目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
初めての戦闘~無人島Ⅱ~

「え?」


 パッと振り返ると、ゴロゴロと転がり、直ぐに体勢を立て直し始めている狼の様な生き物が一匹、その後ろで今にも飛びかかろうとしている狼が3匹。


 もしかして、今死にかけた? ならなんであの狼は転がってたんだ?


 そんな疑問を解決するかのように、川から拳大の水塊が、狼の群れに飛んで行った。


 フォルが俺を助けてくれたのだ。


 しかし、狼の群れも既にフォルを警戒しており、余裕をもって回避している。


 フォルって魔法使えたんだな。

 チラっと感謝の意を込めてフォルを見ると、初めて会った時のように怯えた目をしていた。


 フォルは魔法を使えるから簡単に敵を倒せると思った。違った。

 フォルだって怖いんだ。もしかしたらトラウマと重なっているのかもしれない。


 そんな中で勇気をもって反撃をしてくれた。


“助かった”なんて思考は直ぐに振り払い、俺は俺でどう援護しようか考え始めた。


 水魔法……いやだめだ。威力が足りない。

 だったら――


「これだろッ!!」


 人間の体の構造において、他の動物を圧倒的に凌駕する行動。それは投擲だ!


 俺は足元に無数に落ちている石を拾い投げまくった。


 石の弾幕が鬱陶しく感じられたのか、標的を俺に戻し、隙を狙って飛びかかろうとする狼たち。しかしフォルがいいタイミングで水弾を放つ。


 お互いに攻められずに膠着する状況。であるならもっと弾数を増やせ!


「おおおおおおおおおおおおお!!!」


 精一杯の大声で、多少でも気後れしてくれと願いながら叫び、腕を振る。


 フォルの牽制にフォローされながら、投げた石の礫のうちの一つが先頭の狼の眉間に吸い込まれる。


 が、ギリギリで躱した。その体の毛皮に沿うように。


 だからこそだったのだろう。その後ろにいた狼は石の存在に気づくのが遅れた。


 反射的に避けようとしたが前足に当たり、怯んだ。

 今度はフォルがその隙を狙って放った水弾がクリーンヒットした。


「よし! もっとだ! おおおおおおおおおおおおお!!」


 敵の勢いが削がれ、これ幸いと物量作戦を押し付けた。


 すると、狼たちは劣勢を悟ったのか踵を返し、森の中へと去っていった。


 助かったのか。


 奇跡としか言いようがない。野生の狼に襲われ、子供と幼竜が一人と一匹、無傷で相手を退けたのだ。


「……なんか、一気に疲れた。ありがとうフォル」


 ドカッと大きな岩に腰を掛け、大きく息を吐いた。

 気が付けば脚が震えていた。緊張と恐怖からの解放でしばらく立ち上がれずにいると、よっせよっせとフォルが近づいてきた。


 「おいおい、もう大丈夫だって。うわっ」


 近づいてきた勢いそのまま、フォルは俺に身を寄せ押し倒し、頭をぐりぐりと押し付けた。


 「わかった、わかったから。もう大丈夫だから」


 フォルの体を摩りながら宥めてやると、ようやく離れてくれた。

 くそ重い。もっと早くどいてくれても構わないぞ。


 怯えながらも反撃してくれて、こうして擦り寄ってきてくれるってことはありがたいんだけど、狼たちの接近に全く気が付かなかった。またいつ襲ってくるかも分からない。


 早くここを脱出しないと。もしかしたら野生動物だけじゃない、魔物だっているのかもしれない。


「行こうか、フォル」


 一息つき、脚の震えも収まった頃、俺たちはまた歩き出した。

 それぞれ川辺と川中で、お互いに先ほどよりも近い距離で。




 歩きながら俺は以前、母にこの世界について教えてもらっていたことを思いだした。


 魔物。人類の共通の敵にして、その体は国や生活を潤すため討伐対象にされている。


 また、この世界で唯一、進化という名の変態現象を起こし、より上位の存在として生まれ変わることがある。それは何かしらの経験を得る、身を苦しめるほどの感情を持つ、などが例に挙げられるが、その大半は長く生きた個体に多い。


 よって、人間側はそれを討伐するために、武器や力、それらを専門とする職業を生みだしてきた。


 フォルおよびうちの島で飼いならされている海竜も魔物の一種であるが、幼いころよりの躾であったり、特殊な方法を用いて飼いならすことも可能とされている。


 生息地としては、世界各地に存在しており、とりわけ人の少ない野生化において頻繁にみられる。

 繁猛する森林、極寒の雪山、灼熱の砂漠、険しい峡谷、暗黒の深海。



 そして俺は家で教わったことで今一番大事なことを忘れていた。


 魔物の生息地域は人の生活圏と被らないところでよく発見され、――無人島などは人の立ち入らない最たる例である。



「ギェ?」

 ランデオルスとフォルが辿り着いた島の深い森の奥。


 大きな像ほどの猪が横たわっていた。辺りには血飛沫で染まった葉、血だまりで泥濘ぬかるんだ地面。


 そして獲物を啄んで肉を嚥下したソレが目を光らせていた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?