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第6話:




「えっ! ちょ! おいおいおいっ!」

「はいはいはい」


 民宿・万常次の庭先に入り込んで撮影場所を物色していた潟辺達を実力行使で排除したケイは、前回と同じ流れでまずは宿泊先を確保。

 これから部屋に案内されようとしていたところへ、声を掛けてくる者が居た。


「すみませーん、こちらで民宿をやっていると聞いたんですが、私達も泊まれますか?」

「こんにちはー」


(……え?)


 それは、彩辻さんとコウ少年だった。


「あらあら、いきなりお客さん沢山だわ」


 美奈子は相手が小学生くらいの子供を連れた若い女性という事で、廃線関連で訪れた観光客に対する拒否感も薄れたのか、快く宿泊希望を受け入れた。


「それじゃあ、お部屋に案内しますね」


 宿泊人名簿に記帳をして彩辻さん達と共に二階の客間へ。和やかな雰囲気で案内されながら、ケイは内心で困惑していた。


 前回に無かった行動。明日来る筈の人間が今日ここに現れた。


(どういう事だ? もしかして遡った時の倒れるアクションで行動が変わったのか?)


 今後の予定を組み直す必要などを考えていると、くいくいと服の端を引かれてそちらに意識を向ける。コウ少年だ。


「あとで情報のすり合わせをしよう。火事の原因とか調べないとね」

「っ!」


 その言葉に衝撃を受けるケイ。明らかに前回の記憶を持っている。何らかの特殊能力を持つ子なのだろうとは思っていたが、まさか同じ遡り能力だろうかとケイが思い浮かべると――


「違うよ。時間軸を移動する時もあるけど、ボクの能力は『読心』が基本だと思って」

「読心……」


 サトリという妖怪が一瞬頭をよぎるが、コウ少年は見た目麗しい妖精のようだ。相手の考えている事を読み取れる能力。

 これから起きる事件を未然に防ごうとするケイにとって、とんでもなく心強い味方だと思えた。


「彩辻さんは――……」

「美鈴は普通の人だけど、ボクの事は知ってるから色々明かしてもだいじょうぶ」


 情報のすり合わせには彩辻さんも同席させるというコウ少年との話がついたところで、美奈子に案内された部屋へ入る。

 前回と同じくケイは中部屋で、隣の小部屋に彩辻さんとコウ少年。


 あとは民宿内の設備の使い方や、商店街の銭湯が万常次の札でフリーパスなど、一通り説明を受けた。

 この後、小一時間もすれば美奈子は商店街のホテルまでヘルプに向かう。



 今のうちにある程度の情報を共有しておきたいというコウ少年の提案に乗り、ケイは二人を部屋に招いていた。


「えーと……ここは一応、初めまして? からかな?」


「あ、私は初めましてです。彩辻あやつじ 美鈴みすず。フリーのジャーナリストやってます」

「ボクはコウ。みくにもりコウだよ。冒険者とかやってるよ」


「……俺は曽野見そのみ けい。時間を遡る能力を持ってる。よろしく」


 ケイはコウ少年の自己紹介に『冒険者!?』と内心で戸惑いつつも、最初から自身の特殊能力を明かして挨拶する。


「それで、今現在お互いに知ってる事の確認だけど――」

「ボクはケイが知ってる事はほぼ全部はあくしてるよ。ただし、前回のボクの記憶はなし」

「ええと、私は完全初対面で何も知りません」


 今なにが起きてるのかも分かりませんと、彩辻さんは完全にお手上げお任せの傍観者モードに入っている。


(なんか、彩辻さんだけ特殊能力持ち二人に巻き込まれてる一般人感あるな)


 コウ少年曰く、ケイの記憶より得られる自身の言動から、前回の自分がとっていたであろう行動は大体予測出来るという。


「ボクの記憶も運べればよかったんだけど」


 ケイの知っている事はほぼ全部把握しているとの言葉通り、コウ少年は『石神様の仕様』や細かい呼び方まで理解していた。ケイにとって、これまでの経験に無い中々不思議な感覚であった。


 しかし、それなら手っ取り早いとばかりに、ケイは彩辻さんとも共有しておくべき情報を選別して、これからの行動の指針を掲げる。


「潟辺達の行動を先回りして、なるべくトラブルの芽を潰すように立ち回りたいな」

「ならできるだけ早くカタベグループの情報をひろってくるよ」


 コウ少年が彼等の近くに居れば、グループ全体の行動予定や個々の考えなども読み取って来られるとの事なので、それらにケイの前回の記憶情報も合わせて今後のトラブル回避計画を立てる。


「あと、彩辻さんの取材もスムーズに進められるように初日から手を打っておこう」

「おっけー。じゃあ今日は美奈子を商店街でえすこーとして、明日からお堂巡りだね」


 明日は朝から商店街に屋台が並び始めるので、そちらの取材も予定に入れる。凄い勢いで活動内容が決まっていくが、それらの意味を理解しているのは、特殊能力持ちの二人だけだ。


「なんかコウ君と話してると、同世代と対しているみたいだな」

「ボクの本体は大人だからね」


(本体?)


 そんなこんなと、ケイはコウ少年と話し合いながら行動予定を組み上げていく。その間、彩辻さんは決定内容をひたすらメモに取りながら、小首を傾げるばかりであった。


「取材で商店街のエスコート? お堂巡り?」

「あとでまとめて説明するよ。ケイが」

「俺か~」


 そうして互いに親睦を深められたところで、コウ少年が思い出したように告げる。


「そうだ、さっき道でカタベグループとすれ違ったんだけど、ホテルの部屋のキャンセルはまだやってないみたいだから、キャンセルさせないように根回ししよう」

「それは朗報だな。でもどうしようか?」


 潟辺がこちらにやって来る原因である、仲間の嫌がらせによる部屋のキャンセルの阻止。

 ホテル側に根回ししようにも、全くの部外者が特定の宿泊客のキャンセル申し入れを受け入れないように等と要求するのは、中々にハードルが高い。

 いい方法は無いかと考え込むケイに、コウ少年が無難な策を提案する。


「ボクが先行してカタベグループを足どめするから、ケイ達は美奈子をホテルまで送りながらそれとなく囁いて?」


 悪戯によるキャンセルの申し入れに注意するよう促しておけば、もしキャンセルが通ってもクレーム対応でどうにかホテルに泊まれるかもしれない。


「なるほど……」


 その場合、間違っても民宿を勧めたりしないよう、万常次でトラブルがあった事もホテル側に伝えておけばより安心だ。


 潟辺達に足止めを仕掛けるコウ少年だが、例え荒事になっても一切心配は無いと明言された。


(まあ、刃物持った強盗二人相手に武器強奪し掛ける子だしなぁ)


 彼の『読心』が基本・・と言っていたので、何かまだ特殊な能力でもあるのだろうと納得しておく。



「よし、それじゃあ潟辺達の方は頼んだ」

「おっけー」


 そろそろ美奈子がホテルに向かう頃だ。ケイは美奈子と一緒に商店街を歩くべく、美鈴を連れて一階に向かう。


 コウ少年は留守番という名目で部屋に残った。ケイ達が民宿を出るのに合わせて部屋を抜け出し、潟辺達の今日の撮影現場に飛ぶ・・そうな。


(空飛んだりできるのかな? ……まさかな)


 ふとそんな事を考えたケイは、流石にそれは無いかと頭を振ると、美奈子をホテルに送り届けるべく歩き出した。





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