白い光の先、二人だけがいた。
別世界の彼と私。
その視線の先に立っていたもの⋯
散々私たちを苦しめてきた元凶。
突如、総理の背中から"羽?"が生えた。
見た事も無い、左には白い日本列島、右には黒い日本列島の形をした羽。
それだけで全身に悪寒が伝った。
そう感じた時、別世界の私に異変が起こった。
上半身から血が溢れ、苦しみ始めた。
何が起こっているのか、全く分からなかった。
倒れる私を別世界の彼が抱えると、なんと私の身体が総理の中へと取り込まれていった。
取り込まれる直前、私が何か言ったように見える。
ただ一人になった彼が"二丁の銃剣"を取り出し、立ち向かっていく。
最後に見えたのは、総理も"二丁の銃剣"を出現させた事。
意味不明な事柄だけが揃い、白い光に包まれた。
明けた先、目の前に広がる光景、
「ここ⋯渋谷⋯よね?」
「⋯渋谷サクラステージか?」
夜の渋谷サクラステージが広がっていた。
数回しか来た事ないけど、位置関係はなんとなく分かる。
「テラスの場所ね、ここ」
二人歩き、辺りを散策する。
誰一人いない渋谷の夜、"紫に光る夜景"だけが目に入る。
「俺があの時見た夜景と全く同じだ」
「それじゃ、やっぱりここが⋯」
「でも今回は違う、ユキだっている」
「⋯そうね」
閑散とした中、"渋谷ストリーム"へと続いた通路を歩いて行く。
目指しているのは、渋谷スクランブルスクエア屋上、渋谷スカイ。
彼が言うに、あの場所に"未来ルイ"がいるという。
「あれがAI総理⋯ユキの死因も意味不明だったな」
「ね。何が何やらだったわ」
「"あいつ"はもう、対処法を教えてくれないんだよな」
「⋯うん」
未来ルイはもういない。
正確には、操られている身体に戻されてしまった。
そして、その彼のズノウが作り出した世界に、私たちは今いる。
なんだろう、この感覚。
現実感の無い、フワフワした感じ。
まるで山登りを続けているみたい。
あまり長居はできなそう。
でも今は⋯耐えなきゃ。
「⋯ん? あれ、誰かいないか?」
確かに、奥に誰か一人立っている。
長い黒髪にニットワンピっぽい服、黒のロングブーツ⋯女性?
向こうから近付いてくる。
敵⋯じゃないよね?
『待ってた、二人を』
少し遠くから、その女性は話しかけてきた。
待ってたって⋯どういう事?
「あの人⋯!」
「知ってるの?」
「⋯俺が見た夢に出てきた⋯未来の俺の傍にずっといた人だ」
未来ルイの傍に⋯
つまりはいい人⋯?
「なんでここにいるんですか!?」
『分かるの? 私の事が』
「あなたを夢で見たんです。未来の俺とずっと一緒に巨大な研究所にいたのを、それで最後に⋯骨の仮面になってしまったのを」
『⋯そっか。そう、私はただの仮面で、所長の⋯未来の君の一部。この身体も、"所長が与えてくれた時間"だから維持されてるだけ』
彼女が私の方を向いた。
『新崎ユキさん、だよね?』
「え、はい」
『写真で見た通り、すっごく美人』
「いや、あなたの方が⋯」
そのスタイルの良さと巨乳で言われても⋯
でも、どこか容姿が私に似てる感じがする。
『⋯あまり話してても、よく無さそう』
不意に彼女が合図した先、なんと"数体の何か"がいた。
「!? なんなのアレ!?」
『⋯あれは〈虚無限蝶の捕食者(ゼロインフィニット・アークプレデター)〉、所長の持つズノウの一つ。1体だけでELと同じくらいの強さを持ってるから、あっちへ避難を⋯』
「いや」
『⋯?』
「もう少し肩慣らしをしたかったんです、今の自分がどこまで出来るようになったのかを」
そう言うと、ルイは"二丁の銃剣"を取り出した。
その瞬間、七色と黒白の粒子が周囲を漂う。
0と∞の模様を載せた、不思議な蝶の羽根の粒子。
まさか⋯一人でやる気!?
止める間もなく、彼はヤツらへと突っ込んでいった。
心配事が嘘だったように、あっという間に殲滅していく。
それに、前のルイとは動きも変わってる。
本気で未来の自分を超える気なんだと、気迫さえ伝わってくる。
『あの銃剣、〈ゼロインフィニット・アークイーリス〉と〈ライフタイムリミット・アークイーリス〉じゃない!?』
「⋯それはルイが使ってた銃剣の事ですか?」
『そう、所長⋯こっちの三船ルイはずっとその二つを使っていたの。別名、虚無限蝶の銃剣と死生刻蝶の銃剣、それでAI総理を倒したとされてる。なのに、あれは⋯』
ルイが戻って来た。
「ふぅ」
『それ、所長とは別物よね?』
女性が銃剣を指差して言う。
「壊れて消えましたからね、あれらは」
『⋯あの最期の時、無くなっちゃったんだ⋯』
「その言い方、俺が死んだのを見てました?」
『⋯見てた。止めようも無い力に、従うしかなかった。私はただ、所長の意志に付き従うのみだから⋯』
喋りながら、彼女が歩き始める。
『けど、それなら所長を止められる気がする。行きましょうか、また"あの場所"へ』