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第92話 伝心

『ユキさんも"それ"、付けてみて』

「"これ"ですか?」

『私が見えるって事は、あなたも見えると思う』


 エスカレーターに上りながら、彼女が言う。

 さっきルイから預かった、"オレンジのハイスマートサングラス"を掛けてみた。

 すると、"非渋谷ストリーム1~4階MAP"というマップが多層立体的に現れ、"謎の何か"が4階に3体いる事がすぐ把握できた。


「⋯凄い、これ」

『その反応は見えたって事ね』

「はい、くっきり見えます」


 3階に着くと、主にアパレル店が多くあり、よく知ってるお店もある。

 景観は"現実の渋谷ストリーム"にそっくりなのよね。


 端だと、薄いガラス窓から外がよく見える。

 相変わらず、紫に光る東京夜景が広がっている。


「あのー⋯ショウカさんって、そのー⋯生きて、ないんですよね」

『えぇ、そうよ。最期は"あの人"に付いて行って死んじゃった。好きだったの、"あの人"が』


 お、おぉ⋯はっきり言うのね。

 ルイの事が好きだったってことよね。


『あなたも好きなんでしょ? 彼の事が』

「え⋯⋯えぇ!? 私ぃ!?」

『動揺凄いわね⋯隠せてると思った?』

「あ、いや⋯まぁ」

『いい事じゃない。彼の事妄想しながらここを触ってオ』

「も、もうやめません!? その話っ!! 今、卑猥な事言おうとしてましたよね!?」

『え~、なんで分かったの』

「⋯オ、は気付きますって」

『やるわね、逆に見抜かれちゃった』


 もうなにこの人⋯

 真面目な人かと思ったのに。


『でも、これで少しは不安がほぐれたでしょ』


 ⋯確かに、なんか身体が軽く感じる

 知らない間に強張ってた?

 そこまで見越しての事だったとしたら、この人⋯ヤバい。


『ここからが本番だから、柔軟に動いてもらわないと』

「やっぱりいい人⋯?」

『これが大人の対応ってヤツよ』

「それとは違うような⋯」


 サングラスで見た通り、今度は有名ハンバーガー店の右奥にエスカレーターを発見した。

 よく分からない所に設置されていて、こんなのマップが無かったらどうなってたのか、想像したくない。


『ここからはいつでも戦える状態で』

「はい」


 "灰涅槃の鬼鎌"を取り出すと、鬼の眼から"灰色の光"が天井を差した。

 上に敵がいるという事を知らせてくれている。

 この鎌の基になっている"白雪鬼の死神鎌"と同様、簡易探知のようなもので、何がいるかまで詳細は分からない。


 ここで驚いたのが、ショウカさんの取り出したモノだった。

 まさかの私と一緒の大鎌だった。


「え、同じ?」

『似てるけど違うわ。私のは"混沌虹女神の鬼鎌(カオスイーリス・デーモンデスサイズ)"。ユキさんのは灰涅槃の鬼鎌(アッシュニルヴァーナ・デーモンデスサイズ)でしょ?』

「これの名前、分かるんですか?!」

『"この鎌を使用時のみ使えるズノウ"でね。ズノウアイコンの横に"人のマークが2つ"あるから、ユキさんにも共有されてない?』


 ⋯ほんとだ

 彼女の持つ鎌の名前が自然と分かるようになってる。

 さらには、幾つか"限定ズノウ"が共有されている。


 その中に"見覚えのあるもの"が一つあった。

 私たちが何も出来なくなった、あの〈混沌虹女神の一喝〉が。


「え、これ使えるの⋯?」

『〈混沌虹女神の一喝〉ね。所長の一部である私にも使えるみたい。ここではあまり意味を成さないみたいだけど、あなたたちにはトラウマよね⋯』


 説明欄に【一定距離に存在する、自分の所持するUnRuleウェポンより低いクラスの存在を6時間の間、アイテム欄へと格納する。ただし、親密度の高い者には反映しない】とある。

 こんな怖いのを未来ルイは持っていたなんて⋯


『彼はAI総理であるR.E.D.を倒した後、そのあまりに大いなる力で立ち続ける姿から、"不死蝶"と呼ばれてた。その所以の一つが、このズノウなのかもね』


 不死蝶⋯

 ルイの使うのはどれも"蝶がテーマ"になってるものばかり。

 自由や一生、あらゆる意味を持つ生き物、それをUnRule開発部門が取り扱った事で、いろんな影響がいろんな場所で起きてる。


 蝶には"バタフライエフェクト"という言葉がある。

 まさにそれが、私の鎌にもショウカさんの鎌にも起きている。


 ショウカさんの鎌はよく見ると、"七色の装飾"が散りばめられており、言う通り私とは少し違った。

 並んでみると、ちょっと姉妹にも見えてきたかも。


『先に前に出るから、様子を見て合わせてくれる? きっと私たちなら、以心伝心のように動けると思う』

「サポートは得意なので、頑張ります」

『ねぇ、私の妹にならない?』

「⋯それは遠慮しときます」

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