「ねぇ、なんで顔隠すの?」
「いちいちなんか言われるから」
「別によくない? 格好いいし」
「んー、格好いいというより可愛い顔してます。私もそんな顔になりたかったです」
「いや、ニイナも充分可愛い顔してるだろ」
「⋯告白?」
「うん」
「適当に返事するのやめて貰えますか、こっちは警察ですよ? 9月27日12時46分、現行犯で」
「⋯俺を逮捕するのハマってるだろ」
「はい、ルイ様が捕まると面白そうなので」
「アスタと同じ事言いやがって、やっぱ"類供"か」
「⋯るいとも? ルイ兄の友達、の略⋯?」
「楽しそうでいいな、ノノは」
「ただバカなだけです」
「バ!? ⋯この後もう1回勝負しやがれ!」
まだやるのかよ。
俺はみんなへクレープ渡しに行くかな。
"カレイドドーナツホテル"へと戻って来た俺たちは、3階のクレープ店へ並んでいた。
13時から始まる1日30食限定のクレープ、ホテルに泊まった者のみが買える権利を得られる。
ただし12時半からしか並ぶ事が出来ないため、もう人数制限で締め切られてしまっている。
「でも二人呼んでよかった、一人2食までらしいから」
「ルイ様は本当にいらないんですか?」
「あぁ、いい。また落ち着いたら買いに来る」
「私の分けてあげるよ、ルイ兄に」
「いや、また来たいから楽しみに取っておきたいんだ。だから気にせず食ってくれ」
「なら、次行く時も私呼んで! 絶対!」
「お、おう⋯」
いつ来るか分からないけど。
それより、俺たちだけ他の人に避けられてる気がする。
ニイナに借りた仮面を付けて白いフードを被る俺、黒能面を付けたままのニイナ、それに話しかけるノノ。
この構図はさすがにヤバい連中扱いされるか。
でも二人は気に留める様子も無く、話を続けている。
そんな状態で、俺たちの順番が来た。
先に並んでいたのは4人だけだった、買える数は十二分に残っている。
目の前に浮かぶ"大きな非接触パネルのメニュー欄"から、【残り25食! 秋限定20種ぶどうのドーナツクレープ!】と表示されたものを3つ注文する。
この"非接触パネル"は"ここに立った人間以外には見えない仕様"になっているため、今ニイナやノノ、もちろん他の人にも、何を注文しているのかは見えていない。
注文すると『かしこまりました、少々お待ちください』というアナウンスが響き、AIがクレープを作り始めた。
ここでこの"金星ドーナツ部屋クーポン"が活きるんだ、これが。
あの部屋に泊まった者のみ、"もう1つ多く"クレープを買う事が出来る。
これでちゃんと7人分用意できるな。
受け取り場へと避けると、次はニイナ、ノノの順で注文が行われていく。
ちなみに、"メニュー欄"は店内のあらゆる場所に表記されているため、この"非接触パネルでしか分からない"という訳では無い。
「20種のぶどう、楽しみですね」
「その中に"クイーンニーナ"っていう品種が入ってるらしいよ、あんた入ってんじゃん、ぷぷっ」
「⋯は? ぶち殺すぞ」
「喧嘩はやめろよ」
「大丈夫大丈夫、いつもこんな感じ」
いや、今ぶち殺すって言ったぞ⋯?
これがいつもなのか⋯?
まぁ二人して寝る仲だし、そんなに心配はしてない。
ニイナとノノって、表面は正反対だけど、裏面は似てる性格してるんだよな。
なんだかんだで、そういうところが合うのが話しやすかったりする、人間って。
そうこうしている内に、焼きたてのドーナツクレープがやってきた。
持ち帰りの箱から、こっそり中を覗いてみる。
「おぉ、クレープの真ん中にドーナツが付いてる。クレープ内にぶどうの破片とクリームがぱんぱんに詰まってるな」
「これは期待大ですね。あっちのイートインスペースで早速食べてもいいですか?」
「いいよ、ノノもすぐ食べる? 焼きたてだぞ」
「食べる! こんなクレープ初めて~!」
俺もこんなのは初めて見た。
いい発想してる、これは絶対美味い。
広いイートインスペースに座り、二人がドーナツクレープを箱から取り出すと、すぐに頬張った。
「ん~! めっっっっっちゃ美味しいです! 中にぶどうとクリームの層が段々とあって、食べる度に違うクリームと違うぶどうが出てきます!」
「さいっこう~! これガチ美味~! ルイ兄ガチあり~!」
「喜んでくれてよかったよ。次はいつ食べられるか分からないしな」
「え~! またすぐ来よ~! いやここ住も~!」
「住むのかよ」
口いっぱいにクリームを付けながら、幸せそうに食べる二人。
ドーナツ中にも、ぶどうクリームがたっぷり入ってるらしい。
これならユキとヒナも、喜んでくれそうだな。
「もー食べ終わっちゃったんだけど~! 一瞬じゃん~!」
「まだ食べたいか?」
「食べたいけど⋯これはユキ姉の分だから我慢する! あんまり食べると夜食べられなくなるし!」
「これはルイ様にも是非食べて欲しいです」
「⋯楽しみにしとくよ」
「女子は好きだからね~! こういうスイーツ! 絶対ユキ姉とヒナ姉は喜ぶだろうなぁ~! そういう事するからモテちゃうんだよなぁ~」
「なんだその、もうモテるなっていう顔は⋯んな事よりこれ、男性陣にはどう?」
「そりゃもう男子も好きなはず! 誰か甘いの嫌いなのいない? いたらすぐ呼んでね?」
「⋯はい」
男性陣にもいけそうで良かった。
この見た目でいけないのもおかしいけど。
数分後、二人と別れた俺は、ドーナツクレープの箱をぶら下げて次の場所へと向かった。