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第85話 三便

 2階へ降りると、雰囲気が全く違った。

 一定間隔で"地面が波打っている?"ようで、私たちの足元だけはなぜか波に飲まれない不思議な場所。


「この流れてくる黒い波なんだろうね」

「身体に影響は無さそうだし、一旦放っとくぞ。ノノの方から行くか」

「うん」

「ノノって⋯俺たちが昔よく遊んでた"あのノノ"だよな?」

「気付いた?」

「大きくなっても、目元に面影を感じるんだよな」


 左端に"ノノの立ち絵"があるから、あの奥ね。

 どの出発ロビーにも、手前に"各々の立ち絵"が浮かんでおり、それを目印に私たちは進んでいる。


 第三の出発ロビー。

 そこでは、流れる波の側面に"三船ノノの死"と赤字で書かれていた。

 黒い波が赤字をより強調させ、壁には相変わらず"謎の紹介PV"が流れている。


「⋯ちょっと変えてきやがったな」

「全部同じではないのね」


 さらに奥へ行くと、螺旋状のエスカレーターが待っていた。

 この上に搭乗ロビーがあるって事?


 エスカレーターに足を乗せた瞬間、エレベーターは黒く光り始め、上へと動き出した。

 着いた先の搭乗ロビーは3階の時と特に変わらず、"NONO's LOST GATE"を見つけた。


「さすがにもういいか⋯手は」


 彼が小さくそう呟き、手を引っ込める。

 もう繋がなくてもいい、それの表れだった。

 だけど、私は無理やり手を取った。


「⋯やだ、これで行こ」

「お、おい」

「この後も同じとは限らないでしょ、ほら」


 今度は私がルイの前を行く。

 芯まで握って、離さないようにして。


 ここの搭乗橋の中にまで、黒い波が蠢いていた。

 まるで私たちを吸い込むかのように。

 ちょっと怖く感じて進む足が止まった時、彼がそっと前に出た。


「大丈夫だ、行こう」

「⋯うん」


 私を連れて歩き始める。

 彼の背中を見ただけで、恐れが飛んでいったのが分かった。

 やっぱり私は⋯彼がいなきゃダメなんだ。


 機内も3階の時と変わりなく、全席がスーパーファーストクラス。

 気分転換にちょっと前の席へ座ろうという彼の提案があり、違う場所へ座ってみた。


「俺たちだって、変えてみた方がいいかもしれないしな」

「ルイのやり方って感じする」

「どんな感想だよ」

「ふふっ」


 アナウンスが流れ始めた。


『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"三船ノノ様の死因確認"行き、003便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』


 また始まる。

 三便目の死因確認が。 

 握った手が強まる。


 光に包まれ、景色が変わると⋯

 これは⋯どこかのタワーの上?


 夜景が見え、東京タワーとスカイツリーがよく見える。

 シンヤ君とヒナ以外のみんながいて、ニイナが真っ先に構えている。

 あれは⋯下川委員長!?


 なんでここに⋯!?

 この世界では、下川委員長がネルトにされてしまったの!?


 突然激しいジェット音と共に、ニイナが金弓から矢を放った。

 すると、四方八方から何倍にもなって返され、ノノの四肢と左胸に何本もの矢が突き刺さった。

 多量の流血をしたままノノは倒れ、動かなくなってしまった。


 あのニイナが驚き、叫んでいる。

 一体何が起こって⋯

 疑問のままに、白い光に包まれていった。


『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯2』


 ニイナの攻撃を返されてノノが⋯

 また戻って彼に聞いた方がよさそう。


「⋯あれって、下川委員長⋯か?」

「うん。絶対にそう」

「どうして敵になってるのかは置いといて、めんどうだな⋯あんなにして返してくるってのは」

「⋯帰って聞こっか」


 リンゴジュースを一杯飲んでから、最初の場所へと戻った。

 さっそく見てきた内容を彼に話す。


「いたのは下川委員長よね? ネルトになってしまったの?」

『⋯あの人を知っているのか?』

「えぇ。新宿警察署の8階で会ったから」

『⋯俺の知ってるユキとは随分違うな。下川委員長を見たのは、ニイナを除いてこの時が初めてだ』

「⋯え?」


 会う順序が違う⋯?

 私は新宿警察署で"既に会ってる"はず。


「⋯あ、そっちの世界では"ルイは1回もいなくなってない"んだものね。私の場合、ルイがいなくなって、アスタ君たちとはぐれて⋯その後に新宿警察署で会うから」

『⋯俺のせいで苦労しただろ⋯本当に悪かった、ユキ⋯今の俺に出来る事を全てするから』


 彼の申し訳なさそうな表情。

 死ぬ思いをして大変だったけど、彼に怒る事なんて出来ない。

 今だって、自身の命を犠牲にしてここまでしてくれている。


『ちなみにだが、あの下川委員長は見た目はそのままだが偽物だ。あれは"東京タイムレスアース"で作られたネルト』

「"東京タイムレスアース"?」

『あのタワーの名前だ。そして、本人は他の場所で生きていた。総理を倒した後、"初めて会った"からな』


 こっちと経緯が違うわ。

 そもそもノノとの再会自体も、"はぐれた3人の捜索"が起点になってるから、そこの出会い方も違うだろうし⋯

 今後はこれも踏まえて、時間軸を整理していった方が良さそう。


「もう1つ聞いていい? ニイナが考え無しに、あんな無鉄砲な行動するとは思えないの。あの子は"A.EL"になってから、さらに状況判断がよくなったと思うから」

『⋯そんなに話してないからな。自分の力を過信したか、動揺したか、それか疲弊した俺たちを思っての事だったか⋯』

「⋯最後に聞かせてくれ、あれはどう対処したんだ?」

『⋯ズノウの〈二蝶万象〉を使った。お前も見た、あの"渋谷世界"だ。この中では、相手のやる事が手に取るように分かり、自身の力も一気に跳ね上がる。さらには、カウンターを全て乱数倍にして返す事ができる』


 それからまた別れ、2階へと降り、アスタ君の出発ロビー前まで来た。

 残り2つね⋯

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