大臣に使った〈灰涅槃の楽園〉は1日1回しか使えないらしく、他で頑張らないといけない。
だったら、至近距離でぶつかるべき⋯!
私の鎌と赤いヒナの槍が衝突し、鈍い音が強烈に響く。
適当にズノウは使えない、〈天魔神の超反撃〉でとてつもないカウンターを食らう可能性がある。
あなたはフィジカルはそれほど強くなかった。
補うために、少し離れたところからいつも戦ってる。
つまり、この距離の物理戦にそれほど慣れてないはず。
私は散々ルイとシンヤ君に鍛えられてきた。
高校の時だって、あの二人に置いて行かれないようにするには、常にあの速さに遅れないようにする必要があったんだから。
それがどれだけキツいか、あなたには分かる?
圧倒的な速さを前に、私は自分の限界を気にしてばっかり。
ルイには絶対追い付けないとしても、せめて、せめてシンヤ君の背中は捉えていようって、やってきた。
その"見える背中"はあまりに小さい。
米粒ほどの大きさがあればラッキーくらい、そんな時は私が調子良い時。
そして、今は感覚的にそれを感じる。
だって、ルイが戻って来たから。
好きな人が傍にいるってだけで、調子が良くなっていく。
あなたに見せてあげる、それがどれだけの事なのかを⋯!
「⋯ッ!!」
槍をはじき返すと、彼女はズノウを使ったのか、上から"数えきれないほどの黒と白の槍"が降ってきた。
「⋯まだ知らないみたいね、私の事」
黒と白の槍は一瞬にして、"灰色蝶の輪郭を保った銀河空間"へと吸い込まれていった。
〈灰空の天の川〉によって、全て"灰色のレーザースピア"へとアップデートされ、彼女へと降り返した。
しかし、それをまた彼女は超反撃によって返そうとしてくる。
その繰り返しが空中で行われる中、また私と"赤いヒナ"が零距離で睨み合った。
鎌と槍の擦れる音が、タイムリミットを焦らせる。
【04:30】、【04:29】、【04:28】と。
「いい加減に⋯しなさいッ!!」
「⋯」
彼女は諦めてくれない、槍の姿を黒く変えて。
まるでこの光景が、"いつか彼を取り合う日が来る"、そんな風にも感じた。
だったら、より負ける訳にはいかない。
ここは恋の戦場と思うんだ。
この土俵から落ちれば、大好きな彼の全てを奪われる。
そう思い込むと、想像以上の馬鹿力が湧き上がって来た気がした。
毎日彼の声を聴きたくて。
毎日彼の顔を見たくて。
毎日彼の生活の一部になっていたくて。
寝てる時にキスだってした。
何回も一緒のベッドで寝た。
さっき恋人繋ぎだってした。
あなたには無いでしょうね。
まだ会って間も無い、あなたには⋯!
私にはね、それが全部動く糧になるのよ⋯!!
不意に鎌を消し、槍を避けた。
その瞬間、彼女は予想していなかったようで、慣性のまま前のめりになった。
そこを狙った私は足払いでこかし、すぐさま鎌を取り出して彼女を抑えた。
だから言ったでしょ、あの二人に散々鍛えられてきたって。
「次はフィジカルと恋の経験、鍛えておく事ね」
最後は、灰色のレーザースピアがうつ伏せの彼女に降り注ぐと、砂のように消えていった。
それと同時にルイが寄って来た。
「いいタイミングで終わったみたいだな」
「ね、行きましょうか」
ヒナが言ってた事、まさかここで役に立つなんてね。
どんな話でも、聞いておくのは大事ね。
♢
「ねぇユキちゃん、"私が下向いちゃう時はズノウ無効になっちゃうみたい"だから気を付けてね」
「え、そうなの?」
「うん、それ以外は大丈夫っぽいんだけどね~」
「なら、ずっと前を向いてないとね」
「だね~。でもこれってさ、"常に前を向け"っていう良い意味にも感じない?」
「⋯なんか、ヒナらしい言い方。みんなを照らせって事よ、"陽菜"だけに」
「あ、ユキちゃんってそういう事言うんだ」
「⋯バカにしてる?」
「うん、ちょっと」
「ふ~ん⋯いい度胸してるじゃない」
「うわ~! ユキちゃん怒った~! ニイナちゃん助けて~!」
♢
でも、なんだろ。
偽物でも、ヒナに勝ったのがこんなに嬉しく感じる。
"彼を取ったのが私"っていう、勝手な妄想の幸福感に包まれている感じ。
にやにやしていたのか、「なんで嬉しそうなんだよ」と彼に突っ込まれた。
「べ、別に何でもない」と返す。
だって言えるわけないでしょ、こんな気持ち。
その代わり、手を握ってこの気持ちを表した。
ずっと繋いできたんだから、最後もこうしてたい、恋人繋ぎ。
これは勝った私へのご褒美。
「今もすんの!?」
「当たり前でしょ、ずっとするの」
「お、おぉ」
【03:00】、【02:58】、【02:57】と過ぎる中、機内へと辿り着く事ができた。