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第28話 今できる自分の全て

(緊急時の音声メッセージ? 各地で似たような現象が起こっている? 援軍は見込めないってことは……俺たちでアレをなんとかするしかないのか?)


 三頭重装番人が器として崩壊したため、現状黒魔獣は三体。亡くなった冒険者の身体を見るに、漆黒花の開花には今しばらく時間がかかるようで黒魔獣には至っていない。


(もっとも今攻撃に移れば黒魔獣三体は俺たちを襲ってくるだろう。現実的に考えて、今の俺たちができることは、一撃離脱ぐらいだ。だがその一撃が問題となる)


 俺は気を失っているジャックと瀧月朗を担いで、三頭重装番人が作ったクレーターの一つに身を隠した。黒槍からの攻撃を回避するため、頭上に防御結界の宝石を頭上に投げる。宝石が砕け青白い光と共に、半径五メートルの球状型結界を張り巡らせた。少々高かった宝石結界だが、背に腹はかえられない。


「痛ててぇ……」

「ジャック、飛行タイプの敵に対しての攻撃手段ってなにかあるか?」

「なんだよ、急に──って、なんじゃありゃ!?」

「声が大きい」


 黒魔獣の意識は完全にアルヒ村に向いている。敵の意表を突くとしたら今しかない。


「で、どうだ。なにかあるか?」


 俺は一撃離脱をする相談を持ち掛けたのだが、ジャックは唸った。


「オレの能力は陽動や支援系がメインだからな。引っ付いて離れないシャボン玉とか透視化とか役に立たなさそうなのばかりで、火力としてはさっき投げていた爆弾ぐらいしかない」


 シャボン玉なら風の影響を受けて種子の元に向かうだろう。それなら引っ付いて離れないシャボン玉を使って種子を一か所に集めたところに、ありったけのMPをつぎ込んだ炎の矢を撃てば、種子を一掃することは可能かもしれない。

 作戦を伝えるとジャックは難色を示した。


「本当にやるつもりかよ。もうオレたちが何とかできる状態じゃないだろう。逃げよう、な」

「どこにだ。ギルド本部は混乱、村の中でも戦闘が起こっている」

「村……マイハニーの危機! コウガっち、オレはやるぞ」


 一瞬で考えが百八十度変わるジャックに苦笑いしつつも、早速行動に移す。


混合物ガソリンで作った、悪戯な泡カキア・アプロスだ、くらえ!」


 ジャックは七色に煌めくシャボン玉を大量に作り出した。黒魔獣はシャボン玉に対して、感知しているもののピクリとも動かない。


(直接攻撃あるいは攻撃力ゼロだからか? どちらにしてもこれで数十秒稼げる)


 幻獣不死鳥の弓には第二形態があり、大型魔物に対してAランクの魔法使い相当の火力が期待できる。ただしのMP消費はこれまでの比ではなく、一発で半分以上が削られる上、ぶっつけ本番で下手すれば俺の肉体あるいは弓が砕けるかもしれない。


「第二形態、解除リリース


 弓が炎に包まれ形状は小弓ではなく長弓へと姿を変えた。長さが二メートルに変形し、弓幹の中央よりも下を握って使用する。和弓に近い変形によってずっしりと重みが増した。矢は紅蓮の炎を纏い高密度のエネルギーを圧縮させていく。キリキリと弦が音を鳴らすまで弓を引き絞り──放つ。


