飛行機内に入った瞬間、アナウンスが流れた。
『ようこそ、NJA(ネオジャパンエアーラインズ)の空旅(そらたび)へ。現在、空旅(そらたび)は休止状態となっておりますが、代わりに"睡眠空旅(すいみんそらたび)"を実施中です。座って是非体感してください』
⋯急になに?
"睡眠空旅(すいみんそらたび)"⋯?
歩いて行くと、所々寝ている人がいる。
何やら、今はリラックスルームとして使われているらしい。
この飛行機、やたら広いと思ったら2階建て。
ジャンボジェットってヤツかな?
歩くほどクラスが上がっていき、エコノミークラス、プレミアムエコノミークラス、ビジネスクラス、ファーストクラスとなっていった。
一番奥まで来ると、"スーパーファーストクラス"なんてものまである。
もちろん全席使われており、個室内は見る事が出来ない。
ネットで"スーパーファーストクラス"を調べてみると、個別で浴槽や冷蔵庫など、あらゆる最新小型AIが設置されているという。
⋯いつかゆっくりできる時に、ルイと来てみたいなぁ
2階に上がると、1階と同様に分かれていた。
こっちの方が人気のようで、人が多い。
体感、1階の倍以上いる。
♢
どこを探しても"ルイのL.S."は見当たらず、帰り際に少しだけ"睡眠空旅"とやらを体感してみた。
スイッチを入れて寝ると、どういう仕組みなのか、脳内に"空の旅行風景"が浮かんでくる。
これ凄い、寝ているだけで映像や音などの臨場感を味わえ、もう空を飛ばなくてよくなってくる。
何かデバイスを付ける必要も無いため、気軽にできるのもポイントが高い。
⋯だけど、今はこんな事してる場合じゃない
さっき出て行った人たちは、ここでこうして休んでいたのね。
ヤツらもいないし、住み着いている人も多そう。
いつまで安全かは分からないけど⋯
集合場所へ戻ってくると、私以外みんないた。
見るに、誰も"ルイのL.S."を見つけられなかったみたい。
「ユキ先輩の方も、無かったみたいですね」
「えぇ、次へ行きましょうか」
「ねぇユキちゃん、"睡眠空旅"やってみた?」
「⋯ほんのちょっとだけ」
「やっぱやっちゃうよね~、結局みんなやっちゃったんだ」
「黒夢はしないと思ってたけどね」
「⋯いいでしょ、数秒なんだから」
まぁ⋯やりたくなるよね、あれは。
ニイナがやってるのを想像すると⋯ちょっと面白いかも。
それで、残るのは"3階のみ"になったわけだけど⋯
一旦、アスタ君に連絡してみよう。
「そっちはどう?」
「⋯⋯マズい事になった。僕らは今⋯⋯上空にいる」
「え!? 上空!? どういう事!?」
「⋯分からない」
ニイナとノノが察し、すぐに外へと向かった。
「何者かに邪魔された可能性が高い。機内に探索に入った途端、勝手に離陸を始めたんだ。たぶん今、東京上空を旋回している」
「⋯そんな」
「ただ、第3ターミナルは全て確認できたはずだ。こっちには"ルイ君のL.S."は無いと断定していい」
「え、早くない!?」
「手伝ってくれた人がいたんだ。第2ターミナルの方は?」
「⋯まだ見つかってない。残りは3階だけなんだけど、"行くと殺されるっていう暗黙の了解"があるみたいで⋯」
「厄介だね、それは⋯早くそっちに行きたいけど、僕の予想だと、着陸には5~6時間はかかると見た方がいい。おそらくこの機内⋯⋯"何か"がいる」
「"何か"⋯?」
「⋯さっきから変な音がする⋯⋯こ⋯⋯あ⋯⋯し⋯⋯き⋯⋯える?」
「アスタ君? ⋯アスタ君!?」
「⋯⋯お⋯⋯⋯め⋯⋯だ」
え、切れた!?
急に通話が繋がらなくなってしまった。
何度かけても繋がらない、メッセージも届かない。
「繋がらないの?」
「うん⋯」
ヒナと話していると、
「⋯はぁ⋯はぁ⋯赤い飛行機⋯上空にいるの、微かに見えました」
「⋯ふぅ⋯かなり高いよ、飛んでる位置」
⋯どうしよう
こんな事になるなんて⋯
『⋯ユキ』
「え、ルイ!?」
『出てこれなくて⋯わるいな⋯アスタの事は聞いていた⋯こうなったら⋯俺たちで⋯3階へ行くぞ』
「⋯でも、行くと殺されるって⋯」
『⋯俺が⋯なんとかする⋯信じて⋯行け』
「それだと、アスタ君たちは?」
『⋯あいつらが⋯飛ばされた原因⋯"この3階"にある』
「!? ほんとに!?」
『⋯今俺は⋯"このモンスターの力"が⋯あるからな⋯こいつのセンサーが⋯3階と上空⋯繋がってるのを⋯発見した』
3階と上空が⋯?
一体どういう事⋯?
「ルイさん、なんて言ってるの?」
「⋯3階へ行けって、"アスタ君らが飛ばされた原因が3階にある"みたいで⋯」
「3階って、私絶対行くなって言われた」
「⋯それ私も」
「私もです」
ヒナの言葉に、ニイナとノノが賛同する。
私だけじゃなかったんだ、言われたの。
「でも、ルイがなんとかするって、だから私は行こうと思う」
「ルイ様⋯」
3人は息を合わせたように顔を合わせ、
「⋯行きましょう、3階へ」
「待ってたら、アスタさんたちも危ないもんね! 行こ!」
「決めたなら付いてくだけ!」
一緒に行く事を選んでくれた。
こうなったら、私も責任を持たないといけない。
ちゃんとみんなを、生きてここへ。
「また固まって動きましょ。全部終わらせて、また睡眠空旅しないとね」
― こうして"行くと殺される"という3階へ、私たちは進み始めた