時間は〈2030.09.26 PM20:35〉。
外を見ると、真っ暗な都会に赤い光が未だ漂う。
この中で生き残っている人数は、もう東京人口の半分にも満たない。
約700万人が殺されるという、前代未聞の死者数になっている事を"あのモノリス"で見てしまったからだ。
放物線のように、加速的に人が死んでいっている。
残っている人は、戦う覚悟を決めた人か、上手く逃げ続ている人か、その辺なんだろう。
これから私たちの未来はどうなってしまうんだろう、そんな不安が常に心を襲い、息苦しくなる。
「おう、新崎さん一人か」
個室からシンヤ君が出てきた。
「なぁ、羽田空港の国際線は第2ターミナルと第3ターミナルにあるけどよぉ、どうする? どっち行く?」
「⋯そうね」
そういやそうだった。
どうしよう。
「アスタが言ってたけどよぉ、女子が2番、男子が3番で分かれて探索しようって話が出てんだけど」
⋯第3ターミナルって、新しくなってからよく知らないのよね
詳しくない私が行くのは足手まといになる可能性がある。
⋯それだったら
「そうしましょうか。私たちが第2ターミナルね」
ここで「一緒に行動しないの?」という言葉が首の根本まで出かかったけど、さっきのアスタ君の言葉がそれをせき止めた。
"僕の方でも調べたい事がある"、その言葉が。
羽田が微かに見えてくる頃、ここも"赤い光に包まれている"のが見えた。
どこまでも"この赤"が付いてくる、逃げる事が出来ない。
ルイも消えたまま出てこないし⋯
「そろそろ到着します」
ロアツーのアナウンスが車内に響く。
このマッサージチェアともしばらくお別れ。
おかげで、かなり身体の疲れが取れた気がする。
先に着いたのは第2ターミナル。
【Terminal 2】と上に書かれた場所の前で車が止まると、
「ねぇ、場所を"国際線のみ"に絞ってるみたいだけど、海外に悪用されるかもしれないからって話からよね?」
「そう。ルイ君は今いない?」
「⋯出てこないわね」
「たぶんルイ君でもそう判断するはずさ」
私たちは降り、「何かあったらすぐ連絡して」とアスタ君の声が最後に響いた。
男子組と分かれ、また女子組だけでの行動が始まる。
「また女子だけになってしまいましたね、まぁ望んでの形にはなりますが」
「そうだね~」
ニイナとヒナが先を歩いて行く。
そう、前とは違う。
次はちゃんとみんながいる、連絡だっていつでも取れる。
「それでー⋯国際線ってどこなんだっけ~?」
「2階と3階ですね。順に行きましょう」
私の横ではノノが歩く。
⋯少し様子がおかしい?
「ノノ? どうしたの?」
「⋯ねぇユキ姉。ここ、ヤバいのがいる」
「え⋯?」
「鎌出してみて。ユキ姉のがよく分かるから」
「⋯わかった」
言われた通り、鎌を取り出す。
すると、鬼の眼が青く光り、"3階付近?"を示した。
これは⋯?
「ね? 私の銃剣だと気配しか分からないけど」
「⋯ほんとね。何がいるの?」
「さぁ⋯」
事前に調べた時には、特に何かがいるようには見えなかった。
でも、私が見たのは全部"2階までの動画"だったっけ⋯?
「⋯注意して行きましょう。ここには他にも人がいるみたいだから、聞けばいいわ。前みたいに喧嘩にならないようにね?」
「はーい」
大丈夫かな⋯
それより3階には何が⋯?
気にしても今はどうしようもない。
行く前に、2階でルイのL.S.が見つかるかもしれないんだから。
そして私たちは、"羽田空港第2ターミナル内"へと足を踏み入れた。
普段だったらこんな緊張感は感じないのに、妙にざわざわしてしまう。
1階には、何人か集団行動をしている人を発見した。
それは、2階に行っても同じだった。
「ここから先、国際線のロビーになりますね。今は無料で出入りできるようです。飛行機にも、4機ほど入れるみたいです」
「2階までは安全そうだし、一人ずつに分かれて飛行機それぞれ行ってみる?」
ノノが提案する。
「⋯人も普通に出入りしてるみたいだから、それでいきましょうか。何かあったらすぐに連絡か、ここに集合で」
「は~い!」
2階の他はもう確認した。
後は飛行機の中を確認するだけ。
私が担当する方向から、"自衛隊っぽい格好した人たち"が出てきた。
その後方に一人、ゆっくり歩く20代ほどの男性。
年齢近そうだし、ちょっと聞いてみようかな。
「あのー、すみません」
「⋯ん?」
「この飛行機の中に、"変わった色のL.S."がありませんでしたか?」
「⋯見てないな」
「そうでしたか」
「L.S.を探すなんて珍し⋯⋯ん? あんた、ELなのか」
私のL.S.をじろじろと見てくる。
「え、えぇ」
「⋯何の用かは知らないが、他所から来たんだろ。今ここがどういう状況かは知ってるか?」
「え、いや、知りませんが⋯」
「なら教えといてやる。"3階には絶対に行くな"。俺もそう言われて、行かないようにしてる」
「⋯3階に何かあるんですか?」
「よう知らねぇけど、"黒い雪を纏った悪魔"がいるってだけは聞いてる。行ったヤツは殺されるが、行かなければ何もしてこないそうだ」
「⋯教えて頂き、ありがとうございます」
「あぁ、じゃあな」
⋯"黒い雪を纏った悪魔"ってなに⋯?
疑問を脳の片隅に置きつつ、念のために飛行機内の探索をする事にした。