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俺と妹の恋人ごっこ
井の中に居過ぎた蛙
現実世界ラブコメ
2024年08月27日
公開日
4,178文字
連載中
突然、「恋人になって」と言ってきた妹に付き合って恋人ごっこをすることになった俺。だけど、お互い恋人についてよく知らないせいで、合ってるのか間違ってるのかよくわからない恋人同士の振る舞いをする羽目に。

本作は小説家になろう様、カクヨム様、アルファポリス様でも配信させていただいております。

これが俺たちの新たな日常?

「……ねぇ、私の恋人になってよ」


 それが、高校生としてそろそろ3年目を迎えようかという未だ肌寒い冬の時期に俺に訪れた、この世の春のような瞬間なのであった。


 ……まぁ、その告白が実の妹からのものでなければ、の話だが。


「どうした? 風邪でも引いたか?」

「ち、違うし! 熱で判断能力下がってるとかじゃないし! 恋人といってもあくまでも予行演習! 要はごっこ遊びに付きあってってこと!!」

「ごっこ遊び?」

「ほら? 私もそろそろ高2じゃん? なのに彼氏とか全然できなくて、全く女子高生っぽくないな~って思ってさ」


 友達の何たらって奴は既にいるのにとか、モゾモゾと言う我が妹だが、どうやらそいつらからイチャイチャ話を聞かされる度、マウントを取られている気がして恨めしいとかそういうことのようだ。


「じゃあ、作ればいいじゃん?」

「いや、彼氏が欲しいからって、適当に作ればいいってもんじゃないでしょ?!」

「まぁ、確かに」


 そう言いつつ金髪童顔の妹が、ビッ……男遊びが趣味の女の子でなかったことにちょっと意外に思っている俺でした。


 だって、よくつるんでる女友達もなんかギャルギャルしくて近寄りがたいし、てっきり俺の知らないところで色々進んでいるのかとばかり……。


「……ぶっ飛ばされたいの?」

「いえ、全然!」


 握りこぶしを見せる妹のご機嫌を取りつつ、だとしたら何故ごっこ遊びをすることにと俺。


「だ、だって……いざ彼氏ができた時、あたふたしてたら笑われるっていうか。ちょっとは慣れてる感出しておかないと馬鹿にされるかも知れないし……」

「どんだけプライド高いんだよ……そもそも、そこまで気にしなくてよくね?」


 なにせ俺だって彼氏いない歴=年齢な訳ですし。

 それをやいのやいの言ってくる奴なんていない訳ですし。


「お兄と一緒にしないで! そもそもお兄には、そういうの気にする友達がいないだけでしょ!?」


 くっ……

 反論できない。


 確かに友達とはそんな話はしてないし、そもそも友達がほぼいないし。……しょ、少数精鋭なだけだけどね?


「はいはい。……って訳で! 私が恥かかないよう練習するのに付き合ってよね!」

「付き合ってってそういう……」


 交際の比喩的な意味ではなく、本当の意味での付き合ってという言葉。


 漫画やラノベのラブコメなんかでは、きっとその言葉の解釈をめぐって誤解が生まれ、後にドキドキするイベントやら殺伐とするイベント、果てはハーレムものならそれこそとんでもないことが主人公とヒロインの間に~みたいな展開が繰り広げられるのだろうが、既にネタバレされているのでそれは期待できそうにないのが今の俺。


 ……まぁ、実の妹相手にどんなことであれドキドキすることがないんだけどね。


「それで? どうするの!?」

「どうするのって……」


 何で上から目線なんだ? この子は。


 ……とはいえ、この妹とは妹が生まれてからの長い付き合いだ。


 おかげで一度こうなった妹は、こっちが要求を呑むまで諦めないのは目に見えている。


 となれば……だ。


「……わかったよ。どうせ暇だし」


 手をひらひらさせながら、仕方ないとばかりに了承した俺なのでした。……本当、いいお兄ちゃんだこと。


「……そ、そ! なら、いいけど……」


 どこか顔を赤らめ嬉しそうな妹の顔。


 生まれて初めての彼氏が俺で嬉しいのか?

