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夏祭り~ククルカ島Ⅲ~

気が付けば太陽は真上を通り過ぎ、少し傾きかけていた。


 ソーニャはまだかわいい寝顔を晒しており、微笑ましい気分になるが、そんなことより。


 なんだこのいい匂いは!


 まだ乳歯も生え揃ってないから食べることすらままならないのだが、胃袋を直接刺激するような肉の匂い!


 闘争と興奮を促すようなジュゥーという焼ける音!


 これを腹いっぱいに食べたい!今なら島民がなぜあれ程に浮足立っていたのかが分かる。これはもはや暴力だ。






 どれほど涎を飲み込みながら待っただろうか。出来上がった料理を持ち、広場にやってきた。


 空がオレンジ色に染まり雲は橙と薄紫色を照らしている。

 広場には幾つもの篝火と集まってきた人々の声、中央の組み上げられた祭壇には祭りの準備で忙しなく動いている若人達。


 前世で子供の時に行った地元の夏祭りを思いだし、鼻の奥に乾いた涼しげな風を感じた。

 なんとなく、少しだけ、こちらじゃない異世界に祈りを捧げた。


 …それにしても美味そうな料理の品々だな。


 ジーっとこれから島民たちが口にするであろうご馳走を見ていると、不意に母に笑われた。


「三歳でも美味しそうな匂いは分かるのね~」

「初めての龍卸祭だから、慣れない匂いにビックリしてるだけかもよ?見てソーニャなんて…」


 リーリアが塞ぎ込むように丸くなり顔をリーリアに押し付けているソーニャを見せてきた。


「ふふ、この子たちもそのうち慣れるわよ。ランディはもう料理に夢中みたいだけど」


 ママ友同士の会話を聞き流し辺りを見回していると、村長が現れ、皆が静かになった。


「ただいまより龍卸祭を始める。皆の者、目を瞑り、祈りを捧げよ! 」


 その号令が響くと、民族衣装に仮面を身にまとった楽団の笛や太鼓の演奏とともに、祭壇に置かれていた海竜を模したであろうバラバラの模型が宙を浮き、泳ぐように料理の周りを飛び始めた。



 どうなってるんだあれ、魔法で宙を浮くって再現可能なのか?


 思わず目が点になるほど見入ってしまう。見えない関節で繋がれているかのようにその模型は流麗に踊っていた。


 島民たちは皆んな目を瞑り、静かにその光景に祈りを捧げていた。


 早くなる太鼓の鼓動。


 鋭くなる笛の音。




 いよいよ佳境に入ろうとしたところで、ふとその模型と目が合ったような気がした。




 これが生きてる海竜か。そう思わされた。目を逸らせない、目を奪われる。


 そして、曲の最高潮にて天へと昇り、その模型が祭壇に鎮座したと同時に曲は締めくくられた。



「さて皆の者…」

(((ゴクリ)))

 静寂の中、ポツリと呟いた村長の言葉に注目が集まった。


 なんだ?


「宴じゃああああああ!!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおお」」」


 だ・か・ら!!

