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第83話 一便

「まずは"シンヤ君の死"から見に行かない? ここから一番近いみたいだし」

「そうだな、行こう」

「なんか複雑な気分ね⋯友人の死を見なきゃいけないなんて」

「特にシンヤの死なんて、想像できないな」


 第一の出発ロビーの中が見えてきた。

 上に巨大なホログラムサイネージが浮かんでおり、そこに"有川シンヤの死"と真っ赤な字で書かれている。

 横の壁には、"有川シンヤの紹介"といった謎のPVがずっと流れている。


「⋯不思議な場所ね」

「これが後4つもあるのかよ」


 奥に進み、エスカレーターを上って行くと、搭乗ロビーへと出た。

 そこには、"SHINYA's LOST GATE"と表記されている特殊な搭乗口があった。

 どうやら、ここから機内に行くらしい。


「まさかこんな目的で飛行機に乗らないといけない日が来るなんてな」

「どこに飛ぶんだろうね」

「何かあるといけないし、手を繋いどかないか?」


 ルイがそっと手を伸ばした。


「あ、うん。珍しいね、ルイがそんな事言うなんて」

「⋯変なとこに飛ばされたりしたら大変だろ! ⋯ほら!」


 手を握ると、あの温もりをまた感じる事ができた。

 彼はちゃんとここにいる、それを実感して安堵する。

 恋人繋ぎまでするなんて、知らないうちに凄い積極的になってるし。


「それじゃ、行くぞ」

「うん」


 特殊な搭乗口を潜り、搭乗橋を渡って行く。

 この先、何が待ってるんだろう。

 不安と使命感と、いろんな気持ちに駆られる。


 でも、隣にルイがいる。

 それだけですぐ、安心へと変えてくれる。

 やっぱり私はこの人が好き、会った時からずっと。


 長い搭乗橋の先、機内へと辿り着いた。

 なんと、全席がスーパーファーストクラス仕様へとなっていた。

 どこでも自由に座っていいみたい。


 まぁでも、旅をする訳じゃないだろうから、どこへ座っても結局は同じ。

 すぐ近くの席にルイと座ると、アナウンスが流れ始めた。


『本日は白空羽田空港(しろぞらはねだくうこう)のNJA(ネオジャパンエアーラインズ)をご利用頂き、誠にありがとうございます。この飛行機はNJA航空、"有川シンヤ様の死因確認"行き、001便でございます。当機はまもなく離陸致しますので、シートベルトの方を、よろしくお願い致します』


 ルイの手を強く握った。

 彼も握り返す。

 それと同時に飛行機は動き始めた、"シンヤ君の死"を見に。


「離さないから、何があっても」

「うん、ずっと一緒に」


 目の前が白い光に包まれた。

 その光が収縮する時、辺りが一変していた。


 ここ⋯夜の東京タワー?

 そこでシンヤ君が"銀色の人間?"のような何かと戦っている。

 他に誰もおらず、1対1の状況。


 すると、シンヤ君を囲むようにして"高速プロペラ"が数個現れた。

 逃げ道が無く、そのプロペラたちに一瞬にして挟まれたシンヤ君は、大量の血を散らした。


 見たくないはずなのに、なぜか目が離せない。

 隣のルイも同じようで、目を見開いて見ている。


 だけど、口を開く事ができない。

 まるで意識だけがあるような、そんな状態。

 その喋れないままに、また白い光に包まれていった。


『皆様、ただいま白空羽田空港に着陸致しました。今日もNJA航空をご利用頂きまして、ありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております。残り⋯4』


 視界が広がると、さっきまでいた"スーパーファーストクラスの席"にしっかり座ったままだった。

 ルイと繋がった手も離れてない。

 どうなっていたんだろう、少しの間、眠っていた?


「もう⋯終わったんだよな?」

「⋯みたいね。次に行きながら話さない?」

「あぁ」


 一旦手が離れる。

 惜しい気持ちと、さっき見たのを話したい気持ちと、色々交錯してしまう。


「なんか喋れなかったな、あの状態だと」

「ね、動けないし喋れないみたいね、ただ見てる状態だった」

「あれがシンヤが殺され方か⋯銀の変なヤツと複数のプロペラ⋯最後は血が噴き出て、挟まれた中が見れないように外側に壁があったな」

「あったね。本当に死んでるかは定かではないけど、あの後でシンヤ君はいなくなったって事よね」

「だろうけど⋯あんなに何も出来ずにシンヤが死ぬなんて、本当に想像できないな⋯」

「考えてもキリ無い感じするわね⋯」


 一旦、最初の場所へと戻って来た。

 見た内容を"未来ルイ"に話してみた。


『あれからシンヤとは会えてない。あの場所でシンヤが殺されたのは間違いない』

「あのプロペラ内はちゃんと見たのか?」

『⋯見た。ぐしゃぐしゃにされていて、原型が無かった』

「⋯惨いわね」

『ちなみに、東京タワーにいたアイツは"外務大臣の佐島栄輝(さじまえいき)"。全身を銀の硫酸とオリハルコンで分けて使ってくる、厄介な野郎だ。だが、お前の銃剣ならその効果を受けずに戦える。倒せば、"未来を選び取る欠片"の1つ目を入手できるはずだ』

「その"未来を選び取る欠片"を取りに、あの場所へ行ったのか?」

『そういう事だ。シンヤが先に様子見に行ってくるって言って、先に上ったアイツはあのようにされていた。だから、絶対先に行かせるな』

「⋯分かった」

『さぁ、次の出発口へ行け。お前らの時間は無限でも、俺は有限だからな』


 "未来ルイ"の身体が、最初より"少し薄くなっている"ように見える。

 ⋯聞く内容も選ばないといけない


「ルイ、次はヒナに行きましょ」

「ヒナか⋯」


 シンヤ君とは反対側にある"ヒナの死への出発口"。

 次は何を見せられるんだろう。

 複雑な思いのまま、新たなロビーへと向かった。

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