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第86話 四便

「とうとうアスタか⋯あいつが死ぬなんてありえるのか⋯?」

「⋯一番想像できないわね」


 第四の出発ロビー。

 私が先に入ると、


「きゃぁっ!?」

「⋯なんだ!?」


 こんなのビビるに決まってるでしょ!?

 薄暗いロビーの中心に"巨大な黒能面"が置いてあり、大声を上げてしまった。


「んだこりゃ⋯アスタが付けてるからか?」

「もう⋯こんなの置かないでよ⋯」

「⋯なんかしてくる訳じゃ、なさそうか」


 ぐるっと黒能面の周りを回ってみると、裏側に"白石アスタの死"と赤字で書かれていた。

 こんなとこに書くなんて、まるで"これのせい"って言ってるみたい⋯


 壁には、やっぱり謎の紹介PV。

 だけど、ここではニイナとカイ君までも映っている。


 黒能面の背後に続く通路を歩くと、"霧?"が流れてきた。

 なにこの"青い霧"⋯


「この"青い霧"の中にエスカレーターがあるっぽいな」


 ルイの指差すところ、上の方にエスカレーターの一部が露出していた。

 その他はどうなってるか、全然分からない。


「行くしかねぇよな⋯待ってても時間が来ちまう」

「そうね⋯」


 勇気を出して、"青い霧"の中へと一歩踏み入れる。

 人体への影響は⋯特に無さそう。


 エスカレーターはというと、案外すぐ近くだった。

 足を乗せた瞬間、青く光って動き出し、身体は勝手に上っていく。


 そこからは、いつもの搭乗ロビーへと繋がっていた。

 "ASUTA's LOST GATE"の文字が記されたゲート。


「はい」


 私はそっとルイへ手を差し出した。


「⋯」


 彼は何も言わず、私の左手を取り、しっかりと握る。

 ここまで来たら、最後までしてもらわないとね。

 もしかしたら私、この時間を楽しみに今頑張ってるのかもしれない。


 ここの搭乗橋にも、また"青い霧"が漂っていた。

 でももう、恐れたりなんてしない。

 私たちがみんなを助けなきゃいけないんだから。


「なんか、強くなったな」

「そう?」

「さっきと違う、ずっと前を向いてる」

「慣れたからかもね」


 あなたがいるから⋯なんて言ったらどんな顔するかな。

 それは現実に帰ってからに取っておく。


 機内は変化なく、相変わらず全席スーパーファーストクラス。

 だけど一席、青色の席があった。


「合わせて青にしてみるか」

「いいんじゃない?」


 座ると、アナウンスが流れ始める。


『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"白石アスタ様の死因確認"行き、004便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』


 四便目まで来た。 

 これを見たら、あと一つ。


 そういえば、ニイナとカイ君は出発口が無かった。

 二人は最後まで生き残ったって事?

 考えていると、光に邪魔された。


 ⋯ここ⋯国会議事堂前?

 夜の国会議事堂前で、残ったみんなが何かと争っている。

 ぼやけた視界がはっきりすると、大きな竜が目に入った。


 あれは⋯輝星竜じゃない!?

 ついに、あの巨竜と対峙している。

 経済対策が始まったすぐのあの日、突然メテオを撃ってきたアレだ。


 途中、ニイナを庇ってアスタ君が前に出た。

 異常な数のメテオが空中と地上からも現れ、それらに挟まれてしまった彼は、数秒で燃えカスとなってしまった。

 「アスタぁぁぁぁぁッ!!!」という未来ルイの強烈な叫び声と共に、視界は機内へと戻されていった。


『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯1』


 アスタ君があんな事に⋯

 最後、ニイナ何か言っていたような気がするけど、上手く聞き取れなかった。


「あいつ最後⋯"真犯人は近くにいる"って言ってた」

「え!? 言ってた事分かったの!?」

「口の動きでたぶんな」

「"真犯人が近く"⋯どういう事?」

「さぁ⋯何かに気付いていたのかもな」


 急いで最初の場所へと戻ると、未来ルイの身体がさっきと比にならないほど薄れていた。


「大丈夫!?」

『⋯なんとか。質問は1つしか答えられないかもしれない』

「もう本当に助ける方法は無いの!?」

『⋯一つだけ思い付いた方法がある。俺を殺して、L.S.へと取り込むんだ』

「な⋯なにをいってるの!? そんな事できるわけないじゃない!」

『⋯今すぐってわけじゃない。俺が消えた後の"モンスター化された俺"に対してだ⋯頼む、こいつを使ってくれ』

「⋯え⋯?」


 彼は"白黒のカプセル?"を取り出した。

 中には"七色の液体"が入っている。


『⋯そいつを弱った俺に繋げろ。それでおそらく⋯L.S.内へと吸収できる』

「そんな⋯そんなことなんて⋯」

『⋯それで俺は⋯L.S.内で生きていける』

「あなたは⋯それでいいの⋯?」

『⋯ユキ⋯知ってるだろ? 俺は⋯"イーリス・マザー構想の唯一の成功者"⋯なんだぜ?』

「⋯そうだな。こんな時に俺なら、そう言う」

『⋯だろ? さぁ、聞きたい事を一つ言え』

「ルイ⋯お願い」


 全てを任せる事にした。

 きっとここは、彼が一番分かってる。


「⋯ニイナには何をさせた方がいい?」

『⋯やっぱ俺だな⋯そいつを聞くなんて⋯いいか、ニイナは"近距離で飛んできた物を自分の弓に3倍で反映するズノウ"がある。俺は知らなかったんだ、そんなのがあるのを。まずは、それを真っ先にしろ。それで戦闘はスムーズになっていく』

「⋯行こう、ユキ」


 1階へと走る。

 最後の"私の死の確認"へ。

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