超豪炎之矢ハイフレイム・アロー!」


 一条の矢は漆黒に染まりつつあった空を緋色に染める。

 火矢がシャボン玉に触れた瞬間。

 それは連鎖的に爆ぜ、灼熱の炎は種子を燃やし尽くす。

 あまりの爆音に耳が麻痺しそうになったが、構わず次の標的に狙いを絞る。上腕三頭筋が悲鳴を上げるも弦を限界まで引き絞った。


「■■■■!」

「■■■■っ、■■■■!」

「■っ■■■、あああああ!」


 ぐるりと、六つの目が一斉に俺に向く。

 その殺意にゾッとしたが、気圧されてたまるかと奮い立たせた。

 三体の黒魔獣が肉薄する中、俺は構えたまま残っているMP全てを、この一撃に注ぎ込む。


 まだ距離のある弓使いは三本の矢で俺を仕留めあるいは弱体化させて、守護戦士の攻撃で止めを刺すつもりなのだろう。彼らのフォーメーションは嫌でも覚えている。


「■■■っ!」

「させるか!」


 弓使いの放った矢は、ジャックの投げナイフによって地面に落ちる。

 ジャックは弓使いの攻撃を読んで、手榴弾を投げつけた。爆発と共に土煙が立ち込め、視覚と聴覚を阻害する方法に出たが、守護戦士は俺に突っ込んできた。


(殺意に反応していたか。──っ、あと数秒あれば)

「■■■■っ、ああああああああああ!」


 守護戦士は手にしていた斧を振り下ろし──金属音が悲鳴を上げる。

 オレンジ色の閃光。

 突如、俺の前に現れた瀧月朗は守護戦士の斧を最小の力で受け流す。


「恩人を殺させるものか、級長戸乃風しなとのかぜ


 それは四方向からの超高速斬撃。何もない空を切り裂いた瞬間、透明化していた暗殺者、守護戦士を同時に斬り伏せる。

 ジャックと瀧月朗の二人が稼いだ数秒。


 最後のあがきと言わんばかりに空から長槍の雨が降り落ちる。防御結界に亀裂が入り何度目かの衝撃により砕け、肩や膝に槍が刺さった。


「ぐっ……」


 まだだ。

 あと一撃。あと一撃が必要なんだ。そう自分に言い聞かせる。

 激痛で意識が飛びそうになった瞬間、叱咤する声が届く。


『おいおい、しっかりしてくれよ』


 分かっている。まだやれる。


『ほら、弓は正しく引けば必ず命中する。集中して。毎回同じリズムで引くことだ』


 サカモトの声に俺は叫んだ。

 叫ばずにはいられなかった。


「っ、うぉおおおおおおおおおおおおおお!」


 それと同時に最大の一撃を放つ。


超豪炎之矢ぉおおおおおおハイフレイム・アロー!!」


 轟ッ!!

 一撃目よりも強烈な炎の矢は周囲の黒花の種子を燃やし尽くし、三頭重装番人に直撃。そこら中に撒き散らしていたガソリン入りのシャボン玉に引火し燃え上がった。


「……っ、ジャック、瀧月朗。あとは撤退だ」


 俺たちの今できることは、これで全部だった。

 三体の黒魔獣相手に勝機を見出すことは難しく、撤退すべく身を翻す。本来であればふたたび結界を使ってHPゲージの回復などをするつもりだったが、残った種子が一斉に空から降り落ちた。回避する余力などどこにもない。


 俺たちが戦闘不能になるのに数分と掛からなかった。HPゲージの高いジャックが盾役になってくれたが、長槍の集中砲火に俺たちは足を撃たれ、移動手段を絶たれた。


 激痛に悶えながらも黒獣魔の攻撃を紙一重で躱し、互いに持っている回復薬でHPゲージの維持を保った。カボチャ頭に無数の槍が突き刺さり、瀧月朗は長槍を躱していたが守護戦士の体当たりで肋骨など骨が折れる音が聞こえた。二人ともHPゲージはギリギリだが、

 血を吐き、骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げていても──生きることを諦めなかった。


(陽菜乃……)


 心臓の鼓動が激しく鳴り響く。無性に陽菜乃の顔が見たかった。脳裏に彼女の姿が過ぎったのも束の間、


『ふふ、もちろん。次は××××××方法を探すことですよ!』


 息が詰まった。俺の知らない記憶。

 黒髪を靡かせ、無邪気に笑う彼女。

 次の瞬間、赤い鮮血が飛び散り──彼女の首は宙を舞う。


「ひゅっ……がっ……ああああああああ」


 上手く呼吸ができない。


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