オロオロとするカボチャ頭に、俺は「違う」と断言した。ジャックがラスボス並みのHPなのは『呪われているから死ねない』という効果の表れなのかもしれない。でなければ、この数値は可笑しい。《ジャック・オー・ランタン》の逸話に沿った死ねない体。いや見た目も既に可笑しいが、存在そのものがイレギュラーだ。
(実はラスボスでした──なんて考えるのは飛躍し過ぎか。……だが、あの呪いの装備解除方法。文字化けしていたが《真実の愛》とは書いてなかった)
ひとまず《真実の愛》の情報源は後で探ることにして、結論を口にする。
「見たところMPは一桁だが代わりにHPがかなり高い。数値だけならAランクの冒険者にも匹敵する素養を持っているんじゃないか」
「え、HPが高いの。……オレ、もしかしてすごい? えーどうしよう? オレはハーレムよりもマイハニー一筋だからなぁ〜」
目を輝かせる二十四歳児。先ほどまで悲壮感溢れていたのが、一変して目を輝かせている。ピュア過ぎないか。まあ乗せられるところは乗せておこう。
「パラメーターとしてHPが高いのなら、職業的には
「ええ!? MMOじゃ一番不憫な職業だろう。大規模なPVPで特攻役を押しつけられるし、痛いことばかりじゃないか!」
憤慨するジャックは、意外とゲームの知識があるようだ。この世界はゲームではないが。
「盾役は必要な職業だからな。防御力の高い方が攻撃の幅が広がるだろう。でも嫌だって言うなら──」
「解雇!?」
「いや、
菓子作りの能力もあるので《菓子職人》でもいいかもしれないが、今切り出したら「遠回しに解雇された」と勘違いしそうなので黙った。
(多少なりとも、元の世界での特技が反映されているってことか?)
「解雇回避! アサシンかシーフかー。ねー、ねー、ハニーはどっちがいいかな?」
「自分で決めなさいよ」
「うう、つれない。泣いちゃう。泣いちゃうよ!?」
(すでに泣いているんだが……。スルーでいいか)
探索スキルは冒険において重要度が高い。魔物やPKプレイヤーなどの奇襲率を下げられるので、メンバー内にいるほうが有利だ。もう少しアドバイスを口にすることにした。
「まあ、その目立つ姿は斥候には向いていないけれど、盗賊を選んで機動力を養うのは有りだと思う」
「ですね。さすが先輩です!」
陽菜乃からの拍手と賞賛の声に癒される。なんだ、この天使。
「んー。……やっぱり冒険者よりも、職人ギルドに力を入れようかなー」
弱腰になるジャックに、ギルマスは意外そうな顔で呟いた。
「あら呪いを解くのは、諦めるの?」
(ん?)
「それは……」
「呪いを解いて本来の姿になれば、私も何か思い出すかもしれないわよ」
「ぬぬぬ……」
(ああ。ジャックは元の世界の記憶はあるが、ギルマスにはない? ……本当に?)
なんだか引っかかる。
もう少し後で聞くつもりだったが、気になってジャックに尋ねた。
「なあ、ジャック。呪い解除の方法が《真実の愛》っていうのは、どこ情報だ?」
「それはマイハニーとの思い出が輝いていたからさ!」
「……なるほど。根拠はないんだな」
「文句あるか!?」
「……じゃあ、ギルマスはジャックを職人ギルドではなく、冒険者にしたいのには、何か意図があるのか?」
ギルマスは一瞬、目を見開いて驚いていたがすぐに口元を緩めた。
「意図? んー、そうね。本当に私の夫なのなら、この世界で強くないと困るわ。いざという時に、私が守らなきゃいけない存在なんて嫌だもの♪」
腹筋が六つに割れた筋骨隆々の美女よりも強い男。少なくともこの世界において、彼女が求める男性とは強者のようだ。
(ジャックはすごい奴を好きになったな)
「筋肉は正義。力こそ愛よ♪」
「ぐぬぬぬ」
「かっこいい」
ポツリと呟く陽菜乃には、このままの体系を維持してほしい。
とりあえずジャックの呪い解除方法が《真実の愛》というのは、根拠がないことは理解した。
(レベルを上げて、予期せぬ事態に備えるのは当たり前か。だからこそ陽菜乃も修練所でレベル上げに躍起になっていたし……)
「それで、どうするの。ジャック」
「うおおおお。オレは冒険者でシーフをやる! マイハニーのためにも、速攻で呪いを解いて見せるぞぉおおおおおおお!」
ジャックは決意を固めたようだ。長かった。
「(職人ギルドは兼用できるし、《菓子作り》のスキルを後で教えておこう)……あ、それと瀧月朗もパーティーメンバーとして参加希望だ」
「え!?」
「は!?」
陽菜乃とジャックは驚愕の声を上げた。まあ無理もない。
「なんでゴリゴリの先行派が!? 初日でDランクにまで上り詰めた強者だろう。それがなんで慎重派に鞍替えするんだ? 怪しい。というか怖い!」
「私も何が目的なのか気になります」
「あー、姉の知り合いだった縁で、気に入られた」
陽菜乃は「さすがです、先輩!」と目を輝かせ、ジャックは「人望まであるとかずるくない!?」とよくわからないことを喚いていたが、概ね納得したようだ。
「長くパーティーを続けるなら性格とか、相性もあるもの。……でも、今期のエースを引き当てるとは運がいい」
ギルマスは俺の全身を凝視していたが、視界に陽菜乃とジャックが割り込む。
「先輩に惚れるのはダメです!」
「マイハニーはオレのだからな! 絶対にやらん!」
「うるさい」
ギルマスの見事な踵落としによって、ジャックを黙らせた。もはや見慣れた光景である。とにもかくにも、最低限のパーティーメンバーが決まりそうだ。