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魔法について~ククルカ島Ⅱ~

はい、3か月が経ちました。


 パパン話長すぎ事件により、あれからあまり外に出してもらえなかったので、家でできることをしてました。


 そう、魔法です。


 進捗としては、魔法が使えるようになりました!!


 …うん、魔法、ね。使えるようになったんですけど、どうやら才能にはめぐまれていなかったようです。


 この世界の魔法はイメージが大事なので、前世の科学を知っている俺にしてみれば発動自体は余裕でした。


 より具体的に言うと、魔法とは世界に干渉することのできる、限りなく0に近い質量を持つ意志のかたまりを用いて、色々する。とのことらしい。


 なので、魔力を元素としてイメージ、分子として結合させ、さらにそれをH2Oに変換することで水が作り出せる。


 魔力を水に変えるのは非科学的じゃないかって?出来るでしょ。異世界ファンタジーだよ?


 要はどれだけその事象を信じられるかという話であって、この世界での宗教の信仰もばかにならない。


 逆に言えば、科学を知っているということは、科学で実現不可だったことも知っているというわけで、重力操作とか、空中に浮くとか、時間を巻き戻すとかは、たぶん出来ない。方法を思いついても、信じられないからだ。


 そしてここで問題だったのは、魔力はこの世界に生まれた身としてあるにはあるんだけど、とても少ないらしい。

 初めて魔法が使えたとき、一度だけ小指の爪ぐらいの水を生成すると、お決まりのように耐えがたい頭痛に襲われ、そのままブラックアウトしていった。


 …これから増やすからいいもん。


 ちなみに魔法を発動せずに霧散する方法は魔力切れを起こしても痛みはなかった。なんでや?




 さて、そんなこんなで1年が経ち、今日はあの調教した海竜たちを卸す日だ。


 数日前ぐらいから島のみんな総出で準備しており、仕事とは別に漁に出かけたり、普段は獲らない山の鹿なども狩りもしていた。


 今夜はご馳走ですかい?

 まぁ、まだ食べれてもこの体では少量ですけどね。


 と、朝ごはんを食べ終え、お昼前になってようやく本土の人達が島に到着した。

 俺を含め多くの島民は、船頭に連れられ島に降りるザ・貴族のような人を出迎えるために、港に出向いていた。


 護衛を多く引き連れ、肩で風を切って歩く厳つい顔のおっちゃんは名前を「カイセル」というらしい。





 島の代表である村長と、調教責任者である俺の父が案内して、海竜たちを見せている。現在俺は母と手を繋ぎ、少し離れたところから見守っている。

 そして母の隣に並んで、同じように子供を抱っこしている女性が村長の息子の奥さんのリーリア。つまりこの赤ん坊は俺の幼馴染になるというわけだ。

 前世にも幼馴染はいたけど高校で離れて以降は、疎遠になり成人式で一度会った程度なので、今はどうしてるかも知らない。


 とりあえず、今世の幼馴染は「ソーニャ」という名前で、女の子だ。今日が初対面で失礼だが、遺伝的に可愛くなりそうだ。仲良くなっておこう。


 海竜の引き渡しは存外はやく終わるそうだ。

 海竜たちによる統制の取れた軍事演習をして、一体一体の健康状態や性格の説明をして、カイセルが了承したら終わりらしい。


 ザンキ達は仕事モードに入っているのか、普段では見たことのないキリッとした顔をしているが、俺にはわかる。これは「早く終わって宴だ」と考えているな。だってお偉いさんが長々と話している最中の目が笑ってないんだもの。


 とか、思っているうちに引き取りが完了した。

 海竜たちは後日、運送業者が連れていくとのことだ。



 カイセルら御一行が米粒ぐらいにまで遠く離れていくのを見送って数秒、ザンキは大きく息を吸ってから叫んだ。


「宴だああああああ」

「「「「おおおおおおおおお」」」」


 鼓膜がグッバイしたかと思った。ほら隣でソーニャがぐずりだした。

 村長もやれやれという顔をしながらも、宴の準備に取り掛かるように指示を出し、そそくさと帰っていった。…あれは家で酒が待ってるな?


 俺たち幼児はすることなどないが、母親衆はあるらしい。村の広場で作られる山盛りのご馳走と、それぞれの家から一品ずつご飯を持ち寄って振舞う。そして村で酒を買ってそれを神様にお供えしてから頂くのが、毎年の恒例とのことだ。




 というわけで母は調理の真っ最中だが、そこにはソーニャの母親もおり、当然ソーニャもいるわけだが、俺たちは布団の上で待機している。


 俺はいつもの布団だが、ソーニャは普段と違う景色にどことなく不安そうに辺りを見渡している。


 ここは一肌脱ぎましょう。


 ソーニャの顔の前に人差し指を出し、そこに魔力を集める。お、こっちを向いたな。

 そして指先から水玉を出し、ふよふよと空中に停滞させる。すると気になったのか、ソーニャは水玉を掴もうとしてきた。


「?」


 ふふふ、そうは問屋が卸しませんよ。


 俺は掴もうとしてきた手を搔い潜って、指の隙間から水玉を逃がす。それをまた掴もうとする。逃がす。掴もうとする。


 さながら猫じゃらし。ともあれ、初対面の子と二人きりでもソーニャは怖がっていない。なかなかに大物だな。


 数回繰り返したのち、泣かれないようにわざと捕まると弾けるように笑顔になった。

 やりやれ子守も大変だぜと、お兄ちゃん風を吹かしていると、もう一度とせがまれた。


 俺が水玉を出しているって分かってるのか。


 そして、もう一度出してやろうと魔力を集めたところで既視感が訪れた。

 あれ?確かこの後…痛ああああああああああああああああああああ


 魔力切れを起こしてギャン泣きする俺の声に反応して、ソーニャも泣いてしまい、何事かと足早に駆け寄ってきた母親二人の手を煩わせてしまった。


「ふふふ、ラディは泣き虫さんね」

「元気でいいじゃない」


 母さん違うんだ。

 申し訳なさと、恥ずかしさを胸に、意識を落とした。



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