 静から動のギャップがえぐいんだって。あーあソーニャ泣かせたよ。



「おう」

 ソーニャがまだぐずっている中、民族衣装を着たザンキが現れた。


 父さんもあの楽団の中に居たのか。ってことは楽器演奏できたんだな、なんの楽器を使ってたんだろうか。


「あなた、もういいの?」

「ああ、もうあとは宴を楽しむだけだ。村長たちはまだ仕事が残っているらしいけどな」

「そうなのね、じゃあ私たちは先にこの子たちを寝かしつけてくるわ」



「……よし、じゃあランディおやすみね」


 ソーニャたちは自分たちの家に帰り、今は1人でベットの中だ。


 窓からの風が興奮冷めやらぬ体を吹き抜けていく。


 ボーっと見つめる天井に先ほどの光景が映る。

 笛と太鼓の演奏、散らばる火の粉の上を悠々と駆ける海竜。そしてこちらを眺める窪んだ眼。


 目を見る


 眼を見る


 瞳を見る


 眸を見る


 ……とても綺麗だ。


 いつの間にか見ていた光景は、気づけば瞼の裏だった。


 宴から数日たったある日、俺はあることに気が付いた。


 祭りのときの海竜を浮かせていたあの魔法の仕組みについてだ。

 宙に物を浮かせて操るならテレキネシス的な魔法だろうかと考え、そこらへんにある雑貨だったり、おもちゃに魔力を伸ばしてくっつけ、固定して移動させようとしてみたが動かない。


 物の重さに俺の魔力が負けてるのかと思い、ベビーベットの淵に捕まって立ち上がり、窓の外に見える、木の葉を操ろうとした。…結果失敗。


 では次に粒ほどの砂利に魔力を伸ばしてみた。…結果成功?

 出来るには出来たけど、疲労感が半端ない。他にも、虫、髪の毛だったりと色々試してみたところ、生物&その一部と非生物で大きく分かれたことが判明した。


 ここからは予測なのだけれど、魔力が意志の塊であるなら、生物に固有の魔力が宿っており、それを他の魔力で干渉することは難しい。または、そっち方面での天性の才能が必要なのではないだろうか。


 いわゆる固有魔法ってヤツだ。

 とはいえ、こんな小さな島に固有魔法を持っている確率ってどんなもん?


 と、そこである可能性が思い浮かんだ。


 …あの演奏自体が一種の魔法?


 儀式魔法なんてものが存在するのかどうかは、分からないが、きちんとした場で、きちんとした手順で…あり得るのかもしれない。というか、一番現実的かも。


 現実的?と疑問に思われても困る。こちとら異世界だぞ。祈りが馬鹿にならない世界なんでね。


 さて、今私が興味を持っていることがもう一つあります。そう演奏です。


 といっても『儀式魔法の一種かもしれない』という理由が大半だが。ちなみに少しのカッコいいも含まれています。


 自由に動けるようになったら笛でも強請ってみようかな。

 それまでは魔法一筋天才少年になろう。


 エセ念動力は暇なときにでも練習して、第一は水魔法を磨いていこう。


 水魔法で出来るようになりたいことは結構ある。いや~、魔法が使えると気づいたときは妄想が捗りましたな。


 そのやりたいことリストが以下です。

 一つ、水で柔らか極上布団

 一つ、水を浮かせて、筋斗雲

 一つ、定番高圧ウォータージェット切断

 一つ、全自動洗濯

 一つ、どこでも風呂


 ……最後の方は主婦の悩みみたいになっちゃったな。


 まだまだetc…ありますけども。


 とりあえずはこんなもんで如何でしょう。簡単そうでしょ? でも嘗めてもらったら困りますよ。こちとらチート特典なしですさかい。


 水の表面張力がどうのこうのとか、発射口を絞り威力の増加とか、そういう話じゃないんです。


 単純に作り出せる魔力の量が雀の涙なのがイケない。あれだけ毎日魔力切れの激痛と戦っているのに、本当に微々たる量しか増えない。


 一応なんちゃってダイヤモンドカッターだけは出来なくもないが、その他については水の量が足りないせいで、手も足も出ない。


 ちなみに、なんちゃってダイヤモンドカッターは、本当に薄っうーく、細っそーく、目に見えるかどうかまで引き伸ばし、それを高速移動させる方法なのだが、硬い材質だとどうしても水が当たった時の跳ね返りで飛び散るのを制御できない。


 つまり、魔力操作と魔力量が足らない現状では、何一つ出来ない。


 天才少年の道は遠いな。というか歩いてる道は合ってますか? 異世界転生諸先輩方。


 という訳で魔力量が増えないと何もできないので、魔力操作を念動力で練習しつつ、他のことをしたい。飽き性なんだ、俺は。


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