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第12話:


 三日目の午前二時半過ぎ。宗近達の発炎筒投げ込み騒ぎで、ご近所さんからも様子を見に来る人が集まり、やや騒然としている民宿・万常次の玄関前通り。


「ケイ君、手袋それで大丈夫?」

「大丈夫。とりあえず消しときますね」


 騒ぎに気付いて起きて来た美奈子に状況を説明したケイは、借りた軍手をはめて発炎筒の消化と回収にあたる。

 煙を吐くタイプに比べて控えめとはいえ三本分。周囲を覆っていた白煙が風に流されて、通りが晴れるまでに少し掛かった。


 そうして証拠品の回収が済んだところへ、通りの入り口に停車していたRV車が、万常次の前に着けた。先ほどエイネリアから到着が告げられた協力者だ。


 ちなみにエイネリアは彩辻さんと部屋で待機中である。コウ少年から急に連絡が来て、人間電話状態の彼女を見られる訳にはいかないと考慮した。


「こんばんはっ 朔耶に言われて来たんだけど、コウ君の友人さん?」

「あ、どうも。曽野見といいます」


 運転席から下りて来た若い男性と挨拶を交わす。ややテンション高めな印象で、彼は都築つづき重雄しげおと名乗った。

 助手席に座っている中年の男性は矢萩やはぎ刑事だと紹介された。ケイは目礼で会釈する。


 ひとまず屋敷に上がってもらい、現状の把握と情報の共有を図る。食堂に集まったのは、ケイと美奈子に万常次夫妻。それに都築氏と矢萩刑事。


 この場には美奈子と万常次夫妻が居るので、エイネリアには引き続き二階の部屋に待機してもらっている。何かあれば彩辻さんが報せてくれる手筈だ。


 ケイはとりあえず、昨日からの一連の流れ――宗近達とのトラブルと発炎筒投げ込み事件までのあらましを説明し、彩辻さんのカメラからコピーした決定的瞬間の動画映像を観てもらった。


「コウ君アグレッシブだな。しかしこれは――いっとく?」

「ああ。これだけハッキリした証拠があれば、十分引っ張れるだろう」


 都築氏はコウ少年についてケイと似たような感想を口にすると、矢萩刑事と目配せして宗近達の身柄の確保まで進める事を確認し合った。


 万常次家から被害届けを出すか否かについては保留。もう少し経過を見てからという事に。

 今のところ民宿の家屋などに被害は出ていないし、下手に関わればより面倒な事になり兼ねない相手なので、慎重に考えて判断するそうな。



 概ね現状の把握と情報の共有が済んだところへ、彩辻さんが下りて来てケイに耳打ちした。


『コウ君から連絡があって、町を出る道の途中で宗近達の車を魔法で足止めしてるそうよ』

『了解』


 ケイはその内容を都築氏らに伝える。


「宗近達が町を出ようとしてるって情報が入りました」

「詳しく」


 コウ少年の事や情報の出所は明かさず、宗近達の現在地を報せると、都築氏らは直ぐに確保に向かうと動き出した。


「駐在さん拾っていくんで、少し掛かるかも」


 万常次夫妻に会釈して席を立った都築氏達は、慌ただしく食堂を後にする。玄関に向かう際、二階への階段を見上げた都築氏が思い付いたように言った。


「――と、その前にコウ君のメイドさんに挨拶してきていいかな?」

「あ、どうぞ」


 こちら側の人だけあって、コウ少年に関する事情にも精通しているようだ。エイネリアの事を把握している。


「俺は先に車に戻ってるぞ」


 いそいそと階段を上る都築氏にそう告げた矢萩刑事は玄関の方へ。そちらに付き添う美奈子がパタパタと小走りに先導する姿を見送り、ケイは彩辻さんと話しながら二階へ向かう。


「魔法で足止めしてるって?」

「うん。なんか幻惑の何とかって言ってたわ」


「幻惑……催眠系の魔法とかかな?」

「同じところぐるぐる走らせて無限ループとか……って、それは結界とかになるのかしら」


 精神に作用するような力を容易に扱えるとなれば、それは結構な脅威なのではないかとケイは思えた。


「コウ君、思った以上にヤバいな」

「根はすごく良い子よ? でも実際、底がしれないのよねぇ」


 そんな話をしながら二階に上がって来たのだが――


「フォォォォッ リアル生きフィギュア! パーフェクトメイドさんキタコレ激写ー!」


 都築氏がスタイリッシュな動きでエイネリアの周りを跳ねながらカメラ撮影していた。


「……」

「……」


 ケイは彩辻さんと顔を見合わせると、見なかった事にして静かに階段を下り始めるのだった。




 あの後、五分ほどで下りて来た都築氏は、コウ少年が宗近達を足止めしている現場に向かうと言って万常次前から出発していった。


 続報はコウ少年からエイネリア経由でもたらされる。彩辻さんとエイネリアは、ケイの部屋に移動して朝まで待機。


 ちなみに、万常次夫妻と美奈子には、それぞれ自室で休んでもらっている。


「しかし、コウ君の狙い通り宗近達は町から出ようとしてたみたいだけど、捕り物になるとはなぁ」

「逃がさない方がいいって判断したみたいね」


 身柄を押さえたとしても、この町の駐在所には拘留しておく為の設備がないそうなので、麓の町の警察署まで運ばなければならない。


 都築氏の車で運ぶのだろうかと考えていると、コウ少年から状況を報せる連絡が来た。今、駐在さんを連れた都築氏が来ており、宗近達の身柄をいつでも確保できる状態だという。


