「さぁ、これでいけそう?」
『⋯たぶんな⋯ここに頼む』
伸ばされたルイの左腕にL.S.を付ける。
その瞬間、辺りが強烈に光り、その大きな光に包まれた。
「⋯ユキ⋯!」
眼を開けると、ルイが私の肩を掴んで必死な表情だった。
起き上がり、よく見ると、彼の身体は元に戻っている。
「⋯ん⋯身体、元に戻ったのね」
「あぁ、それはいいんだが⋯」
その代わりに⋯
私たち二人以外、誰もいなくなっていた。
そもそも、"さっきまでいた羽田空港"と全く違う。
上下左右のどこまでもが真っ白。
こんな場所、いたはずが無い。
「なんなの⋯ここ⋯」
「⋯分かんねぇ」
二人して少し歩くと、白い霧の中から"白いフードを被った人?"が現れ、こっちへと近付いてきた。
その人物の顔は、"ルイと瓜二つの顔"をしていた。
「⋯お前ッ!」
突然ルイが叫び、銃剣を構える。
その銃剣は、前に見た物とは"全くの別物"になっていた。
『⋯俺はお前に"L.S.を取り戻せば、実体化してまだ戦える"と伝えた方だ、安心しろ。お前がL.S.を取り戻した瞬間、"UnRuleに存在しない歪み"が起きたようだ』
「⋯"UnRuleに存在しない歪み"⋯?」
『こんな事、どんな時も起こる事は無かった。俺が生きてきた"2035年までの世界"でもな。それほど今のお前は大きく違う。その右腕にあるL.S.も、左腕のL.S.と合わせ、UnRuleが続く限りは"本物"と同等の使い方が出来るだろう』
「⋯なんでそこまで分かる?」
『一応、研究室の所長だからな。これまでの経験と知識で何となく分かる。そいつらを駆使すれば、あの"操られた俺"を倒す事ができると信じてる。もう今の俺は、それを祈る事しかできないからな』
「⋯本当に⋯"未来のルイ"なの⋯?」
『⋯久しぶりだな、ユキ。5年間一人で頑張ったんだぜ、俺。こっちだと、お前も誰も助けられなくて⋯俺さ、できる事全部やったはずなんだけどな⋯悔しくて情けなくて自殺したくて⋯でも、そんな俺でも、やれる事が一つある事に気付いた。過去の死ぬ直前のみんなを助ける事。だけど、それさえも上手くいかなかった。この時間軸に着いた瞬間⋯何かに操られて⋯過去の俺を殺してしまって⋯』
「もういい⋯もう言わなくていいから」
崩れ落ちる"未来ルイ"を、私はいつの間にか抱き寄せていた。
あんなに辛そうな顔、もう見ていられなかった。
どれだけ苦労してきたのか、その仕草だけでもよく分かる。
『⋯やめろ⋯俺なんか⋯』
「いいの、今は。"こっちのルイ"だって、分かってくれるから」
『⋯』
彼に抱き締められた。
その眼には小さな涙が見えた。
ルイの泣いてる顔なんて初めて見た。
『もう大丈夫だ⋯あっちへ』
「いいの?」
『もうすぐ俺は"操られた身体"に戻される、さぁ早く』
「⋯そんな、どうにもできないの?」
『変わらないな、お前は⋯過去の俺を殺したっていうのに』
「それをやったのはあなたではないでしょ? それに、ルイは帰って来たんだから」
『帰って来た⋯そうだな、死んだら⋯こうする事も⋯できないしな』
「⋯!」
ゆっくりと手を握られた。
その後すぐに彼は背を向け、離れてしまった。
『ここでは、俺の見てきた"死の分岐点"を見せる事が出来るらしい。参考にして、"今後起こりうる死"を回避してくれ。タイムリミットは、俺が戻されるまでだ』
「お前が戻ったら、俺たちは現実に戻るのか?」
『あぁ。ここにいる間は現実時間は動かないらしいが、俺の時間は動き続ける。3階にはシンヤの死、ヒナの死、2階にはアスタの死、ノノの死、1階にはユキの死、それぞれ出発口が用意されている。二人は"総理の裏に黒幕"がいるのは気付いているんだろ? "イーリス・マザー構想の失敗作"。俺は結局見つける事が出来なかった⋯もしかしたら参考になる情報も、この中にあるかもしれない。聞きたい事があったらここに来てくれ、俺はここで待ってる』
「⋯すぐ戻ってくるから。行こ、ルイ」
去り際、ほんの少し嬉しそうな顔をする彼が見えた。
どこか少し報われたような、そんな表情。
あなたも助けるから、絶対に。