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第80話 防衛

「おい、どこへ行こうとしてる!」


 私たちが3階へのエスカレーターへと手をかけた瞬間、後ろから声を掛けられた。

 それは私が話しかけた"あの男の人"だった。


「もう言った事、忘れたのか?」

「いえ、どうしても行かなければいけない用があるんです」

「はぁ? ⋯まさか、探してるL.S.の事か」

「⋯そうです」

「あんたがいくらELだろうが、本当に殺されるぞッ! 死んだ連中の中には、ELも数人いたって聞いてるッ!」


 ⋯前までだったら、ここで踏み止まったのかな

 でも、前の私とは違う。

 大事な人を、私は取り戻す。


「⋯すみません、急がないと、取り返しがつかなくなるので」


 振り返る事無く、私たちは3階へと上り始めた。

 足音からして、何人も集まって来たのだろう。

 きっと、余計な事をする邪魔者とでも思われてる。


 3階に着くと、壁全体が"砂嵐状?"になっていた。

 テレビの砂嵐のようで、目がチカチカする。


「⋯なんなのこれ、目がおかしくなりそう」


 ノノが不機嫌な顔しながら歩く。

 たぶん私も同じ顔してる。


 3階から下は見渡す事は出来ないようで、おそらく2階からも3階の様子は見れないようになってると思う。

 通りで、ここが何も分からないようになってる訳ね。


 私たちが上って来たのが"北のエスカレーター"のため、南へ向けて進んでいる。

 右には所々で飲食店があり、うどん、寿司、焼肉、ハンバーガー等、普段ならどれだけ楽しめたのだろう。


 それを抜けると、"羽田ビジョンマーケットプレイス"と呼ばれる広い商業施設へと出た。

 ⋯こんなところあったっけ?


「⋯ここ知ってる?」

「⋯いえ、知りませんね」

「私も知らない~」

「⋯分かんない」


 3人共知らなかった。

 つまり、最近作られたという他無い。


「気にせず、国際線出発ロビーの方へ行きましょう」


 こういう時、ニイナの冷静な判断はありがたい。

 おかげでこっちも冷静でいられる。


 位置的には、ここが第2ターミナルの中央のはず。

 もう少し歩くと、オートウォークが始まり、一気に国際線ロビーへと繋がるはず。


「今はルイさんいないの?」

「⋯いないわね」

「そっかぁ」

「またすぐ会えるわ」

「うん!」


 "羽田ビジョンマーケットプレイス"を抜けようとした時、ある異変が起きた。

 なんと、"黒い雪?"が目先で降り始めた。

 ここは室内なのに、明らかにおかしい。


「⋯止まってください。これが身体にどんな影響があるか分かりません」

『どんな影響があるだろうな』

「⋯? ⋯今の声⋯誰!?」


 叫ぶニイナの横から"その人物"は現れた。


『3階に来ると死ぬ、そのようにわざわざ噂を流すようにしてあげているのに』


 眼鏡を掛けた青い服装の男性。

 40代ぐらい?


 ⋯待って

 この人どこかで見た事ある。


『動物の奇行動画を見た事はあるだろう? 害にならない限り、あれらを見て可愛い可愛いと愛でるのが大半だ。それを私はしている、人間に対して。その優しさに気付いていないのか』

「⋯何を言ってるの?」

『別に理解しなくていい。ただ、"害にならない限り"の範疇は理解した方がいい。"お前たちのこの場所への踏み入り"はその範疇に入る』


 彼の背後から"ガラスの割れるような音?"がしたと思うと、"体中サファイアだらけの騎士"が歩いてきた。

 青い宝石眼が鋭く光り、まるでこの鎌と共鳴しているようだった。


『お前らには2つの選択肢が残っている。この"レアサファイア・リードマスター"で死ぬか、あの"黒雪の最上鬼(スノーブラック・ハイデビル)"で死ぬか、今までの人間はここに来るまでに死んだが、お前らには特別に"ここで死ねる権利"をやろう』


 "黒い雪?"が振る方から、今度は"凶悪な悪魔"が歩いてきた。

 それらは、それぞれ剣と鎌を持ち始めた。


「⋯思い出した。あなたは防衛大臣の⋯! なんでこんなところに⋯!?」

『そんな事を知ってどうする。お前らなどでは、総理から特別に与えられた"これら"に勝つのは100%不可能。さぁ、早く選んで失せろ』


 すると、私の横で激しい光が具現化した。


『⋯誰ニ失セロト言ッタ、失セルノハ、オ前ダロウガァァァァァ⋯!!!』


 突然、"蝶竜?"が私たちの前に立ち、ヤツらに強烈な咆哮をあびせた。


「⋯これ⋯ルイさん⋯? 薄っすら見えるけど、ほんとにルイさん⋯?」

「ルイ兄、別人じゃん⋯」

『なぜ、人間が虚無限蝶竜(ゼロインフィニット・イーリス・ドラゴン)を扱える!? これは総理が使役していたはずだが⋯いや、こいつは違う⋯私の把握している姿とは違う⋯!?』


 全員に薄っすらルイが見えているようだった。

 もしかして、ルイのL.S.が近かったりとか⋯?


 彼が大型2体を相手にすると、隙間から大臣がこっちへと向かってきた。

 先程とは全く違う格好をしており、右手にレアサファイアの剣、左手に黒い鬼鎌を持っていた。


『⋯オ前ラヲ殺セバアレガ⋯! アノモンスターモ、今日カラ私ノ物ダァァァァァァァ!!!!』


 なんでこいつも紀野大臣と同じ力を持ってるの⋯!?

 あのやり方がAIに学習されて、使われている⋯?


 モンスターを出したまま、あんな事ができるなんて⋯

 そんな事は後、今はコイツをどうにかしないと!


「⋯来るわッ! ヒナ! ニイナ! ノノ! ⋯やるわよッ!」

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