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検討~ククルカ島②Ⅰ~

 宴の準備があらかた終わり、時刻は夕暮れ過ぎ。俺は父と共に村長宅に呼び出され、俺が遭難してからのお互い何が起こったかの報告を聞いていた。



「まずはランディ、良く生きておったの。少し話を聞いたがお前さんでなければ、生き延びる可能性を捨てていたかもしれない。お前さんの両親が顔をオーガのようにして、島会議に出席していてな、あれは肝を冷やしたわい」

「あの時は頭に血が上ってただけで、今では妻共々反省してるよ」


 一体何があったのだろうか。見てみたさはあるが、周りの大人たちに視線を向けると全員目を逸らしているので教えてはくれないだろう。

 本当に一体何があったんだ。


「して、フォルよ。海竜を手なずけたというのは本当かの? それにフォルも一回り同年代の個体より大きくなっていたぞ」


 その言葉に、調教師として働く大人たちが身を乗り出した。興味半分、悔しさ半分といったところだろうか。


 あとはそう、フォルは先の遭難で急激に成長したらしいのだ。魔物の急成長と言えば、同じ魔物を倒し、相手の魔素を取り込むことで起こるが‥‥‥だとしたら、可能性としてあるのは巨大ガニ。あれらを倒したかもしれないのだ。逃げたのではなく。


 というのも、俺は一緒にいた一週間ほど全く気が付きませんでした。だって船小屋であったときは痩せてたし、その反動で太ったのかもとしか、ね。



「手なずけたというと、語弊があるかもですが、だいたい何をしても襲われない。少しなら喋りかけたり、態度で言うことを聞いてくれる。って感じです」

「そのきっかけや方法は分かるか?」

「父に買ってもらった、港のお土産の子供用の笛でした。それを吹いていたらフォルの関心を惹き、フォルの遠吠えに呼応するように吹いてからは、べったりになった印象です」


 本当にたまたまだし、なんとなくの推測はあるけど、確証はないから聞かれるまで話さない。

 もちろん情報を独占しておいて、なんらかの手札にしておきたいというのもあるが、それよりも面倒事に巻き込まれたので、たまたまということにしておきたいのだ。



「ふむ、他の個体にも聞かせていたけど、反応していないということは、フォルに理由があるだろうな、元々野生だったこととかか。‥‥‥だとしら野生下では、笛の音に似た声でコミュニケ―ションを取っていた可能性があるか。一度野生の個体に聞かせてみたいものだ」


 バレテーラ。まぁ、俺で思いついてるんだから他の人も気が付くよな。



「急成長の件は分かるか?」

「恐らくですが――」


 俺は、巨大ガニが現れフォルを逃がそうとして、意識を失ったこと、目を覚ましたら助けられていたことを話した。


「なので、もしかしたらその巨大ガニの群れを倒したかもしれないです」


 会議室の中でどよめきが広がった。


 到底勝てる相手、数ではないのだ。大人のそれも歴戦の海竜ならいい勝負をするだろう。だが、子供の海竜それも単独で勝てるはずがないのだ。


「それが本当なら何か理由があるのだろうが、それも笛の音を聞いたフォルに起因するのかもな」


 村長は顎に手を当て、しばし考え込み、「わからん!」と啖呵を切ると俺に目線を合わせた。


「その時の笛は持っているか?」

「はい、もう壊れて音も出なくなってしまいましたが」


 俺は村長に笛を手渡した。



「ほう、これが‥‥‥。ふむ、いたって普通の笛じゃな。だれか港の土産売り場から何個か買ってきてくれ」


 村長の言葉に若い男が一人駆けて行った。


「実際に試してみるか。よし竜舎に移動するぞ」



 竜舎に到着してしばらくすると、笛を買いに行った若者が汗だくで戻って来た。


「竜舎に、行くなら、先に、言っておいて、欲しかったす」

「すまんな、苦労を掛けて」


 村長は笛を受け取ると、懐かしそうに眺めてから、幼竜の前で吹いた。


“ピィーーーー”


 幼竜たちは何事かと反応するも、しばらくすると関心を失ったかのように、おのおのの自由時間を過ごし始めた。


「やはり、何も起こらぬか」

「フォルも、こちらを向くだけで直ぐに興味を無くしましたね」


 これは意外だな。フォルはこの笛の音が好きなはずなんだが。


「では、ランディよ。試しにお主が吹いてくれ」

「分かりました。では――」


 俺は村長から笛を受け取り、服で一旦拭って綺麗にしてから同じように吹いた。


“ピィーーーー”


「ピゥイ―ッ」


 フォルが反応した。俺が吹いていると分かったからなのか、一度だけ反応して、巣穴から体を出した。

 あ、あれは遊んでくれると勘違いしてるな? 残念、今はお仕事だ。


「ふむ、ランディだと反応するか。ということはもしかすると、ランディに何か特別な力があるか、鳥の刷り込みに似たことが起きているのかもしれないな」


 大人たちの視線が俺に集まる。


「えっと、僕は魔力量もほとんどないし、自分で何か特別な力があるとも思ってないので、後者の刷り込みかと‥‥‥」


 多分、本当に刷り込みに近い気がする。最初に吹いたのが偶然俺だったという話だ。


「なるほどな。分かった、次は大人の海竜に試してみるとするか」


 俺たちは子供用の竜舎を出て、少し距離の空いたところにある大人用の大きな竜舎に移動した。


“ピィーーーー”


 ではと前置きした村長が笛を吹く。


 全然関係ないけど、先ほど俺が笛を拭いたことが傷ついたのだろうか。新しい笛を使っていた。なんかすまないね。


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