 ……って、んな訳ないな。


 彼氏がいるという生活に憧れてたみたいだし、紛い物でもそういう生活ができるってのが楽しみなんだろう。


 相手が実の兄おれってことで、気兼ねしなくていいってことも含めて。


「……んで? 付き合うのはいいけど、これから何すんの?」


 まさかエロいことはしないよね?

 流石にそんなことすれば世間的に殺されかねないし。


「それはその……わ、私もよく知らないから、よく聞くやつをやってみようと思って」

「なるほど」


 手つなぎデートとか手編みのマフラーとか……って、なんか違うね。


 後者は別に付き合わなくてもできるし、前者に至っては幼少の頃はいつもしてたから今更感あるし。


 かといって映画とか一緒に外出歩くってのも、結局幼少の頃にしてたことだ。


「で、結局何するの?」

「うんとね、まずはその……ポッ○ーゲームかなって」

「それ、恋人とするやつ?」


 それってだいたい友達同士がふざけ合ってするやつでは?

 あるいは合コン……って、合コンは古いか。


 なんにせよ、恋人同士はその過程を吹っ飛ばしてそのままチューしちゃうものでは? ポッ○ー確実におまけでは?


「う、うるさいな! もしかしたら、するかもしれないでしょ!?」

「まぁ、そうかもしんないけど……そもそもそれ、予行演習必要?」


 端と端を咥えていい感じの所で折ればいいだけだろ?


「しょ、しょうがないでしょ! 最初に思いついたのがこれなんだから!」

「さいですか……」


 どうやらお互い、恋人に関する知識はほぼ0に等しいようで。

 ……だからこそ、ごっこ遊びで事前に学ぼうという訳だし。


「……ま、いっか。それじゃあ、さっさとやっちまおうぜ」

「……なにその余裕な態度」

「いや、妹相手に何か感じる方がおかしいのでは?」

「そ、それもそうね! あー、良かった! お兄が妹に欲情するような変態じゃなくて!」

「なんでちょっと怒ってんだよ……」


 本当、この年頃の女の子はわからんもんだ、などと思いつつ、自室の椅子に座っていた俺はベッドの上に移動し妹を隣に座らせる。


 そうして、やや遠慮がちに座った妹に「それで? ポッ○ーは?」と尋ねると、突然もじもじし始めたので「どうした?」と尋ねる俺。


「じ、実はね……うちにポッ○ー無かったから、代わりの物を持ってきたんだけど……」

「代わりの物?」

「……う、うん」


 そうして、手にしたビニール袋の中から取り出したのは……



 コ○ラのマーチだった。



「最初からクライマックスだなァ?!」


 せめて代わりの物は棒状の物であって?!


 そんな小さな楕円形の物、咥えようとした段階でチュー確定なんだけど!?


 っていうか、もうチューのために咥えてるようなものなんだけど?!


 コ○ラのマーチもはや余分なんだけど?!


「だ、だって! しょうがないじゃん! これしかお菓子無かったんだから!」

「だとしたら中止しろ?! もうチュー以外の目的しかないコ○ラのマーチゲームは始めることすらするな!?」

「それは……」


 俺の忠告にどこか不満気な妹。


 そりゃ、せっかく恋人らしいことが何でもできるってのに、いきなり頓挫するのなら不満気にもなるだろうが、それでも内容が内容だからな? 分かれ?


