「⋯なに、あれ?」
歩道の途中、"巨大な蝶のようなドア"があった。
七色に光り、ここだけ特別感が凄い。
避けて通ろうとすると、まるで通せんぼするようにドアが動き始めた。
左に避ければ左に、右に避ければ右に、どこまでも邪魔をしてくる。
ルイが銃剣を取り出し、攻撃をしてみても、なんとビクともしない。
何も効かないし、頑丈だし、一体何なのコレ⋯?
『⋯もしかして、"この窪み"にはめる物が必要なのかも』
「そんなゲームのイベントみたいな事、あります?」
『まぁ、このUnRule自体が元々ゲームだから』
「⋯そうだった」
『二つ窪みがあるわね、"35"と"38"って窪み内に書いてあるわ』
二人が会話する中、私は辺りを見回してみた。
すると、1か所だけ渋谷ストリームのビル内へ入れる場所を発見した。
「あれ、中へ入れるみたいです」
みんなで入口へ近付くと、"2"という数字が大きく浮かんでいた。
さっきから謎の数字はなんの意味⋯?
「んー⋯"35と38"はたぶん、この渋谷ストリームの最上階が35階、渋谷サクラステージの渋谷タワー最上階が38階だから、それが関係してるとか⋯この"2"は入れる人数⋯とか?」
『おぉ、さすが若所長』
「⋯俺は所長じゃないんですけど」
『五年違うだけなんだし、いいじゃない。若所長って呼ばせてよ』
「そういえば、あなたは何て呼べば⋯」
『言ってなかったっけ、そういえば。私は霧海(きりうみ)ショウカ、28歳独身。一応、2035年の君の副所長をさせてもらってたのよ』
すんごいドヤ顔してる。
若くして大きな研究所の副所長にまでなるなんて、この人は相当賢い人なのかな。
『てなわけで、ここからどうしましょう。二人しか入れないのだとしたら、一人がここに残る事になるわ。私が残ってもいいのだけど⋯そうすると、ユキさん、しんどいかも』
「え⋯?」
『気付いてるわよ。私と会うまで、しんどかったでしょ』
「なんで気付いて!?」
『見れば分かる。なんか、あなたは私とよく似てる感じするから』
「そうだったのか? ユキ」
「⋯ごめん、黙ってて」
『私の"ズノウによる影響"が、ユキさんにも与えるみたいよ』
それで楽になってたんだ。
だったらどうしよう⋯
この人を残すと、私が倒れる可能性が高そう。
かと言って、ルイを残すわけにもいかないし⋯
試しに、"2"と書かれた中に、私とショウカさんで入ってみる。
すると、やっぱり彼は入れない様子だった。
一旦、私たちは外へと出る。
「⋯俺一人、あっち側へ行くよ」
「!? ルイ一人で!?」
「それが一番いい。霧海さん、そうですよね?」
『ショウカでいいわ。最適解はそうだけど、ここでは何が起こるか分からないわよ? 所長の一部である私でも、何一つ分からないんだから』
「でも、"アイツ"とやるには一筋縄じゃいかない。その事前運動だと思って、やってきます」
『ほんとそっくりね、所長に』
「同一人物ですから」
ルイが私の方を向く。
「すぐ戻ってくるから、悪いけどそっちを頼んだ」
「⋯すぐよ、すぐ戻って来てね」
「その間これ、持っといてくれ」
渡されたのは、彼がよく使っていたオレンジカラーのハイスマートサングラス。
「これ⋯いつも使うものじゃない」
「だから預ける。きっと役に立つ」
『私が持ってるのと、少し似てるわね』
ショウカさんがずっと頭に掛けている眼鏡と、確かによく似ている。
「それじゃ、ショウカさん。ユキをお願いします」
『任されました』
こうして、ルイと一時的に別れる事となった。
寂しいけど、今はこれしか方法が無い。
『二人で頑張りましょうか』
「⋯よろしくお願いします」
『そんな堅苦しくならなくで、もっと気軽に頼ってくれていいからね』
「ありがとう⋯ございます、ショウカさん」
『ショウカ姉でもいいわよ?』
「⋯それはちょっとまだ⋯」
渋谷ストリームの2階入口から入って進むと、薄暗いフードコートが待っていた。
もちろん無人で、ここから35階へ行かなければいけない。
『⋯待って。上に何かいる』
ショウカさんがサングラスを掛ける。
『4階に3体モンスターがいるわ。気を付けて行きましょ』
そこまで分かるんだ。
この人見かけによらず、頼りになる⋯?
『今、この人案外頼りになるって思ったでしょ』
「そんな事も分かるんです?!」
『今のはただの勘。勘が鋭いのよね、私って』
「⋯すみません、バカにした訳ではないです」
『分かってるわ。こっちから行きましょう』
「はい」
この人の前では、あまり変な事考えないようにしないと⋯
それより、私の知ってる渋谷ストリームと形状が違う。
これが"非渋谷"の影響⋯?
エスカレーターもエレベーターも見つからないし、無事に行けるのかな⋯
不安に思っていると、焼肉屋の向こう側にエスカレーターらしきものが見えた。
しかし、エレベーターがどこにもない。
『ここからしか、上に行けないみたいね』
「エレベーターがどこにも無いですね」
『もし、エスカレーターしか無いのなら移動が面倒ね』
これ、ルイは一人なのよね⋯?
大丈夫なのかな⋯