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第72話 新入

 シロイズノウから〈瞬間的細氷(インスタント・ダイヤモンドダスト)〉を選んだ瞬間、前方に小規模な吹雪が発生し、小さく鋭い氷柱が辺りを飛び散った。

 それらは的確にヤツらを貫通し、徐々に立ってる数を減らしていく。


 さっき使えなかったから怖かったけど、根拠の無い自信が突き動かした。

 疲れがほとんど無い私がやるしかない、その思いが。


 すると"パトカーの音?"が突如鳴り響き、その音でヤツらが一斉に起き始めた。

 今いるヤツだけでなく、さっき倒されていた者まで起こされてしまっていた。

 よく見ると、ヤツらの内部にあの"赤いアレ"が潜んでいるようで、それが全てを修復している。


「⋯なによ⋯こんなの」


 思わず漏れた一言の後、一瞬の風が背後から靡いた。


「各員! 彼女の支援を! 前は私たちがやるッ!」

「は!」


 松竹梅の三銃士が集い、起き上がりを潰そうとする。

 私の横には新宿花伝のみんなと、


「ユキ姉、ありがとね。みんなのために」


 隣に来るノノ。

 すぐ後にニイナとヒナも来ると、


「"これ"にする条件の時に私が返した言葉、忘れたんですか? 勝手に破ろうとしないでください」

「こっちだってもっとやれるよ! ユキちゃん!」

「⋯ごめんね。ありがとう」


 安堵の息が漏れた。

 一人で何もかもやらなくていいんだって。

 疲れてるだろうに、他人に任せたいだろうに。


 それにこんな状況なら、誰かが勝手にエレベーターで逃げてもおかしくない。

 なのに、誰一人として逃げず、現状に向き合っている。

 運がいいんだろう、私は⋯こんな人たちに会えて、こんな人たちと戦えて。


 だからもう死なせたりしない。

 ここにいる全員でちゃんと帰りたい。


 でも、その思いも薄れ始めていた。

 何度倒しても"パトカーの音?"がどこかから鳴り、埒が明かない。

 原因がどこにあるのか、探す余裕が全然無い。


「⋯まずいな、さらに増えている」


 カレンさんの視線の先、下から増援も上がって来ていた。

 あれは⋯"殺された人たち"⋯?

 もしかして、ここまで来れたのは運が良かっただけで、他の人はあれらにずっと邪魔されていた?


「これが"死人の巣窟の本性"という事か⋯ゾンビとやり合う方がよっぽどマシに見えるな。竹、松、まだくたばるなよ」

「当たり前だ、まだ日課トレーニングの域は超えとらん。なぁ、松?」

「⋯すまん、ちょっとキツい。ごほっごほっ⋯熱があるらしい、頭がガンガンする」


 どうしよう、松の人に限界が来てる。

 いや、もうほとんどの人が限界に見える。

 こんなの⋯どうしたら⋯


「(ユキ⋯聞こえるか)」


 !?


「(その反応⋯聞こえてるんだな)」


 どこ⋯どこにいるの!?

 見回してもどこにもいない。


「(そこに俺はいない⋯いいか、よく聞け⋯"鬼の光る先"を見てみろ⋯そこを狙え)」


 それから彼の声はもう聞こえなくなった。

 泣きそうになった気持ちを抑え、今はその事実があった事だけを胸に仕舞う。


 "鬼の光る先"⋯この青く光った先?

 それは右奥の天井を示していた。


 そこには確かに"変な窪み"があった。

 彼を信じ、私は氷の真空斬をあの場所へと飛ばす。


 すると、"大きな赤いアレ"が降ってきた。

 これがずっと邪魔してたってこと?


「"アレ"を狙ってください! おそらく"アレ"が蘇る原因です!」

「なに!?」


 カレンさんと私が同時にヤツへと向かう。

 最中、ヤツは突然"あの白いヤツ"へと変異し始めた。


「なんだこいつは!? "6階にいたアイツ"になったのか!?」

「⋯今の私たちならやれます!」


 さっきできなかった、私にしかできない事⋯!

 シロイズノウから〈ハイパーファントム・インヴァース〉を放った一撃。

 伸びた影による追加攻撃も行われ、当てる毎に影が倍に増え続けていった。


 1体、2体、4体、8体、無限に増え続ける中、さらにはカレンさんの完璧なサポートも入る。

 途中、ヤツが弓を構えたタイミングで、後ろから"ミサイルのような矢"と"白黒の槍"が飛んできた。


「⋯ニイナ! ヒナ!」

「弓対決で負けるわけないですから」

「次は助けるからね!」

「⋯よし! 後は任せろッ!!」


 最後はカレンさんの凄まじい剣撃が行われた。

 地面と天井に"大きな梅の花"が咲き、そこから大量の剣が上下で交差した。

 ヤツはとうとう耐え切れなくなったようで、溶けるように消えていった。


「⋯あ! こっちのが倒れていくよ!」


 ヒナの言う通り、赤いネルトや警官たち、死人の増援も次々倒れていく。

 やっぱり"アイツ"が原因だったんだ。


「下川委員長、もう出てきて大丈夫です」

「⋯私の権限を使って散々な事をしているようだったが、あんなモノまで用意しているとはな。諸君ありがとう、さすがここまで来た強さだった。これが噂に聞く"ELに選ばれた者の力"か」

「下川委員長も"UnRule"をご存知なんですか?」

「AIへの対抗手段として浸透してるからな。だが、まだ始めていないんだ。やる前に捕まったからな」


 ニイナと下川委員長が話している。

 たぶんもう何も襲ってこない⋯と思いたい。


「ふぅ、いい連携だったな」

「頼もしかったです、本当に助かりました」


 カレンさんとかたい握手を交わす。


「さぁ、先にエレベーターへ。行方不明の仲間がこの先へ行ったかもしれないぞ」

「⋯いいんですか?」

「それが目的だろう? 私たちは後でどうとでもなるよ。さぁ早く行って、さらに遠くなる前に」

「⋯ありがとうございます」


 譲ってもらったエスカレーターに私、ヒナ、ニイナが乗る。

 下川委員長は見守るように外側から敬礼し、「黒夢警官! これは命令だ! 信じる仲間と最後まで生きるように!」と。


「は!」

「ニイナちゃんの敬礼するところ、初めて見たね」

「声の出し方、新宿花伝と被ってない?」

「うるさいですよ先輩方、いいから行きますよ」


 エレベーターが閉まろうとした瞬間、一人がカレンさんに押されて乗ってきた。


「ノノ、そっちでは言う事聞くんだぞ」

「代表!?」


 エレベーターは動き出してしまい、B20Fへと向かい始める。


「えーっと⋯新宿花伝クビになったみたい」

「なら、一緒に来るしかないわね」

「⋯よろしくお願いします」


 ここから、ノノ含めた女子4人で行動する事になった。

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