『ユキさんも"それ"、付けてみて』
「"これ"ですか?」
『私が見えるって事は、あなたも見えると思う』
エスカレーターに上りながら、彼女が言う。
さっきルイから預かった、"オレンジのハイスマートサングラス"を掛けてみた。
すると、"非渋谷ストリーム1~4階MAP"というマップが多層立体的に現れ、"謎の何か"が4階に3体いる事がすぐ把握できた。
「⋯凄い、これ」
『その反応は見えたって事ね』
「はい、くっきり見えます」
3階に着くと、主にアパレル店が多くあり、よく知ってるお店もある。
景観は"現実の渋谷ストリーム"にそっくりなのよね。
端だと、薄いガラス窓から外がよく見える。
相変わらず、紫に光る東京夜景が広がっている。
「あのー⋯ショウカさんって、そのー⋯生きて、ないんですよね」
『えぇ、そうよ。最期は"あの人"に付いて行って死んじゃった。好きだったの、"あの人"が』
お、おぉ⋯はっきり言うのね。
ルイの事が好きだったってことよね。
『あなたも好きなんでしょ? 彼の事が』
「え⋯⋯えぇ!? 私ぃ!?」
『動揺凄いわね⋯隠せてると思った?』
「あ、いや⋯まぁ」
『いい事じゃない。彼の事妄想しながらここを触ってオ』
「も、もうやめません!? その話っ!! 今、卑猥な事言おうとしてましたよね!?」
『え~、なんで分かったの』
「⋯オ、は気付きますって」
『やるわね、逆に見抜かれちゃった』
もうなにこの人⋯
真面目な人かと思ったのに。
『でも、これで少しは不安がほぐれたでしょ』
⋯確かに、なんか身体が軽く感じる
知らない間に強張ってた?
そこまで見越しての事だったとしたら、この人⋯ヤバい。
『ここからが本番だから、柔軟に動いてもらわないと』
「やっぱりいい人⋯?」
『これが大人の対応ってヤツよ』
「それとは違うような⋯」
サングラスで見た通り、今度は有名ハンバーガー店の右奥にエスカレーターを発見した。
よく分からない所に設置されていて、こんなのマップが無かったらどうなってたのか、想像したくない。
『ここからはいつでも戦える状態で』
「はい」
"灰涅槃の鬼鎌"を取り出すと、鬼の眼から"灰色の光"が天井を差した。
上に敵がいるという事を知らせてくれている。
この鎌の基になっている"白雪鬼の死神鎌"と同様、簡易探知のようなもので、何がいるかまで詳細は分からない。
ここで驚いたのが、ショウカさんの取り出したモノだった。
まさかの私と一緒の大鎌だった。
「え、同じ?」
『似てるけど違うわ。私のは"混沌虹女神の鬼鎌(カオスイーリス・デーモンデスサイズ)"。ユキさんのは灰涅槃の鬼鎌(アッシュニルヴァーナ・デーモンデスサイズ)でしょ?』
「これの名前、分かるんですか?!」
『"この鎌を使用時のみ使えるズノウ"でね。ズノウアイコンの横に"人のマークが2つ"あるから、ユキさんにも共有されてない?』
⋯ほんとだ
彼女の持つ鎌の名前が自然と分かるようになってる。
さらには、幾つか"限定ズノウ"が共有されている。
その中に"見覚えのあるもの"が一つあった。
私たちが何も出来なくなった、あの〈混沌虹女神の一喝〉が。
「え、これ使えるの⋯?」
『〈混沌虹女神の一喝〉ね。所長の一部である私にも使えるみたい。ここではあまり意味を成さないみたいだけど、あなたたちにはトラウマよね⋯』
説明欄に【一定距離に存在する、自分の所持するUnRuleウェポンより低いクラスの存在を6時間の間、アイテム欄へと格納する。ただし、親密度の高い者には反映しない】とある。
こんな怖いのを未来ルイは持っていたなんて⋯
『彼はAI総理であるR.E.D.を倒した後、そのあまりに大いなる力で立ち続ける姿から、"不死蝶"と呼ばれてた。その所以の一つが、このズノウなのかもね』
不死蝶⋯
ルイの使うのはどれも"蝶がテーマ"になってるものばかり。
自由や一生、あらゆる意味を持つ生き物、それをUnRule開発部門が取り扱った事で、いろんな影響がいろんな場所で起きてる。
蝶には"バタフライエフェクト"という言葉がある。
まさにそれが、私の鎌にもショウカさんの鎌にも起きている。
ショウカさんの鎌はよく見ると、"七色の装飾"が散りばめられており、言う通り私とは少し違った。
並んでみると、ちょっと姉妹にも見えてきたかも。
『先に前に出るから、様子を見て合わせてくれる? きっと私たちなら、以心伝心のように動けると思う』
「サポートは得意なので、頑張ります」
『ねぇ、私の妹にならない?』
「⋯それは遠慮しときます」