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第25話 絶望の調べ2

「だああああー。そうです、そうですよ。最近になって、マイハニーが元の世界のことを思い出したんですぅ! オレのレベルに比例して彼女の記憶が戻って信じてくれたんだよぉおおおおおおおお!」

「よかったですね」

「ふむ、めでたいな」

「嬉しいけれど、でも! 呪いがまったく、まっーーーたくうううう、解除されないんだよ!」

「レベルが足りないとか?」

「レベルが足りないのではないですか?」

「レベルが足りないだけだろう」

「酷い! メンバーからの冷ややかな言葉で、MPがゼロになっちゃうよぉおお」

「いや、元からジャックのMPは一桁だから」

「コウガっち、ちょっと酷くない!? 元の世界のオレって超々一流のイケメンパティシエで立ち仕事メインだから体力とか胆力とか結構あったと思うんだけど!?」

「自分で『顔が良い』と言い切る奴を初めて見た」

「瀧月朗さんのほうがモテそうですけれど」

「ワシは女房一筋だ」

「俺も陽菜乃一筋だな」

「せ、先輩」

「だああああああ。幸せ夫婦め。幸せになる呪いをかけてやるぅううううう」

「ありがとう? ……にしても、情緒不安定だな」

「だってさ、だって呪いが全然解けないんだもんんんんん! このままオレがダリアと付き合っているなんてバレたら、他の男がダリアを奪うためにモーションかけまくるだろうがあああ」


 駄々っ子のようにジタバタする。子供がする分には可愛いかもしれないがカボチャ頭では絵面も結構酷いことになっている。こいつ二十四、いやもう二十五歳だよな、と改めて思った。


「ええっと、ダリアさんには相談したのですか?」

「それが──まったく」

「は?」

「根性無し」

「もう! ソウちゃんもコウガっちも毒舌すぎる! 惚れた相手には心配させたくな──」

「そんなの本人に聞いてみなきゃ、わからないじゃないですか!」


 急に声を荒げた陽菜乃に驚いた。いつも笑顔が絶えない彼女が珍しく本気で怒っている。


「ダリアさんも、ジャックさんが話すのを待っているかもしれないじゃないですか!」

「ぐはっ……」

(吐血した!? メンタル本当に弱いな)

「前に進むのが怖いからって、相談すらしてくれないのは──やっぱり寂しいです」

「陽菜乃」


 真剣な陽菜乃の表情だったが翳があるというか、なにか事情を抱えているような顔をしていた。無理をしている、そう直感で分かった。

 思えば陽菜乃はふとした瞬間に思いつめたような顔をするときがある。相談してくれるのを待っていたが待っているだけじゃダメなのかもしれない。俺だけではなく、それはジャックにも当てはまるのではないだろうか。


「ジャック。今日は早めに切り上げてデコレーションケーキを作ってギルマスのところに行ってみたらどうだ?」

「コウガっちまで!? しかもクッキーとか焼き菓子系じゃなくて、よりによってデコレーションケーキ!? 難易度が高いやつをなんでチョイスしちゃう!?」


 陽菜乃を一瞥しつつ、ジャックに応えた。


「超一流のイケメンパティシエならできるだろう。本職の腕を見せてやれよ。俺は俺で大好きな嫁の悩みを聞く」

「え」


 自分の話題になると思っていなかったのか、赤面する陽菜乃。瀧月朗は目を伏せて口元を緩めた。


「青春じゃな。して、ジャックはどうする?」

「だああああああああ。わかったよ! じゃあ材料の買い出しにコウガっちも付き合ってくれよな! 盛大なデコレーションケーキを作ってやんよぉおおおおおおお!」


 やけくそ気味にジャックは宣言した。開き直った彼はどこか吹っ切れたような感じだ。呪いの件もあるし、ギルマスと会話をする機会が増えることで呪い解除の糸口がみえるかもしれない。変化とは良くも悪くも怖いものだが、足踏みしているだけでは状況は悪化するだけだ。それを俺はよく知っている。


「宿の人に言って場所を借りて材料費に必要なお金は……この間、器物破損をして装備品とかもろもろ差し引いて……」

「煽った以上、俺も少し出すよ」

「コウガっち。……利息は?」

「とる訳がないだろう。というか支援だから返さなくていい」

「私も支援します。材料を買うなら早めに切り上げないとですね」

「だな。まあたまにはいいだろう」

「みんなぁ! ありがとうぅうう」


 昼下がりの青空。

 雲が悠々と流れ、穏やかで昼寝が出来そうなほど平和な時間。

 今日も今日とて賑やかで緩やかに時間が過ぎていく──はずだった。



 

 ソレは人の形をしていたし、元は──人だったと思う。けれど全身に纏っている漆黒の蔓に、頭に咲き誇る黒薔薇を黙視した瞬間、

 大気が震え、肌がヒリヒリする感覚に身が竦んだ。

 真っ先に動いたのも瀧月朗だった。


「ヒナノ。お主は急ぎギルドマスターに伝えろ」

「──っ、でも」

「カボチャ頭、煌月!」

「ああ!」

「分かっているって!」


 俺とジャックは素早く陣形をとって黒魔獣を迎え撃つ。近づくにつれソレは首から下げているプレートが鈍色に煌めいていた。


(冒険者。いや、!?)


 俺は歯噛みしながら、鑑定眼を起動する。


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