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第84話 二便

 第二の出発ロビーに入ると、上にホログラムサイネージで"町田ヒナの死"と書かれていた。

 壁にはヒナを紹介するPV、シンヤ君のロビーと全く同じ状況になっていた。


「全部こんな感じなのか⋯?」

「2つこうだと⋯後もそうかもね」

「最後にユキのを見る事になると思うけど、こんな風に出てくるって訳か」

「⋯それ言われると、見たくなくなってきた」

「どうしたんだよ、急に」

「なんか⋯恥ずかしい」

「俺だけで行ってこようか?」

「⋯やだ、一緒に行く」

「なんだそりゃ」

「だって離れたら⋯また会えなくなりそう」

「⋯それ言われちまったらなぁ」


 話ながら歩いていると、今度はエスカレーターを下って行く形になっていた。

 結構長いエスカレーターの先、搭乗ロビーへと出ると、"HINA's LOST GATE"を発見した。

 さっきと同様、機内に繋がっていると思われる。


「ユキ」


 不意に呼ばれたと思ったら、伸ばされた右手。

 また手を繋いでいこうの合図。

 もちろんすぐに手を取る。


「昔とは違ってさ、積極的になったねぇ」

「い、今だけな!」

「いいこといいこと、そうやってどんどん何でもして。私はルイがしてくれる事なら全部嬉しいから」

「お、おぉ。じゃ、行くからな」

「うん」


 できれば、ずっとこうしてたい。

 何も気にする事なく、ずっとこうして。

 ルイもそう思ってくれてたら、嬉しいな。


 今度の搭乗橋はねじったような形状をしていた。

 まるで飲み込まれていくような、実際の羽田空港にもこんなのがあるんだろうか。

 正直ちょっと怖いかも。


 次はどんなのを見せられるんだろう。

 ヒナが死ぬなんてのも、あまり想像が付かない。

 だって彼女には〈天魔神の超重力〉や〈天魔神の超反撃〉といった、特別な常時付与型のズノウがある。


 スキルでいうバフに当たるもの。

 私たち第三者にまでも付与できて、その適応時間はヒナが起きてる限りほぼ無限に続いてくれる。

 紀野大臣の時くらいまではまだ完全に扱えなかったみたいだけど、今では精度も上がって凄い助かってる。


 ルイが一人で倒してしまった、あのボスクラスの力。

 それがAnother ELECTIONNERとして心強い味方になるなんて、あれが無ければ銃に撃たれたり、奇襲に対応できなかったり、危ない場面は多かったように思う。

 攻撃時の火力も相当高いし、バランス型のヒナに合ってる。


 そのヒナが死ぬなんて、どんな事があったんだろう?

 考えていると、いつの間にか機内へと入っていた。


「ここも同じか」

「だね。そこに入ろっか」


 スーパーファーストクラスにこんな何回も座るなんて、今後もうなさそう。

 ルイが一緒に乗ってくれたら、何回でも乗るけど。


「なぁ⋯落ち着いたらリアルでも乗ってみようぜ、このスーパーファーストクラスとやらに」

「⋯連れてってくれるってこと?」

「そ、そうそう。金こんなにあっても使わねぇし」

「⋯うん、100回は乗ろ。全部奢りね?」

「はぁ!? そんなに!?」


『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"町田ヒナ様の死因確認"行き、002便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』


 いいタイミングでアナウンスが始まり、少し笑ってしまった。

 何とも言えない顔をする彼が可愛い。

 あ~ぁ、ほんとに旅するだけだったらいいのに⋯


 飛行機は動き、離陸し始めた。

 また視界が白い光に包まれていく。


「また後でな、絶対離すなよ」

「⋯うん」


 ⋯ここは?

 これどこ?

 やっぱりシンヤ君はおらず、それ以外のルイ、ヒナ、ノノ、私、アスタ君、ニイナ、カイ君がいる。


 それらの目線の先にいる⋯あれは何?

 "黄色い液体と紫の液体?"を全身に漂わせた⋯祈祷師?

 数分の戦闘の末、私がトドメを刺した瞬間、それは起こった。


 ヒナがあの2種類の液体に飲み込まれ、身体が蝕まれていった。

 あいつを倒したはずなのに、それさえも想定されていた⋯?

 数秒で骨と化してしまった彼女を前に全員が唖然とし、視界はまた遮られた。


『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯3』


 今のでヒナは死んだの⋯?

 一瞬すぎて何が何やらピンとこない。

 ルイも私と同じような顔をしてる。


「⋯あれ⋯なんだったんだ?」

「さぁ⋯」

「⋯また聞くしかないな」

「場所は分かった?」

「いや⋯分からなかった」

「私も⋯」


 赤いガラスだけが張られた部屋。

 一体どこだったんだろう⋯


「ほら、ちょっと飲もうぜ。なんか落ち着かねぇし」


 設置されているAIジュースサーバーからリンゴジュースが紙コップに注がれ、それを渡された。


「あ、ありがと」

「⋯ふぃ。んじゃ、行くか」

「うん」


 また最初の場所へ戻って来た。

 "未来ルイ"も私たちと同じジュースを飲んでいた。


「分かってるじゃねぇか、それを飲むなんて」

『まぁ、俺はお前だからな』

「それで、あれはどこだったんだ?」

『⋯赤朱紅(せきしゅこう)の大仏ビル。池袋駅前に突然できた赤い大仏の建物。あの中には赤いネルトが大量にいて、人間化したヤツも多くいる。その最終階の5階にいたのがアイツ、"財務大臣の竹見黄紫(たけみおうし)"。アイツの纏う2種類の胃酸は、瞬時に人間を溶かす。もう分かると思うが、お前はその効果を受けない⋯が、他は違った。上下左右どこからでもあれを吹き出し、ヒナのバフさえもすり抜ける。気を付けてやったつもりだったが⋯死んだ後にもアイツは使ってきた。絶対に外に出るまでは油断するな』

「⋯肝に銘じとく。あの場所に行った目的は、"未来を選び取る欠片2つ目"だな?」

『分かってるなら2階へ行け。次の目的も分かるだろ』


 ⋯"未来を選び取る欠片3つ目"かな

 これが何の意味があるのか、さっきまで知らなかった。

 帰ってくる途中でルイに聞いて、輝星竜を消すのに必要だって事が今は分かってる。


 彼が死ぬ直前、私に"飯塚さんの遺言データ"を送ったそうだけど、私には届いてなかった。

 ⋯これを私は"誰かに邪魔された"と仮定してる

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