第二の出発ロビーに入ると、上にホログラムサイネージで"町田ヒナの死"と書かれていた。
壁にはヒナを紹介するPV、シンヤ君のロビーと全く同じ状況になっていた。
「全部こんな感じなのか⋯?」
「2つこうだと⋯後もそうかもね」
「最後にユキのを見る事になると思うけど、こんな風に出てくるって訳か」
「⋯それ言われると、見たくなくなってきた」
「どうしたんだよ、急に」
「なんか⋯恥ずかしい」
「俺だけで行ってこようか?」
「⋯やだ、一緒に行く」
「なんだそりゃ」
「だって離れたら⋯また会えなくなりそう」
「⋯それ言われちまったらなぁ」
話ながら歩いていると、今度はエスカレーターを下って行く形になっていた。
結構長いエスカレーターの先、搭乗ロビーへと出ると、"HINA's LOST GATE"を発見した。
さっきと同様、機内に繋がっていると思われる。
「ユキ」
不意に呼ばれたと思ったら、伸ばされた右手。
また手を繋いでいこうの合図。
もちろんすぐに手を取る。
「昔とは違ってさ、積極的になったねぇ」
「い、今だけな!」
「いいこといいこと、そうやってどんどん何でもして。私はルイがしてくれる事なら全部嬉しいから」
「お、おぉ。じゃ、行くからな」
「うん」
できれば、ずっとこうしてたい。
何も気にする事なく、ずっとこうして。
ルイもそう思ってくれてたら、嬉しいな。
今度の搭乗橋はねじったような形状をしていた。
まるで飲み込まれていくような、実際の羽田空港にもこんなのがあるんだろうか。
正直ちょっと怖いかも。
次はどんなのを見せられるんだろう。
ヒナが死ぬなんてのも、あまり想像が付かない。
だって彼女には〈天魔神の超重力〉や〈天魔神の超反撃〉といった、特別な常時付与型のズノウがある。
スキルでいうバフに当たるもの。
私たち第三者にまでも付与できて、その適応時間はヒナが起きてる限りほぼ無限に続いてくれる。
紀野大臣の時くらいまではまだ完全に扱えなかったみたいだけど、今では精度も上がって凄い助かってる。
ルイが一人で倒してしまった、あのボスクラスの力。
それがAnother ELECTIONNERとして心強い味方になるなんて、あれが無ければ銃に撃たれたり、奇襲に対応できなかったり、危ない場面は多かったように思う。
攻撃時の火力も相当高いし、バランス型のヒナに合ってる。
そのヒナが死ぬなんて、どんな事があったんだろう?
考えていると、いつの間にか機内へと入っていた。
「ここも同じか」
「だね。そこに入ろっか」
スーパーファーストクラスにこんな何回も座るなんて、今後もうなさそう。
ルイが一緒に乗ってくれたら、何回でも乗るけど。
「なぁ⋯落ち着いたらリアルでも乗ってみようぜ、このスーパーファーストクラスとやらに」
「⋯連れてってくれるってこと?」
「そ、そうそう。金こんなにあっても使わねぇし」
「⋯うん、100回は乗ろ。全部奢りね?」
「はぁ!? そんなに!?」
『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"町田ヒナ様の死因確認"行き、002便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』
いいタイミングでアナウンスが始まり、少し笑ってしまった。
何とも言えない顔をする彼が可愛い。
あ~ぁ、ほんとに旅するだけだったらいいのに⋯
飛行機は動き、離陸し始めた。
また視界が白い光に包まれていく。
「また後でな、絶対離すなよ」
「⋯うん」
⋯ここは?
これどこ?
やっぱりシンヤ君はおらず、それ以外のルイ、ヒナ、ノノ、私、アスタ君、ニイナ、カイ君がいる。
それらの目線の先にいる⋯あれは何?
"黄色い液体と紫の液体?"を全身に漂わせた⋯祈祷師?
数分の戦闘の末、私がトドメを刺した瞬間、それは起こった。
ヒナがあの2種類の液体に飲み込まれ、身体が蝕まれていった。
あいつを倒したはずなのに、それさえも想定されていた⋯?
数秒で骨と化してしまった彼女を前に全員が唖然とし、視界はまた遮られた。
『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯3』
今のでヒナは死んだの⋯?
一瞬すぎて何が何やらピンとこない。
ルイも私と同じような顔をしてる。
「⋯あれ⋯なんだったんだ?」
「さぁ⋯」
「⋯また聞くしかないな」
「場所は分かった?」
「いや⋯分からなかった」
「私も⋯」
赤いガラスだけが張られた部屋。
一体どこだったんだろう⋯
「ほら、ちょっと飲もうぜ。なんか落ち着かねぇし」
設置されているAIジュースサーバーからリンゴジュースが紙コップに注がれ、それを渡された。
「あ、ありがと」
「⋯ふぃ。んじゃ、行くか」
「うん」
また最初の場所へ戻って来た。
"未来ルイ"も私たちと同じジュースを飲んでいた。
「分かってるじゃねぇか、それを飲むなんて」
『まぁ、俺はお前だからな』
「それで、あれはどこだったんだ?」
『⋯赤朱紅(せきしゅこう)の大仏ビル。池袋駅前に突然できた赤い大仏の建物。あの中には赤いネルトが大量にいて、人間化したヤツも多くいる。その最終階の5階にいたのがアイツ、"財務大臣の竹見黄紫(たけみおうし)"。アイツの纏う2種類の胃酸は、瞬時に人間を溶かす。もう分かると思うが、お前はその効果を受けない⋯が、他は違った。上下左右どこからでもあれを吹き出し、ヒナのバフさえもすり抜ける。気を付けてやったつもりだったが⋯死んだ後にもアイツは使ってきた。絶対に外に出るまでは油断するな』
「⋯肝に銘じとく。あの場所に行った目的は、"未来を選び取る欠片2つ目"だな?」
『分かってるなら2階へ行け。次の目的も分かるだろ』
⋯"未来を選び取る欠片3つ目"かな
これが何の意味があるのか、さっきまで知らなかった。
帰ってくる途中でルイに聞いて、輝星竜を消すのに必要だって事が今は分かってる。
彼が死ぬ直前、私に"飯塚さんの遺言データ"を送ったそうだけど、私には届いてなかった。
⋯これを私は"誰かに邪魔された"と仮定してる