「本当に、倒したんだな」
【ドラゴニア・マスカレード】運営会社とは、二代目ニズヘグとしてプレイヤーを倒し続ける限り、雇用関係は継続するとの契約を結んだ。
旨すぎる話だが、ラスボスを倒したプレイヤーが出現したと分かれば、ゲームの知名度も上がるし、課金額も上がる。十分に投資は回収できる見込みなのだろう。
「覚悟していたとはいえ、退屈だな」
ラスボスの一角となった俺のもとに訪れるのは、まともな毒対策もしていない雑魚ばかり。骨のない連中だ。
これで1日8時間拘束されるんだから、なかなかにキツい。サラリーマンの辛さが少し分かった気がする。
平日夜間と休日の昼間はラスボスを務めなければならない。ゲーム好きとはいえ、そろそろ飽きてきた。
とはいえ、途中で投げ出しては年俸4000万円が日割りでしか支給されないので、ここは辛抱だ。
とはいえ、これが本当に俺のやりたかったことなのだろうか?
会社員のように、雑魚プレイヤー狩りをこなすだけ。かつてのようにゲームを楽しむことも、熱中することもない。無機質で単調な毎日。
一生分稼いで引退し、その後で好きなだけゲームを楽しめばいい。そう割り切ってもいいが、やはり今を犠牲にするようなやり方は辛かった。
そんなときだった。ゲームバランスを崩壊させるあいつと出会ったのは。
「無課金勢か」
装備が短パンだけだったので、すぐにそうだと分かった。しかもレベル1。ゲームを始めたばかりの初心者と見える。
だがおかしい。世界樹ユグドラシルの番兵をどうやって倒してここまで来たんだ?
並のプレイヤーではこの毒竜の玉座までたどり着けないはず。まさか、チート使いなのか?
「まぁ、チートでステータスを底上げしたくらいじゃ、俺は倒せないけどな」
そんなことを呟き、ラスボス戦の相手をしてやる。何らかのチートを使っているのなら、先制攻撃で倒してしまえばよいだけのこと。俺はドラゴン形態のままテールウィップを放ち、挑戦者の男は吹っ飛ばされた。
だが。
「HPが1ポイントだけ、残っている?」
【エンデュア】のスキル持ちだったか。【エンデュア】は致命傷を受けても1ポイントだけHPを残して耐え忍ぶスキル。だが、これだけでここまで勝ち上がってきたとは考えにくい。いくら回避に優れていたとしても、十本ある俺の第一形態のゲージを削り切ることなど、不可能だ。
「そうだよな。俺のゲージは10本ある︙︙?」
見ると、ゲージが一本に減っていた。しかも残り30ポイントしかない。おかしい。もともと俺のHPは第一形態だけでも10万あった。それがここまで大幅に減少するなど、ありうるのか?
「キシシ、スキル【レベルリンク】発動だ」
挑戦者の不気味な笑い声が響く。顔が仮面で見えない分、余計に奇怪だ。
だが聞いたことがある。西の玉座を司る水竜ヒュドラは、自身がレベル30である代わり、強制的に相手のステータスをレベル20相当までさげさせると。
まさかこの挑戦者、ドラゴンロードたるヒュドラを倒して襲名したのか? でなければ説明がつかない。ボス相手にレベルを自分未満に下げさせるなんてスキル、滅多に出回ってはいけないからだ。
だが、ドラゴンロード二代目同士が潰し合うなんて話、聞いたことがない。まさかこいつは︙︙
「スキルコピーのチーターか」
俺はそう結論づけた。