「……っていうか、野菜スティックとかあっただろ。ほら、お袋がよく意味もなく食ってる奴」


 どうせ痩せることはないのに、無駄に抗うために食ってるあれ。


「お兄はお母さんに恨みでもあるの?」


 恨みとかそういうんじゃない。


 ただ、はたから見てて無駄なことしてるな~と客観的に思っているだけだ。


「……まぁ、無くはなかったけど……ニンジンとか美味しくないじゃん」

「それでも、コ○ラのマーチよりはマシだろうよ……」


 ニンジンとかキュウリが嫌いだとしても、兄とチューよりかは遥かにいいだろうに……どれだけ野菜嫌いなのさ。


「……じゃあ、ちょっと持ってくる」


 そう言いながらポリポリと不服そうにコ○ラのマーチを食べながらキッチンへ向かう妹なのであった。


 ……どんだけコ○ラのマーチ食べたかったんだよ。


 ◇ ◇ ◇


「そ、それじゃあ、ほら……お兄」


 嫌々……というほどには嫌がっている様子を見せない妹が、キッチンから咥えてきたニンジンの片側を俺に咥えろと要求するように顔を近づけてくる。


 それにしても初ポッ○ーゲームが妹とか~等と思いつつ、「んっ!」と早く咥えろと促されたので仕方なく咥える俺。


 そうして、どちらからともなく始められるポッ○ーゲーム。


 コリコリとした瑞々しさを感じながらも、徐々に形を短くしていくポッ○ー代わりの一本でも橙色野菜ニンジン


 何の味もなく、確かにこれでポッ○ーゲームは味気ないと思わなくもないが、それでもコ○ラのマーチよりかはマシだろうと食べ進めるも……ふと俺はあることに気付く。


 ……これ、どこで終わればいいの?


 よくよく考えればポッ○ーはあの細さゆえに簡単に折れるものだが、ニンジンはそうはいかない。このコリコリとした歯ごたえからもわかるように、その芯はしっかりとした硬さがある。


 おかげで食べ進めるのは容易だが、途中でポッキリと折れるのは期待できそうにない。


 ……って、あれ? 本当にどうするんだ? これ。


 何とか口でニンジンを上下させ中折れを試みるも全然折れる気配がない。


 それじゃあ逆にと横に振ってもやっぱりダメ。


 そもそもポッ○ーゲームってどうやって終わらせるのかも知らないし、噛み切ったところで口を離せばいいのかとか考えてはみるも、それはそれでなんか違うなと思ってしまうし。


 仕方なく妹にどうするのかと目配せしようとするものの、肝心の我が妹は何故か目を瞑って黙々と食べ進めており、俺の意思が伝わらない。


 ……っていうか、なんで目瞑ってんの?

 そんなに俺の顔間近で見るの嫌なの?


 などと少しショックを受けながら、ともかく今はゲームの方だと「ん~! ん~!」と唸って妹に知らせようと試みる。


 しかし、妹には伝わらない。

 その間にも徐々に距離は近づいてくる。


 それでもまだコ○ラのマーチよりも距離があるから、コ○ラのマーチじゃなくて本当に良かったと思いつつ、必死にアピールしてみせる俺。


 しかし、それでも伝わらない。

 妹はどんどんどんどん食べ進めてしまう。


 そうして、ともすればコ○ラのマーチよりも距離が近付き、本当にこのまま妹とチューしちゃうのかと思った矢先……


「……」


 ぱっちりと目が開き俺と目が合った妹は、何か難しい顔をするも、両手でそのまま俺を突き飛ばす。


「ぐへっ!!」


 いや、なに急に? 何で突き飛ばすの?


 と抗議しようと妹を見るも、そんな妹はといえば全てのニンジンを食べ終えもぐもぐ口を動かすと、すぐにごくんと呑み込んで一言。


「……意気地なし」


 そうして、妹はそそくさと部屋を出て行ってしまうのであった。


「は?」


 なにそれ? どういう意味?


 ……もしかして、ポッ○ーゲームって、チキンレースだったの?


 どちらがどこまで食べられるのか競争するということなら、確かに俺は負けた訳だが……


「い、妹よ……お前はそこまでポッ○ーゲームに真剣だったのか?」


 こうして、よくわからない形で俺たちの初めての恋人ごっこは幕を閉じたのであった。


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