2階へ降りると、雰囲気が全く違った。
一定間隔で"地面が波打っている?"ようで、私たちの足元だけはなぜか波に飲まれない不思議な場所。
「この流れてくる黒い波なんだろうね」
「身体に影響は無さそうだし、一旦放っとくぞ。ノノの方から行くか」
「うん」
「ノノって⋯俺たちが昔よく遊んでた"あのノノ"だよな?」
「気付いた?」
「大きくなっても、目元に面影を感じるんだよな」
左端に"ノノの立ち絵"があるから、あの奥ね。
どの出発ロビーにも、手前に"各々の立ち絵"が浮かんでおり、それを目印に私たちは進んでいる。
第三の出発ロビー。
そこでは、流れる波の側面に"三船ノノの死"と赤字で書かれていた。
黒い波が赤字をより強調させ、壁には相変わらず"謎の紹介PV"が流れている。
「⋯ちょっと変えてきやがったな」
「全部同じではないのね」
さらに奥へ行くと、螺旋状のエスカレーターが待っていた。
この上に搭乗ロビーがあるって事?
エスカレーターに足を乗せた瞬間、エレベーターは黒く光り始め、上へと動き出した。
着いた先の搭乗ロビーは3階の時と特に変わらず、"NONO's LOST GATE"を見つけた。
「さすがにもういいか⋯手は」
彼が小さくそう呟き、手を引っ込める。
もう繋がなくてもいい、それの表れだった。
だけど、私は無理やり手を取った。
「⋯やだ、これで行こ」
「お、おい」
「この後も同じとは限らないでしょ、ほら」
今度は私がルイの前を行く。
芯まで握って、離さないようにして。
ここの搭乗橋の中にまで、黒い波が蠢いていた。
まるで私たちを吸い込むかのように。
ちょっと怖く感じて進む足が止まった時、彼がそっと前に出た。
「大丈夫だ、行こう」
「⋯うん」
私を連れて歩き始める。
彼の背中を見ただけで、恐れが飛んでいったのが分かった。
やっぱり私は⋯彼がいなきゃダメなんだ。
機内も3階の時と変わりなく、全席がスーパーファーストクラス。
気分転換にちょっと前の席へ座ろうという彼の提案があり、違う場所へ座ってみた。
「俺たちだって、変えてみた方がいいかもしれないしな」
「ルイのやり方って感じする」
「どんな感想だよ」
「ふふっ」
アナウンスが流れ始めた。
『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"三船ノノ様の死因確認"行き、003便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』
また始まる。
三便目の死因確認が。
握った手が強まる。
光に包まれ、景色が変わると⋯
これは⋯どこかのタワーの上?
夜景が見え、東京タワーとスカイツリーがよく見える。
シンヤ君とヒナ以外のみんながいて、ニイナが真っ先に構えている。
あれは⋯下川委員長!?
なんでここに⋯!?
この世界では、下川委員長がネルトにされてしまったの!?
突然激しいジェット音と共に、ニイナが金弓から矢を放った。
すると、四方八方から何倍にもなって返され、ノノの四肢と左胸に何本もの矢が突き刺さった。
多量の流血をしたままノノは倒れ、動かなくなってしまった。
あのニイナが驚き、叫んでいる。
一体何が起こって⋯
疑問のままに、白い光に包まれていった。
『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯2』
ニイナの攻撃を返されてノノが⋯
また戻って彼に聞いた方がよさそう。
「⋯あれって、下川委員長⋯か?」
「うん。絶対にそう」
「どうして敵になってるのかは置いといて、めんどうだな⋯あんなにして返してくるってのは」
「⋯帰って聞こっか」
リンゴジュースを一杯飲んでから、最初の場所へと戻った。
さっそく見てきた内容を彼に話す。
「いたのは下川委員長よね? ネルトになってしまったの?」
『⋯あの人を知っているのか?』
「えぇ。新宿警察署の8階で会ったから」
『⋯俺の知ってるユキとは随分違うな。下川委員長を見たのは、ニイナを除いてこの時が初めてだ』
「⋯え?」
会う順序が違う⋯?
私は新宿警察署で"既に会ってる"はず。
「⋯あ、そっちの世界では"ルイは1回もいなくなってない"んだものね。私の場合、ルイがいなくなって、アスタ君たちとはぐれて⋯その後に新宿警察署で会うから」
『⋯俺のせいで苦労しただろ⋯本当に悪かった、ユキ⋯今の俺に出来る事を全てするから』
彼の申し訳なさそうな表情。
死ぬ思いをして大変だったけど、彼に怒る事なんて出来ない。
今だって、自身の命を犠牲にしてここまでしてくれている。
『ちなみにだが、あの下川委員長は見た目はそのままだが偽物だ。あれは"東京タイムレスアース"で作られたネルト』
「"東京タイムレスアース"?」
『あのタワーの名前だ。そして、本人は他の場所で生きていた。総理を倒した後、"初めて会った"からな』
こっちと経緯が違うわ。
そもそもノノとの再会自体も、"はぐれた3人の捜索"が起点になってるから、そこの出会い方も違うだろうし⋯
今後はこれも踏まえて、時間軸を整理していった方が良さそう。
「もう1つ聞いていい? ニイナが考え無しに、あんな無鉄砲な行動するとは思えないの。あの子は"A.EL"になってから、さらに状況判断がよくなったと思うから」
『⋯そんなに話してないからな。自分の力を過信したか、動揺したか、それか疲弊した俺たちを思っての事だったか⋯』
「⋯最後に聞かせてくれ、あれはどう対処したんだ?」
『⋯ズノウの〈二蝶万象〉を使った。お前も見た、あの"渋谷世界"だ。この中では、相手のやる事が手に取るように分かり、自身の力も一気に跳ね上がる。さらには、カウンターを全て乱数倍にして返す事ができる』
それからまた別れ、2階へと降り、アスタ君の出発ロビー前まで来た。
残り2つね⋯