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第5話 俺TUEEEがいますが俺じゃないです

 有史以前、世界は人間と魔族で数千年の間争いが続き、泥沼化した戦争を終わらせるため各陣営は異世界人の召喚に手を出した。

 召喚された異世界人は人間側では《勇者》、魔族側では《魔王》と呼ばれていたが、ある時人間と魔族の不毛な争いに辟易した魔王は、世界の理を変えることを望んだという。当時の勇者もそれを望み、世界から争いの元となる者たちを花へと変え──世界に平穏を齎した。


 しかし既に完成された異世界人転移転生の術式だけは、魔王であっても解除することは不可能だった。この星の延命のため、定期的に異世界人たちはやってくる。百年以上研究を重ねたが元の世界に戻る方法は見つからず、魔王は異世界人たちを受け入れる準備に心血を注いだ。「せめて巻き込まれた異世界人たちが、穏やかに暮らせるように」──と。


 これが《レーヴ・ログ大国》の設立に繋がる始まりだという。つまり有史以前は異世界人同士を《戦争代理人》として利用していた──ということなのだろう。その真相に気づいた異世界人は、世界を一度崩壊させて争いのない世界を築いた。


(魔王と勇者……。代理戦争。花、世界の理への干渉……)


 喉につかえた小骨のようになにか引っかかるのだが、どうにも上手く考えがまとまらない。俺は机の上に頬杖をつきながら、講師役を務めるダリアの説明を聞き流していた。


 現在、俺と陽菜乃その他数名は冒険者ギルドに登録を済ませて、講義を受けている。ギルド会館地下一階は大学の講習室に似ており黒板やらテーブルに椅子が並べられ、百人ぐらいは収容できるだろう。

 この部屋だけ見れば「元の世界に戻って来た」と錯覚しそうになる。もっとも黒板に書かれた見知らぬ歴史や、室内を泳ぐ半透明の魚たちを見れば、嫌でも現実を受け入れなければならない。


(謎や分からないことだらけだが、一つ一つ調べて紐解いていくしかないか)


 あの場にいた殆どの人は、職人ギルドと兼用で冒険者となったようで、講習を真剣に聞く者もいれば、堂々といびきをかいて寝ている者も散見された。


(歴史は勝者の都合によって残される、というけれどどこまで本当なんだ? だいたい途中から勇者の存在が消えているじゃないか。旧世界を憂いていたのは勇者も同じだったのに新しい世界には魔王しかいない。途中で仲違いしたか、殺されたか?)


 代理戦争の最中、手を組んでいた勇者の死亡。


(裏切り、騙されて殺されたとしたら?)


 何かが脳裏を掠める。

 声にノイズが混じってよく聞こえない。

 赤銅色の血飛沫。

 黒のシルエットは、長い髪の──。


「──という訳で魔王と勇者のシステムを書き換えたことで平和になり、国家間での争いは消えたのだけれど、建国から百年後に魔物が現れるようになったわ」

「!」


 ダリアの声に、俺はハッと現実に引き戻された。


(今脳裏に過った映像は……)

「先輩?」


 隣に座っていた陽菜乃は心配そうに顔を覗きこんでくるのだが、ちょっと距離が近い。上目遣いとか可愛すぎる。


「な、なんでもない」

「くそぉおお。リア充めぇええ」


 カボチャ頭が後ろで喚いているのが聞こえるが、ダリアが「うるさい」とリンゴほどのボールを投擲。カボチャ頭にヒットした直後、電撃が全身を駆け巡り強制的に黙った。「まったく。説明が進まないでしょう」と言うと講義の話に戻る。


(なんかあのカボチャ頭だけ対応が雑すぎないか……。いやまあ、五分に一度は叫ぶので講義の邪魔なのはわかるが)

「──とまあ、元々は代理戦争要員として呼び出されていたから、HPゲージやステータス画面などの表示が出るようになっているの」


 そう言って「ステータス・オープン」とダリアが告げた瞬間、涼やかな効果音と共に水色に発光する半透明の長方形が出現した。一気にゲームっぽさが出てきた。

「おお!」と眠たそうだった連中が一気に覚醒する。ダリアが許可を出す前に、それぞれ自分のステータスを見始める。「子供か」と思ったが、好奇心に勝てないのは俺も同じだった。


「ステータス・オープン」


 夜崎煌月やざきこうが/遶■應■□コ譌のハーフ/男/十八歳/Fランク

 レベル1 職業適性/前衛戦士アタッカー支援職バファーとして弓使いアーチャー/レベル向上+覚醒により□■■遶憺ィ主」■へ転職可

 HP458/MP28156

 攻撃力D/防御力B(-)/魔法力C/魔法防御C(-)/俊敏性B/魔力耐性A

 クリエイティブスキル、遶■■懃汲蛹/鑑定眼/遶懊?蜊オ■■


 これが俺のステータスのようだ。

 一部文字化けのようなものを見た瞬間、バグあるいは呪いだったらどうしよう。

 レベル基準が不明のため陽菜乃のステータス画面を見せてもらおうとしたが、ダリアの言葉の方が早かった。


「個人情報保護の観点から、特別なスキルがないと他人のステータスは見られないようになっているわ。あと、文字化けはレベル向上や状況によって開示されるようになっているから、呪いじゃないわよ♪」

(呪いじゃないのか。よかった……)

「じゃあ、オレっちは」

「君は、呪われているから」

「のぉおおおおおおおおおおおおおお! 理・不・尽!!」


 煩い南瓜の案山子は放っておいて、文字化けの画面に視線を落とした。


(……ってことは、この文字化けは、ゲームでいう進化によって開示される『???』みたいなものか。……ん?)


 ふいに前の席に座っている偉丈夫のステータスに目が留まった。本来ならステータス画面は《閲覧不可》というロック画面のポップスが浮かび上がって見える。

 しかし――。



 瀧月朗そうげつろう/森人族/男/八十七歳/Fランク

 レベル1 職業適性/前衛戦士・侍アタッカー

 HP54658/MP386

 攻撃力A(--)/防御力D/魔法力D/魔法防御D/俊敏性A/魔力耐性C

 ユニークスキル、武之達人/居合抜き/古武術瞬歩/見切り


 ダリアさん、他の人間のステータスは、閲覧できないのではなかったか。ふとそこで、『特別なスキル』ということを失念していた。改めて自分のステータスを見ると《鑑定眼》がある事に気付く。


(瀧月朗……どこかで聞いたことがあるような……。どこだったか?)


 他の連中も無防備にステータス画面を開いていたので確認してみたが、やはり問題なく読める。どうやら俺の特殊能力の一つ鑑定眼の効果のようだ。


(異世界で鑑定スキルがあるっていうのはラッキーなんじゃ? ……にしても、この瀧月朗ってイケメン、実年齢にも驚きだが、俺と同じレベル名はずなのに、ユニークスキルの数が可笑しい! もう完全に俺TUEEEじゃん、主人公じゃん! ハーレムとか余裕じゃないか! ……ぐっ、陽菜乃が惚れないといいんだが……ん?)


 陽菜乃のステータス画面を見た瞬間、ロック画面ポップアップが表示されたのだ。《閲覧不可》と赤文字に眉をひそめた。




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