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第103話 限定

「ねぇ、なんで顔隠すの?」

「いちいちなんか言われるから」

「別によくない? 格好いいし」

「んー、格好いいというより可愛い顔してます。私もそんな顔になりたかったです」

「いや、ニイナも充分可愛い顔してるだろ」

「⋯告白?」

「うん」

「適当に返事するのやめて貰えますか、こっちは警察ですよ? 9月27日12時46分、現行犯で」

「⋯俺を逮捕するのハマってるだろ」

「はい、ルイ様が捕まると面白そうなので」

「アスタと同じ事言いやがって、やっぱ"類供"か」

「⋯るいとも? ルイ兄の友達、の略⋯?」

「楽しそうでいいな、ノノは」

「ただバカなだけです」

「バ!? ⋯この後もう1回勝負しやがれ!」


 まだやるのかよ。

 俺はみんなへクレープ渡しに行くかな。


 "カレイドドーナツホテル"へと戻って来た俺たちは、3階のクレープ店へ並んでいた。

 13時から始まる1日30食限定のクレープ、ホテルに泊まった者のみが買える権利を得られる。

 ただし12時半からしか並ぶ事が出来ないため、もう人数制限で締め切られてしまっている。


「でも二人呼んでよかった、一人2食までらしいから」

「ルイ様は本当にいらないんですか?」

「あぁ、いい。また落ち着いたら買いに来る」

「私の分けてあげるよ、ルイ兄に」

「いや、また来たいから楽しみに取っておきたいんだ。だから気にせず食ってくれ」

「なら、次行く時も私呼んで! 絶対!」

「お、おう⋯」


 いつ来るか分からないけど。

 それより、俺たちだけ他の人に避けられてる気がする。


 ニイナに借りた仮面を付けて白いフードを被る俺、黒能面を付けたままのニイナ、それに話しかけるノノ。

 この構図はさすがにヤバい連中扱いされるか。

 でも二人は気に留める様子も無く、話を続けている。


 そんな状態で、俺たちの順番が来た。

 先に並んでいたのは4人だけだった、買える数は十二分に残っている。

 目の前に浮かぶ"大きな非接触パネルのメニュー欄"から、【残り25食! 秋限定20種ぶどうのドーナツクレープ!】と表示されたものを3つ注文する。


 この"非接触パネル"は"ここに立った人間以外には見えない仕様"になっているため、今ニイナやノノ、もちろん他の人にも、何を注文しているのかは見えていない。

 注文すると『かしこまりました、少々お待ちください』というアナウンスが響き、AIがクレープを作り始めた。


 ここでこの"金星ドーナツ部屋クーポン"が活きるんだ、これが。

 あの部屋に泊まった者のみ、"もう1つ多く"クレープを買う事が出来る。

 これでちゃんと7人分用意できるな。


 受け取り場へと避けると、次はニイナ、ノノの順で注文が行われていく。

 ちなみに、"メニュー欄"は店内のあらゆる場所に表記されているため、この"非接触パネルでしか分からない"という訳では無い。


「20種のぶどう、楽しみですね」

「その中に"クイーンニーナ"っていう品種が入ってるらしいよ、あんた入ってんじゃん、ぷぷっ」

「⋯は? ぶち殺すぞ」

「喧嘩はやめろよ」

「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じ」


 いや、今ぶち殺すって言ったぞ⋯?

 これがいつもなのか⋯?


 まぁ二人して寝る仲だし、そんなに心配はしてない。

 ニイナとノノって、表面は正反対だけど、裏面は似てる性格してるんだよな。

 なんだかんだで、そういうところが合うのが話しやすかったりする、人間って。


 そうこうしている内に、焼きたてのドーナツクレープがやってきた。

 持ち帰りの箱から、こっそり中を覗いてみる。


「おぉ、クレープの真ん中にドーナツが付いてる。クレープ内にぶどうの破片とクリームがぱんぱんに詰まってるな」

「これは期待大ですね。あっちのイートインスペースで早速食べてもいいですか?」

「いいよ、ノノもすぐ食べる? 焼きたてだぞ」

「食べる! こんなクレープ初めて~!」


 俺もこんなのは初めて見た。

 いい発想してる、これは絶対美味い。


 広いイートインスペースに座り、二人がドーナツクレープを箱から取り出すと、すぐに頬張った。


「ん~! めっっっっっちゃ美味しいです! 中にぶどうとクリームの層が段々とあって、食べる度に違うクリームと違うぶどうが出てきます!」

「さいっこう~! これガチ美味~! ルイ兄ガチあり~!」

「喜んでくれてよかったよ。次はいつ食べられるか分からないしな」

「え~! またすぐ来よ~! いやここ住も~!」

「住むのかよ」


 口いっぱいにクリームを付けながら、幸せそうに食べる二人。

 ドーナツ中にも、ぶどうクリームがたっぷり入ってるらしい。

 これならユキとヒナも、喜んでくれそうだな。


「もー食べ終わっちゃったんだけど~! 一瞬じゃん~!」

「まだ食べたいか?」

「食べたいけど⋯これはユキ姉の分だから我慢する! あんまり食べると夜食べられなくなるし!」

「これはルイ様にも是非食べて欲しいです」

「⋯楽しみにしとくよ」

「女子は好きだからね~! こういうスイーツ! 絶対ユキ姉とヒナ姉は喜ぶだろうなぁ~! そういう事するからモテちゃうんだよなぁ~」

「なんだその、もうモテるなっていう顔は⋯んな事よりこれ、男性陣にはどう?」

「そりゃもう男子も好きなはず! 誰か甘いの嫌いなのいない? いたらすぐ呼んでね?」

「⋯はい」


 男性陣にもいけそうで良かった。

 この見た目でいけないのもおかしいけど。

 数分後、二人と別れた俺は、ドーナツクレープの箱をぶら下げて次の場所へと向かった。

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