子々孫々、海竜と、海竜と共に歩む我々の栄光を願って。



 あ、見られてる。海龍を模した模型と目が合う。だが恐怖はやってこない、というよりも高揚感が湧き出てくる。これが自然なことではないと分かっているが、踊りだしたくなる。


 俺は島民の輪からこっそりと抜け出し、輪の後ろで、舞った。

 音楽に合わせ、海龍の動きに合わせ、祈りを込めながら。


 笛と太鼓の音、篝火の光も一緒になって空に舞う。


“どん、どどん、どん、どどん“

“ぴぃいいいいい、ぴぴっ”


 あはは。楽しくなってきた。


“どどどん、かっ、どんどん、かっ“

“ぴぅぃーーーーーー、ぴぃっ”


 まだまだ、もっともっと! 


 演奏が佳境に入り、激しさを増すと、それに合わせて俺のステップも激しくなる。

 しかし、感情とは別に頭は冴えている。すごく落ち着いている。なんだ、このちぐはぐな感じ。以前にもどこかで、こんなことがあった気がする。


 あ、思いだした。巨大ガニに襲われて、俺が意識を失う直前だ。傷ついた身体が熱をおび、頭は逆に落ち着いて、帰ってこれなくなりそうな変な感じ。


 もっと、踊っていたい気分だ。



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