『ふもとの警察署からおうえんのパトカーがくるらしいよ』

「ああ、なるほど。駐在所から要請したのか」


 コウ少年が宗近の追跡中に回収した証拠品も、駐在さんに提出してあるそうだ。なんと、未使用の発炎筒がまだ七本もあったらしい。

 他にも犯行に使用した手袋や発炎筒を入れていた袋に、犯行時に着ていた上着なども投棄しながら逃げていたという話だった。


「ますます火事の原因は宗近達だった説が濃厚になってきたな」



 その後、明け方頃になって応援のパトカーが来たらしく、状況をリアルタイムに伝えるコウ少年の実況解説で、現場の様子を詳しく知る事が出来た。


『なんか今、お目付け三人衆が飛び込んできてわちゃわちゃしてるよ』

「スーツ組が来たか」


 現在、大勢の警官に囲まれて任意同行され掛けていた宗近のところにやって来たボディガード兼お目付け役の三人が割って入り、騒然としているそうだ。


 彼等の記憶を読んだコウ少年によると、宗近達は『大人しくしておくように』という言いつけを破り、お目付け役の目を盗んで犯行に及んでいたらしい。

 騒ぎに気付いた三人衆はかなり慌てて追って来た様子との事。


「公務執行妨害とか付くのかな?」


「どうなんだろう? そこまで下手は打たないと思うけど」

「手慣れてそうだもんねぇ」


『ぞくほう! 混乱おさまる』


 引き続き届けられる現場の情報によれば、騒ぎは割とすぐに収まったそうな。

 どうやら状況を知らされた北条代議士の筋から、お目付け役達に速やかな事態収拾の指示が下ったようで、宗近達は大人しくパトカーで運ばれていったという。


『あ、それからそっちにもパトカーが向かってるよ』

「了解。万常次さん達に伝えとくよ。コウ君お疲れさん」


『おつかれー』


 現場からの実況通信が終わり、ケイ達も一息吐いた。


「ふぅー、これで一段落かな?」

「そうね。中々濃い夜だったわ」


 彩辻さんは、今回の出来事を「何処まで記事に出来るかしら?」とか考えているようだ。

 ケイはとりあえず、彩辻さんとエイネリアに引き続き部屋で待機していてもらうと、自分は美奈子達を起こしに一階へ向かった。



 パトカーがやって来たのはそれから約十五分後。年配と若者の警官コンビで、簡単な事情聴取と、道路の焦げた痕を確認するなどの現場検証を済ませて帰って行った。

 この件をどう処理するのか、方針はもう決まっていそうな雰囲気だった。


「まあ、うやむやには出来ないでしょ」

「そうよね……ふぁ~~~ねっむい」


「お疲れさま。今日もホテルのヘルプはあるの?」

「あるのよ~~……途中で寝ちゃいそう。ケイ君達も色々助けてくれてありがとね?」


 美奈子は、ここ一連の騒動でケイが常に矢面に出るような立ち回りで動いてくれていた事に感謝を述べる。


「なんか、初めて会った時から助けられてばかりだね」

「そうかな? 俺も良い部屋に泊めてもらって助かってるよ」


 互いにふふと笑って食堂で一休みする二人。夜明けの静かな時間にお茶のひと時を過ごした後、美奈子は着替えや朝食の準備で自室に向かい、ケイも二階の部屋に引き揚げた。


「おかえりなさい。どうだった?」

「ただいま。一段落したよ」


 部屋では彩辻さんがノートPCで記事のレイアウトを弄りながらお茶を飲んでいた。事情聴取に来た警官とのあれこれを聞かれたので、ケイは一通り終わった事を告げる。


「聞き取りも現場検証もさらっと終わらせてたし、多分どうするのとかもう決めてあるんじゃないかな」

「ああー、やっぱりそんな感じになるのね」


 彩辻さんも予想はしていたらしく、面倒なく処理が済むならそれでいいわと、伸びをしながら呟いた。


「ちょっとトラブルもあったけど、今日で取材旅行も終わりね」

「俺も中々濃い小旅行になったなぁ」


 深夜から起きていたので少し眠いが、朝食を頂いてから昼まで少し眠ろうかと話しているところへコウ少年も帰還した。


 窓から飛び込んできた虫が消えると同時に、光が集まって馴染みの少年の姿が現れる。


「たっだいまー」

「「おかえり」」


 こうして、ケイは三日目の朝を無事に迎える事が出来たのだった。




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