「おい、どこへ行こうとしてる!」
私たちが3階へのエスカレーターへと手をかけた瞬間、後ろから声を掛けられた。
それは私が話しかけた"あの男の人"だった。
「もう言った事、忘れたのか?」
「いえ、どうしても行かなければいけない用があるんです」
「はぁ? ⋯まさか、探してるL.S.の事か」
「⋯そうです」
「あんたがいくらELだろうが、本当に殺されるぞッ! 死んだ連中の中には、ELも数人いたって聞いてるッ!」
⋯前までだったら、ここで踏み止まったのかな
でも、前の私とは違う。
大事な人を、私は取り戻す。
「⋯すみません、急がないと、取り返しがつかなくなるので」
振り返る事無く、私たちは3階へと上り始めた。
足音からして、何人も集まって来たのだろう。
きっと、余計な事をする邪魔者とでも思われてる。
3階に着くと、壁全体が"砂嵐状?"になっていた。
テレビの砂嵐のようで、目がチカチカする。
「⋯なんなのこれ、目がおかしくなりそう」
ノノが不機嫌な顔しながら歩く。
たぶん私も同じ顔してる。
3階から下は見渡す事は出来ないようで、おそらく2階からも3階の様子は見れないようになってると思う。
通りで、ここが何も分からないようになってる訳ね。
私たちが上って来たのが"北のエスカレーター"のため、南へ向けて進んでいる。
右には所々で飲食店があり、うどん、寿司、焼肉、ハンバーガー等、普段ならどれだけ楽しめたのだろう。
それを抜けると、"羽田ビジョンマーケットプレイス"と呼ばれる広い商業施設へと出た。
⋯こんなところあったっけ?
「⋯ここ知ってる?」
「⋯いえ、知りませんね」
「私も知らない~」
「⋯分かんない」
3人共知らなかった。
つまり、最近作られたという他無い。
「気にせず、国際線出発ロビーの方へ行きましょう」
こういう時、ニイナの冷静な判断はありがたい。
おかげでこっちも冷静でいられる。
位置的には、ここが第2ターミナルの中央のはず。
もう少し歩くと、オートウォークが始まり、一気に国際線ロビーへと繋がるはず。
「今はルイさんいないの?」
「⋯いないわね」
「そっかぁ」
「またすぐ会えるわ」
「うん!」
"羽田ビジョンマーケットプレイス"を抜けようとした時、ある異変が起きた。
なんと、"黒い雪?"が目先で降り始めた。
ここは室内なのに、明らかにおかしい。
「⋯止まってください。これが身体にどんな影響があるか分かりません」
『どんな影響があるだろうな』
「⋯? ⋯今の声⋯誰!?」
叫ぶニイナの横から"その人物"は現れた。
『3階に来ると死ぬ、そのようにわざわざ噂を流すようにしてあげているのに』
眼鏡を掛けた青い服装の男性。
40代ぐらい?
⋯待って
この人どこかで見た事ある。
『動物の奇行動画を見た事はあるだろう? 害にならない限り、あれらを見て可愛い可愛いと愛でるのが大半だ。それを私はしている、人間に対して。その優しさに気付いていないのか』
「⋯何を言ってるの?」
『別に理解しなくていい。ただ、"害にならない限り"の範疇は理解した方がいい。"お前たちのこの場所への踏み入り"はその範疇に入る』
彼の背後から"ガラスの割れるような音?"がしたと思うと、"体中サファイアだらけの騎士"が歩いてきた。
青い宝石眼が鋭く光り、まるでこの鎌と共鳴しているようだった。
『お前らには2つの選択肢が残っている。この"レアサファイア・リードマスター"で死ぬか、あの"黒雪の最上鬼(スノーブラック・ハイデビル)"で死ぬか、今までの人間はここに来るまでに死んだが、お前らには特別に"ここで死ねる権利"をやろう』
"黒い雪?"が振る方から、今度は"凶悪な悪魔"が歩いてきた。
それらは、それぞれ剣と鎌を持ち始めた。
「⋯思い出した。あなたは防衛大臣の⋯! なんでこんなところに⋯!?」
『そんな事を知ってどうする。お前らなどでは、総理から特別に与えられた"これら"に勝つのは100%不可能。さぁ、早く選んで失せろ』
すると、私の横で激しい光が具現化した。
『⋯誰ニ失セロト言ッタ、失セルノハ、オ前ダロウガァァァァァ⋯!!!』
突然、"蝶竜?"が私たちの前に立ち、ヤツらに強烈な咆哮をあびせた。
「⋯これ⋯ルイさん⋯? 薄っすら見えるけど、ほんとにルイさん⋯?」
「ルイ兄、別人じゃん⋯」
『なぜ、人間が虚無限蝶竜(ゼロインフィニット・イーリス・ドラゴン)を扱える!? これは総理が使役していたはずだが⋯いや、こいつは違う⋯私の把握している姿とは違う⋯!?』
全員に薄っすらルイが見えているようだった。
もしかして、ルイのL.S.が近かったりとか⋯?
彼が大型2体を相手にすると、隙間から大臣がこっちへと向かってきた。
先程とは全く違う格好をしており、右手にレアサファイアの剣、左手に黒い鬼鎌を持っていた。
『⋯オ前ラヲ殺セバアレガ⋯! アノモンスターモ、今日カラ私ノ物ダァァァァァァァ!!!!』
なんでこいつも紀野大臣と同じ力を持ってるの⋯!?
あのやり方がAIに学習されて、使われている⋯?
モンスターを出したまま、あんな事ができるなんて⋯
そんな事は後、今はコイツをどうにかしないと!
「⋯来るわッ! ヒナ! ニイナ! ノノ! ⋯やるわよッ!」