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第76話 白炎

「なにを⋯言ってるの⋯? ここにいるじゃない!」

『これは⋯ユエさんが死後に送ってくれた"特別なアイテム"の効果だ。紀野大臣が使った"赤い注射"の応用で、死ぬ直前に銃剣に打ち込んで、気力だけで"UnRule内"に漂ってる』

「⋯そんな⋯そんなわけないでしょ⋯? あなたがそんな事になるわけ」

『⋯落ち着け、ユキ。"UnRuleの具現化"でこうやって俺がいられるって事は、もしかしたら身体だってどうにかなるかもしれない』

「ほんと!?」

『あぁ。皮肉にも"この具現化"で助けられてる。これを利用するしかない。だから、これから手伝って欲しい事がある』

「⋯わかった、なんでも言って」


 ルイの手を握った。

 ⋯体温を感じない


『⋯見ての通り、俺は完全な状態じゃない。あれはモンスターに打たないと、大臣のようにまで上手くいかないらしい。これを補うには、"俺の持っていたL.S."が必要になる。今付けているL.S.は"UnRule上で体現されているだけの偽造品"だからな』

「なんでそれで上手くいく事が分かるの?」

『⋯俺を殺したのは"未来の俺"だ。アイツは操られて、利用されている。アイツの内にある、"抗う声"が俺に伝わってきたんだ、"お前はL.S.を取り戻せば、実体化してまだ戦える"って』

「未来の⋯ルイ⋯? それって、前に"夢の話"した時に出てきたアレが正夢になったとか?」

『そんな感じかもしれない。本来の目的は、"ユキやみんなを助けたかった"そうだ。それをクソ野郎が邪魔している。アイツも被害者、助けてやらないといけない』

「⋯まだ何となくしか理解が追い付かないけど、まずはL.S.を手に入れればいいのね」

『⋯悪いな。でも、死んだのが俺でよかった。こうやってまだ、引き継ぐ事ができる』

「バカな事言わないで。あなたが戻ってくるのをみんな待ってるんだから」

「そうですよ、ルイ様。私たちは待ってます」


 ニイナが傍に来た。


『⋯見えるのか?』

「はい。私とユキ先輩だけにしか見えないようですが」

『⋯俺とユキに関連する物、何か持ってるんじゃないか?』

「ん⋯⋯あ、もしかしてこれでしょうか」


 ニイナは左ポケットから"円雪花(えんせっか)のお守りの半分"を出した。


「え、それ私の!」

「実は、ユキ先輩が倒れてる時に拾ったんです。返すのを忘れていました」


 これのおかげでニイナはルイが見えてるの?

 原理は分からないけど、それなら⋯


「すみません、返します」

「⋯いや、ニイナが持っていて」

「え、なぜですか?」

「それのおかげでルイが見えるなら、どこかで役に立つかもしれないわ」

「⋯了解です」

『⋯懐かしいな。お前の18歳の誕生日に送ったそれ、まだ大事に持っててくれたのか』


 柔らかい頑丈ガラスで作られた、立体的に見える特別なお守り。

 服裏に張れて邪魔にならない、ルイの手作り。


「だって世界に1個、私だけの物なんだから。ずっと綺麗に持ってたのに、ごめんなさい⋯」

『⋯んなの、また作ればいいだろ』


 他のみんなは私たちを唖然と見ている。

 でも、ここにルイがいるって事を信じてくれている。


 それから彼は"手伝って欲しい事"を話し始めた。

 あのL.S.は今、羽田空港に隔離されている事、このままだと海外で悪用される可能性がある事。


「ルイ君の話、終わった?」

「うん。今聞いた事、説明するわ」


 こうして、次は羽田空港へと向かう事となった。

 ルイも付いてきてくれている。

 具合の良い時にしか、姿を出す事ができないみたいだけど⋯


 でも、それでもいい。

 傍にいる事が分かったんだから。

 これから全てを取り戻せばいい。


 全員でエレベーターへと乗る。

 4階に戻り、ドアが開いた瞬間、


「!? さっきまで何もいなかったのに!?」


 赤いネルトが大量に待ち伏せていた。


『⋯ここは任せろ』

「ルイ!?」


 彼はなんと、"人型の蝶竜"へと化した。

 私が新宿警察署6階で"白いヤツ"に襲われた時、現れた姿まんまだった。


 やっぱり助けてくれたのは彼だった。 

 "白いブレス?"で一瞬にしてヤツらを薙ぎ払い、周りの赤い霧さえも吹き飛ばしてしまった。


「なんか"光ったのから白い炎"が出たけど、今のなに!?」

「ルイがやってくれたの」

「ほぇ~!」


 ノノとヒナが触ろうとすると、また彼は消えてしまった。

 でも大丈夫、ずっと近くにいる。

 また余裕が出来たら、ノノが"昔のあのノノ"だって事、ルイに教えてあげないとね、たぶん気付いてないだろうから。


 そして、さっきの慎重さが嘘だったように、あっという間にソラマチ1階へとやってきた。

 改めて、私たちは合流できたんだという事を実感する。


 少し歩くと、"灰色の何か"が近付いてくるのが見えた。

 あれって⋯ロアツーじゃない!?

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