朝十時に冒険者ギルドでクエスト受付をしたのち俺と陽菜乃、ジャック、瀧月朗の四人で正門を出た。全員のレベルは平均25である。
主に陽菜乃と瀧月朗がレベル30越えで、俺は以前レベル17で、ジャックはレベル15といろいろ可笑しい。いや俺の場合はそもそもレベルが中々上がらないだけで、実力ならたぶん30はいくはず。レベルの数値だけ上がらないだけで、俺の実力が止まったままでないので気にしないことにした。
(これから先、陽菜乃たちとレベルが離れれば、冷やかしや引き抜きなんかも増えるかもしれない。……まあ、先のことはまた考えるとして――)
村の外へと一歩踏み出したが別段変わったことも無く石畳が続いている。変に気負い過ぎていたのかもしれないと、少しだけ安堵した。
気を取り直して漆黒花狩りだ。
一体どんな魔物が出るかと、緊張していたのだが──。
「あ。黒い花発見!」
「こっちも」
「ふむ、けっこうあるのう」
「オレが一番に狩ってやるぅううううううう!」
「ワシと勝負するか、カボチャの」
「誰がカボチャのだ、ジャックだって言ってんだろう! 泣いちゃうぞ」
「泣いてしまえ」
「二人とも、泣いてもいいから手を動かせよ」
「煌月先輩、こっちにたくさんの漆黒花がありました」
「あ、本当だな。報告よりも増えている」
「泣いちゃうんだから! わああああああん」
漆黒花を刈り取る方法は鎌やナイフなどで茎を切るのではなく、根っこから引き抜く。ここに咲く漆黒花は黒百合の形をしており、引っこ抜くと真っ黒な球根が「キュウゥウ」と叫び声をあげて絶命。その瞬間、花は勿論茎や球根も炭化してビー玉ぐらいの核が残る。これを回収してギルドに提出するまでが任務だ。
この漆黒花は冒険者にしか触れられないらしく、冒険者以外が触れると体力を吸い取られて触れた部分が火傷する。そういった理由から漆黒花一つで銀貨一枚という、冒険初心者からすれば破格の金額だ。これなら装備や防具、魔法アイテムなどにお金を回せる。冒険らしいバトルっぽいかんじはなく、地味だが報酬を考えればモチベーションの維持はできそうだ。ほんと地味だけど。傍から見た草刈りしている人であって冒険者には見えないだろう。
俺たちは黙々と漆黒花を根っこから引っこ抜いていく。この間、ひたすらジャックが泣いているのを無視していたが、誰も突っ込まないことに腹を立てなのか泣き真似をやめた。
「――って、みんな、オレの扱い酷くない!? ねえ、酷くない!?」
「酷くないから、ほら手を動かせ。ってか、どう動いているのか分からないけれど」
案山子の木の腕はゴムのように伸縮自在に伸び縮みする。見た目よりもしなやかで柔軟に動くことができるのは、ひとえにジャックが器用だからだろう。
「器用だな」
「へへんだ、だろう! もっと褒めて讃えて!」
「頑張ったらギルドカフェの季節限定ベリーフラッペを奢ってやる」
「え、ホントに!? オレ頑張っちゃうよ」
「煌月先輩からのご褒美を手に入れるのは私です!」
「ワシは酒のほうがよいのだが、煌月のご厚意なら励むしかあるまい」
(いつの間にか俺が全員に奢る話になっている……。まあ、これで作業効率とメンバー内の雰囲気がよくなるのなら、悪くない先行投資だ)
「!」
ふとジャックが何かに気づいて顔を上げた。
視線の先は《迷宮の大森林》。その反応に俺、瀧月朗、陽菜乃は身構えた直後──ひょっこりと冒険者が姿を見せた。
「おーい、Fランクのルーキーども。景気はどうだ?」
(冒険者……っ、Bランク冒険者!?)
《鑑定眼》で確認したところ、かなりの実力者だというのが分かる。
カーキ色のコートを羽織った青年は、肩に矢筒を背負っている――職業は
「俺ッチたちはCランクの《夜明けの旅団》、団長のサカモトだ。よろしく」
軽い。そして気軽に手を差し出すので、握手を交わして挨拶する。
「
冒険者ギルドでは個々人のランクとパーティーランクというのがある。今サカモトが言ったのはパーティーとしてのランクだ。個々人なら全員がC+かA-ぐらいの実力がある。
細目の男──サカモトは言葉を続けた。
「遠征に出ていたらルーキーが来たって聞いて、嬉しくてさー。俺ッチたちも異世界転生したけどさ、けっこう前だったから懐かしくてな」
「何年前に転移転生したのか聞いてもいいか?」
「五年前。で、その時は俺ッチたちだけでさ。それが今回は多いんだろう? 冒険者家業って楽しいけれど、Bランク以上を目指そうって奴はあんまりいないんだよね」
「そうなのか?」
意外な言葉に俺は思わず聞き返してしまった。サカモトは困ったといった顔で話を続ける。
「ああ。最初はこの世界のことが分からないから、冒険者としてレベル上げに勤しむのさ。金も入るし、いい稼ぎになる。で、レベル30~45ぐらいで急にレベル上げに苦労しだす。クエストも面倒なものが多いし、危険も増えるからEやDランクで妥協する冒険者が多いのさ。明確な目的もなければ当然だろう」
「いや、だが……魔王に会うならレベル上げは――」
「異世界人で、仲が良かった――といっても、その関係性はそれぞれだ。血眼で探す奴もいるが、生きているだけで良しとする者や、いつか会えれば良いと思う者もいる。それだけレベルを上げて、月日が経てば人の心は変わる。過去よりも今一緒に居る相手を大事にしたいと思う奴だっている。この村に残った元冒険者のキャプテンもその一人だ」
「キャプテン……。あの熱血な?」
「そうそう。元はA級冒険者だったんだが、ある日、所帯を持ってからは変わったよ」
家庭を持ったことで冒険者を引退する人が増えたという。実際に魔物が凶暴化して、黒魔獣と言う災害級の魔物が出現すれば当然かもしれない。
サカモトは冒険者を去ったことに対して、色々と思うところがあるのだろう。
「だからルーキーには期待しているのさ」
「…………」
「え、うるさいな。別にプレッシャーかけているわけじゃないって」
神官はハッとした表情したのち、唐突に陽菜乃に歩み寄る。近くで見ると左目のホクロが印象的でイケメンなのだが、なんだろう嫌な予感しかない。
陽菜乃の前に一歩出ようとしたが、間に合わなかった。
「ンン~! ご令嬢、その肌の艶、手入れの行き届いた長髪、引き締まった体に美しい脚線!そして輝く双眸。僕のコレクションに加わってくれないだろうか!?」
陽菜乃の手を掴む変態神官に、俺は即座に割り込んだ。
「
「
陽菜乃は頬を赤らめて硬直。神官は眉をつり上げ、「煩いなァ。僕は美しいものを愛でるのが──」と俺を見て固まった。
(なぜお前も固まる!?)
「ハッ!」
次の瞬間、俺はその変態神官に両肩を掴まれた。
速い。
素早く身構えたが――。
「と、トレビアーン! その宝石のようなソ・ウ・ボ・ウ! 僕のコレクションの一つに加えてあげよう!」
「…………は?」