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フラグ~ハバールダ辺境伯Ⅰ~

 一通りフォルの世話をやり遂げると、ジェフが話を切りだした。


「度重なって悪いが、これまでの経緯を聞きたい。漁業組合で通達が来ててな。行方不明の男の子と、海竜の幼竜の捜索願が出されている。身に覚えはあるか?」


「そんなことに。‥‥‥多分僕のことだと思います」


 俺はクラーケンの出現から、無人島に流れ着いたこと。魔物に追われてサバイバルをしていたこと。脱出を試みて巨大ガニに襲われて意識を失ったこと。そして気が付いたらベットの上だったこと。そのすべてを話した。


 それにしても意外だった。行方不明の男児一人のために漁業組合全支部に通達が行くとは。お父さん‥‥‥いや、お母さんが暴れて、村長が首を縦に振ったか?


「ふむ、良く生き永らえたものだ。お前さんの賢さのお陰か、はたまた海竜を手名付けた幸運か」


「賢さ? ありがたいですけど、どこを見てそう思ったんですか? フォルと仲良くなれたのは確かに幸運でしたけど」


 運だけは良いんだ。全ラノベ好きの夢である転生してるしね。


「そら、5歳かそこらの小僧の話し方じゃねぇしな。異様な落ち着きようもそうだが。おれの息子が5歳の時なんて、泣きわめいたり暴れたりで大変だったもんよ」


 それでバレるのか。少し気を付けよう。変なことに巻き込まれたくないからな。あ、なんかフラグっぽいな。無し! やっぱ今の無しで!


「おい、親父。そんなことまで話さなくていいだろ。部下の前で示しが付かねぇよ」


 ジェフの後ろを付いてきていた集団の一人が前に出てきた。彼がジェフの息子なのだろう。どことなく面影があるような気がする。


「頭目と呼べ! 頭目と!」

「うるせぇ、とっとと引退しろ」


 口調は悪いが雰囲気は悪くない。周りの人たちも「また始まったよ」と笑い流している。


 暇を持て余して暫し立つと親子でのイチャイチャが終わったようだ。再びジェフが声を掛けてきた。


「これから俺は、組合と領主様に話をしに行かなきゃならねぇ。海竜の面倒を見ててもいいが、取り合えずしばらくは俺の家で過ごしてくれ」


 しばらくってことは数日から一週間は見ておくか。領主に話に行くんだもんな、そりゃアポイントメントも必要になるだろうし。それにしてもなんで領主? 不思議に思った俺はそのことについて尋ねた。


「領主様には何用で?」


「そらお前のことだよ」


「???」


 頭の上にクエスチョンマークが並んだ。


「あのなぁ。海竜ってのは魔物だろ? それも軍事利用されている」


「えぇ、父は調教師でたくさんの海竜の面倒を見ています」


「お前の父ちゃんの言うことを海竜たちは素直に聞くか?」


「はい、聞いていますよ? 一糸乱れぬ統率を仕込まないと卸せないって言ってました」


 あれは日本の体操の行進にも引けを取らないぞ。すんごいんだからウチの父ちゃん。


「いいや、そうじゃない。あれはな、眠り笛で体の動きを止めて、魔法で動きを誘導してるんだ。それに比べて、お前はどうだ。お前がこうして欲しいと言えば、言うことを聞くらしいじゃないか」


「子供みたいに反抗されることもありますけどね」


「つくづく5歳児の発言じゃねぇな。‥‥‥話を戻すぞ」


 呆れたようなジェフは、顔に真剣さを取り戻した。


「海竜は魔物だ。それも上位種である竜種だ。自分より格下の人間の言うことなんか聞かない。懐くなんてもっての他だ」


「でも懐いたよ?」


 俺はさっきから背中に「構って」と服を咥えて引っ張るフォルを指さした。


「だから領主様に報告するんだよ」

「ぐへっ」


 ゴンっと俺の頭に岩の様な拳が落ちてきた。


「いたた。殴ることないじゃないですか」


 頭を摩りながら責めるように口を尖らせると、ジェフはもう一度拳を握るような素振りを見せたので、すぐに気お付けの姿勢を取った。


「これが俺の教育方針だ」


 そんな横暴な。マジかよとジェフの息子さんに目線をやると「諦めろ」と無言で口を動かした。


 俺は肩を落とし、無理やり納得させた。フォルはどことなく楽しげだ。コイツ。









「と言ってもやることないから、結局ここなんですよね」


 三日後、俺はフォルに会いに船小屋に来ていた。


 あの後、帰ってきたジェフの奥さんの飯をご馳走になりながら聞いた話によると、領主との面会は四日後になった。


 そう、面会だ。面会!?


 俺もビックリした。経緯としてはジェフが、領主に報告すると、領主は俺とフォルを見てみたいと言い出したが、仮にも魔物であるフォルを街中に移動させるのは危険だということで、直々に領主が会いに来るそうだ。


 フッ軽すぎないか? いや、俺が考えてるよりも重要な事だったのかもしれない。


「どうしようね、社交マナーなんて知らないよ。ジェフさんは五歳児にマナーを求めるような人じゃないとは言ってるけどね。どこまでが許されるか分かんないじゃん」


 貴族社会とは無縁だったし、異世界文化なら特にどこに地雷があるか。


 これから起こる胃痛案件に顔を歪ませていると、入り口の方に人影が見えた。



「あれ? 誰かいます?」


 声を掛けると、門に体を隠しながら顔だけ出した。金髪のツインテールを揺らしながら、吊り目を大きく開きこちらを見ている。


「どしたん、話聞こか?」


「あ、危ないんだからね!」


「???」


「あなたの、その近くにいるの! ま、魔物でしょ! 危ないわよ!」


 はは~ん、ぼく知ってる。これ、厄介ごとだな?


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