「なにを⋯言ってるの⋯? ここにいるじゃない!」
『これは⋯ユエさんが死後に送ってくれた"特別なアイテム"の効果だ。紀野大臣が使った"赤い注射"の応用で、死ぬ直前に銃剣に打ち込んで、気力だけで"UnRule内"に漂ってる』
「⋯そんな⋯そんなわけないでしょ⋯? あなたがそんな事になるわけ」
『⋯落ち着け、ユキ。"UnRuleの具現化"でこうやって俺がいられるって事は、もしかしたら身体だってどうにかなるかもしれない』
「ほんと!?」
『あぁ。皮肉にも"この具現化"で助けられてる。これを利用するしかない。だから、これから手伝って欲しい事がある』
「⋯わかった、なんでも言って」
ルイの手を握った。
⋯体温を感じない
『⋯見ての通り、俺は完全な状態じゃない。あれはモンスターに打たないと、大臣のようにまで上手くいかないらしい。これを補うには、"俺の持っていたL.S."が必要になる。今付けているL.S.は"UnRule上で体現されているだけの偽造品"だからな』
「なんでそれで上手くいく事が分かるの?」
『⋯俺を殺したのは"未来の俺"だ。アイツは操られて、利用されている。アイツの内にある、"抗う声"が俺に伝わってきたんだ、"お前はL.S.を取り戻せば、実体化してまだ戦える"って』
「未来の⋯ルイ⋯? それって、前に"夢の話"した時に出てきたアレが正夢になったとか?」
『そんな感じかもしれない。本来の目的は、"ユキやみんなを助けたかった"そうだ。それをクソ野郎が邪魔している。アイツも被害者、助けてやらないといけない』
「⋯まだ何となくしか理解が追い付かないけど、まずはL.S.を手に入れればいいのね」
『⋯悪いな。でも、死んだのが俺でよかった。こうやってまだ、引き継ぐ事ができる』
「バカな事言わないで。あなたが戻ってくるのをみんな待ってるんだから」
「そうですよ、ルイ様。私たちは待ってます」
ニイナが傍に来た。
『⋯見えるのか?』
「はい。私とユキ先輩だけにしか見えないようですが」
『⋯俺とユキに関連する物、何か持ってるんじゃないか?』
「ん⋯⋯あ、もしかしてこれでしょうか」
ニイナは左ポケットから"円雪花(えんせっか)のお守りの半分"を出した。
「え、それ私の!」
「実は、ユキ先輩が倒れてる時に拾ったんです。返すのを忘れていました」
これのおかげでニイナはルイが見えてるの?
原理は分からないけど、それなら⋯
「すみません、返します」
「⋯いや、ニイナが持っていて」
「え、なぜですか?」
「それのおかげでルイが見えるなら、どこかで役に立つかもしれないわ」
「⋯了解です」
『⋯懐かしいな。お前の18歳の誕生日に送ったそれ、まだ大事に持っててくれたのか』
柔らかい頑丈ガラスで作られた、立体的に見える特別なお守り。
服裏に張れて邪魔にならない、ルイの手作り。
「だって世界に1個、私だけの物なんだから。ずっと綺麗に持ってたのに、ごめんなさい⋯」
『⋯んなの、また作ればいいだろ』
他のみんなは私たちを唖然と見ている。
でも、ここにルイがいるって事を信じてくれている。
それから彼は"手伝って欲しい事"を話し始めた。
あのL.S.は今、羽田空港に隔離されている事、このままだと海外で悪用される可能性がある事。
「ルイ君の話、終わった?」
「うん。今聞いた事、説明するわ」
こうして、次は羽田空港へと向かう事となった。
ルイも付いてきてくれている。
具合の良い時にしか、姿を出す事ができないみたいだけど⋯
でも、それでもいい。
傍にいる事が分かったんだから。
これから全てを取り戻せばいい。
全員でエレベーターへと乗る。
4階に戻り、ドアが開いた瞬間、
「!? さっきまで何もいなかったのに!?」
赤いネルトが大量に待ち伏せていた。
『⋯ここは任せろ』
「ルイ!?」
彼はなんと、"人型の蝶竜"へと化した。
私が新宿警察署6階で"白いヤツ"に襲われた時、現れた姿まんまだった。
やっぱり助けてくれたのは彼だった。
"白いブレス?"で一瞬にしてヤツらを薙ぎ払い、周りの赤い霧さえも吹き飛ばしてしまった。
「なんか"光ったのから白い炎"が出たけど、今のなに!?」
「ルイがやってくれたの」
「ほぇ~!」
ノノとヒナが触ろうとすると、また彼は消えてしまった。
でも大丈夫、ずっと近くにいる。
また余裕が出来たら、ノノが"昔のあのノノ"だって事、ルイに教えてあげないとね、たぶん気付いてないだろうから。
そして、さっきの慎重さが嘘だったように、あっという間にソラマチ1階へとやってきた。
改めて、私たちは合流できたんだという事を実感する。
少し歩くと、"灰色の何か"が近付いてくるのが見えた。
あれって⋯ロアツーじゃない!?