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第20話 それぞれの目的

 それから数日後。

 修練所で陽菜乃たちとパーティーでの連携ができるように練習していたところに、サカモトたちが顔を見せた。


「よぉ、ルーキー♪」

「ぎゃああああああああ! 地獄の特訓なんてもう嫌だぁあああああああ」

「ムラサキ」

「…………」


 素早く反応したのはジャックだった。脱兎の如く離脱。しかし、暗殺者アサシンのムラサキが疾走してジャックを追いかけていくのが見えた。ジャックがどれだけ粘れるのか不明だが、暫くは戻ってこないだろう。


「エージたちとクエストを同行する日じゃ無かったか?」

「ん、ああ。あの子たちは待ち合わせ場所に現れなかったからね。まあ、ばっくれだろうな。ホント根性ない」


 そう言ってニヤリと笑ったのを見る限り、結構ハードモードのクエストを受けたのだろうな、と思った。


 ジャックは暗殺者のムラサキ、ヒナノは変態神官のレンジと弓使いのサカモトから助言を貰っている。ランクが上の冒険者からの助言はかなり有難い。

 俺はシロに盾戦士の戦い方を教わっている。サカモトにも時間があれば弓矢の扱いについて指導を頼んでいた。


 盾の役割はシンプルに耐え抜くこと。

 後ろを守ること、だ。

 そのために足の踏ん張り、構え、冷静な判断力がパーティーメンバーの生死を分けるとも言えると、シロは語った。彼女は矮人族ドワーフ獣人族ケモノビトの中でも、牛人族のハーフだという。全身甲冑フルアーマーなのは、素顔をあまり見せたくないのだとか。盾の構え方と、足の踏ん張りなどを教えてもらいながら、珍しく彼女からサカモトたちそれぞれの目的を教えてくれた。


「サカモトは義弟を探していて、ムラサキは種族を変える魔法アイテム探し。あの変態は自分のコレクションを増やす。……ワタシはレベル99になって魔王に会いに行くノ」

「なるほど。……ちなみにサカモトの下の名前って聞いたことあるのか?」

「知らなイ。そこまで深入りはしていないから。私たちは最初から四人だけだったから、この面子でパーティーを組むしか無かっタ。……私たちが新人だった頃は黒魔獣の出現が続いて、B~Dランクの冒険者が軒並み脱退していたから苦労しタ」

(そうか。本には黒魔獣の発生時期だけだったが、どの程度の規模だったのかは書かれていなかった。もし自分たちが期待時代に転移転生していたら、今とは待遇が違っていた可能性は大いにある)


 話を聞くに、メンバー内で本気でレベル99を目指しているのは、サカモトとシロだけのようだ。Bランク以上になるとAランク冒険者とタッグを組み直すなど、パーティーメンバーも替わってくることはままあるらしい。


 離脱、追放、引退、転属などなど。

 BランクからAランクに上がるまでに、パーティーメンバーでのそれぞれの方向性が顕著に出るとか。

 俺たちもいずれはパーティーを解散あるいは分離などあるかもしれないが、それは少し先となるだろう。


「……シロは、どうして魔王と謁見したいんだ? 元の世界に戻りたいとか?」

「元の世界で一緒にいた大事な人の手掛かりを探しているノ。この世界にいるのは分かっているのだけれど、その場所に行くための方法が見つからない。魔王に聞く。それが確実」

「なるほど」


 シロからは強い意志が感じられた。

 ジャックとギルマスのように元の世界で一緒にいたとしても、転移転生の時間軸がズレる場合があるというのは聞かされていた。だから目が覚めた時に、陽菜乃が傍に居てくれたことは本当に幸運だったと言える。

 もし陽菜乃と合流できていなかったら――俺はこんな風に、この異世界を楽しみながらレベルを上げようなどと暢気なことはやっていなかっただろう。ありとあらゆる手を使ってでも、陽菜乃を探し出していたはずだ。

 だからサカモトやシロの気持ちは痛いほどわかる。


「サカモトはマメだし、気遣いもできる面倒見も良いほうダ」

「だろうな」

「でも、ここまで肩入れするのは、お前が義弟に似ているからだと思ウ」

「俺が?」


 思わず聞き返してしまう。なぜなら俺はサカモトが姉に似ていると思っていたのだ。といっても姉ほど猪突猛進、電光石火のお人好しとは違う。

 損得勘定はあるけれど、身内というか心を許した相手には甘い。そこが姉と似ている。なぜか「この人は信じられる」と不思議に思えるのだ。


(俺に手伝えること――なんて、それは傲慢か)

「余所見するナ」

「げ(これは避けられ――)」


 一瞬だけ深く考え込んだせいで、集中を切らしてしまったためシロの体当たりに競り負けて吹き飛んだ。しばらく動けなかったのはいう間もでもない。


「煌月先輩!」

「勢いよく吹っ飛んでおったな」

「人間って、あんな風に吹っ飛ぶものじゃないでしょう!」


 賑やかな声に、穏やかな日々。

 充実していた。

 だから俺たちは危険が迫っていることに、全く気付いてすらいなかったのだ。

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