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第78話 羽田

 時間は〈2030.09.26 PM20:35〉。

 外を見ると、真っ暗な都会に赤い光が未だ漂う。


 この中で生き残っている人数は、もう東京人口の半分にも満たない。

 約700万人が殺されるという、前代未聞の死者数になっている事を"あのモノリス"で見てしまったからだ。

 放物線のように、加速的に人が死んでいっている。


 残っている人は、戦う覚悟を決めた人か、上手く逃げ続ている人か、その辺なんだろう。

 これから私たちの未来はどうなってしまうんだろう、そんな不安が常に心を襲い、息苦しくなる。


「おう、新崎さん一人か」


 個室からシンヤ君が出てきた。


「なぁ、羽田空港の国際線は第2ターミナルと第3ターミナルにあるけどよぉ、どうする? どっち行く?」

「⋯そうね」


 そういやそうだった。

 どうしよう。


「アスタが言ってたけどよぉ、女子が2番、男子が3番で分かれて探索しようって話が出てんだけど」


 ⋯第3ターミナルって、新しくなってからよく知らないのよね

 詳しくない私が行くのは足手まといになる可能性がある。

 ⋯それだったら


「そうしましょうか。私たちが第2ターミナルね」


 ここで「一緒に行動しないの?」という言葉が首の根本まで出かかったけど、さっきのアスタ君の言葉がそれをせき止めた。

 "僕の方でも調べたい事がある"、その言葉が。


 羽田が微かに見えてくる頃、ここも"赤い光に包まれている"のが見えた。

 どこまでも"この赤"が付いてくる、逃げる事が出来ない。

 ルイも消えたまま出てこないし⋯


「そろそろ到着します」


 ロアツーのアナウンスが車内に響く。

 このマッサージチェアともしばらくお別れ。

 おかげで、かなり身体の疲れが取れた気がする。


 先に着いたのは第2ターミナル。

 【Terminal 2】と上に書かれた場所の前で車が止まると、


「ねぇ、場所を"国際線のみ"に絞ってるみたいだけど、海外に悪用されるかもしれないからって話からよね?」

「そう。ルイ君は今いない?」

「⋯出てこないわね」

「たぶんルイ君でもそう判断するはずさ」


 私たちは降り、「何かあったらすぐ連絡して」とアスタ君の声が最後に響いた。

 男子組と分かれ、また女子組だけでの行動が始まる。


「また女子だけになってしまいましたね、まぁ望んでの形にはなりますが」

「そうだね~」


 ニイナとヒナが先を歩いて行く。

 そう、前とは違う。

 次はちゃんとみんながいる、連絡だっていつでも取れる。


「それでー⋯国際線ってどこなんだっけ~?」

「2階と3階ですね。順に行きましょう」


 私の横ではノノが歩く。

 ⋯少し様子がおかしい?


「ノノ? どうしたの?」

「⋯ねぇユキ姉。ここ、ヤバいのがいる」

「え⋯?」

「鎌出してみて。ユキ姉のがよく分かるから」

「⋯わかった」


 言われた通り、鎌を取り出す。

 すると、鬼の眼が青く光り、"3階付近?"を示した。

 これは⋯?


「ね? 私の銃剣だと気配しか分からないけど」

「⋯ほんとね。何がいるの?」

「さぁ⋯」


 事前に調べた時には、特に何かがいるようには見えなかった。

 でも、私が見たのは全部"2階までの動画"だったっけ⋯?


「⋯注意して行きましょう。ここには他にも人がいるみたいだから、聞けばいいわ。前みたいに喧嘩にならないようにね?」

「はーい」


 大丈夫かな⋯

 それより3階には何が⋯?


 気にしても今はどうしようもない。

 行く前に、2階でルイのL.S.が見つかるかもしれないんだから。


 そして私たちは、"羽田空港第2ターミナル内"へと足を踏み入れた。

 普段だったらこんな緊張感は感じないのに、妙にざわざわしてしまう。


 1階には、何人か集団行動をしている人を発見した。

 それは、2階に行っても同じだった。


「ここから先、国際線のロビーになりますね。今は無料で出入りできるようです。飛行機にも、4機ほど入れるみたいです」

「2階までは安全そうだし、一人ずつに分かれて飛行機それぞれ行ってみる?」


 ノノが提案する。


「⋯人も普通に出入りしてるみたいだから、それでいきましょうか。何かあったらすぐに連絡か、ここに集合で」

「は~い!」


 2階の他はもう確認した。

 後は飛行機の中を確認するだけ。


 私が担当する方向から、"自衛隊っぽい格好した人たち"が出てきた。

 その後方に一人、ゆっくり歩く20代ほどの男性。

 年齢近そうだし、ちょっと聞いてみようかな。


「あのー、すみません」

「⋯ん?」

「この飛行機の中に、"変わった色のL.S."がありませんでしたか?」

「⋯見てないな」

「そうでしたか」

「L.S.を探すなんて珍し⋯⋯ん? あんた、ELなのか」


 私のL.S.をじろじろと見てくる。


「え、えぇ」

「⋯何の用かは知らないが、他所から来たんだろ。今ここがどういう状況かは知ってるか?」

「え、いや、知りませんが⋯」

「なら教えといてやる。"3階には絶対に行くな"。俺もそう言われて、行かないようにしてる」

「⋯3階に何かあるんですか?」

「よう知らねぇけど、"黒い雪を纏った悪魔"がいるってだけは聞いてる。行ったヤツは殺されるが、行かなければ何もしてこないそうだ」

「⋯教えて頂き、ありがとうございます」

「あぁ、じゃあな」


 ⋯"黒い雪を纏った悪魔"ってなに⋯?

 疑問を脳の片隅に置きつつ、念のために飛行機内の探索をする事にした。

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